リアル突撃!信長の「いいね」は血の匂い
「ログインできぬ! なぜだ! パスワードが違うだと!?」
尾張の清洲城。
織田信長は、手にした最新型デバイスを床に叩きつけようとして、思いとどまった。これの中には、これまで集めた美濃や近江の攻略データ、そして秘蔵の「南蛮渡来の茶器(画像)」が詰まっている。
「……あ、あの。殿、それはパスワードを誰かに書き換えられたのでは……」
「黙れ! 予は『天下布武1234』から変えた覚えはないぞ!」
一方、京都。
「ぷぷぷ……見たか駆! 信長の公式アカウントが沈黙しておる! 投稿が止まったぞ! ざまぁみろ、これが将軍を蔑ろにした罰だ!」
足利義明は、勝利の美酒(プロテイン入り健康ドリンク)を煽り、血圧計の数字が少し下がったことに安堵していた。
「あー、将軍。あんまり喜ばない方がいいっすよ。信長さん、ログインできないストレスを『筋トレ』と『進軍』にぶつけ始めたみたいっすから」
「……進軍?」
義明の顔が、一瞬で土気色に変わる。
駆がタブレットで見せたのは、位置情報共有アプリ(ゼンリー風)の画面だった。そこには、赤いアイコンが爆速で京都に向かって北上してくる様子が映し出されていた。
「これ、信長さんのアイコンっすね。……あ、速い。新幹線並みの速さで移動してますよ。あ、つぶやきが更新されてる。『パスワード忘れたから、直接聞きに行く。あと、ついでに京都、占拠するわ』」
「ひっ、ひぃぃぃぃ! リアル突撃ではないか! 駆! 逃げるぞ! どこへ逃げればいい!? ログイン画面のトラブルで殺されてたまるか!」
義明は御所の中を右往左往し、大切な黄金の自撮り棒を必死に抱きかかえた。
「落ち着いてくださいよ。まだここに来るまで距離ありますし。あ、でも……途中の三好さんや六角さんのテリトリー、信長さん全部『ブロック』を物理的に解除しながら突き進んでますよ。結果的に将軍の敵を掃除してくれてますね」
「それは助かるが……最後に殺されるのは予ではないか! 駆、お前のあの『謎の能力』で、なんとか信長の足を止められんのか! ルーターを爆破するとか!」
駆は鼻をほじりながら、空いている方の手でスマホを操作した。
「んー、じゃあ、信長さんの画面に『システムアップデートを開始します。残り時間:48時間』って表示させときますね。これ、一番イライラするやつっすから」
「おお……! 48時間もあれば、予は琵琶湖の底にでも隠れられる!」
しかし、その時。義明のスマホに一通の通知が届いた。
差出人は、先ほど通信が途絶えたはずの武田信玄からだった。
【武田信玄:電波復旧。将軍、さっきのガビガビのスクショ、面白かったから『裏・戦国まとめサイト』に投稿しておいたぞ。今のうちにフォロワー増やしておけ。】
「信玄ーーーーっ!! お前、副将軍の交渉中に何をしてくれるのだ! 予の半開きの顔が全世界に晒されたではないか!」
義明の血圧計が、ついにエラー音と共に火花を散らした。
「あ、将軍。今の怒り顔、またスクショ撮られちゃいましたよ」
「駆!! お前、誰に送った! 誰に送ったのだぁぁぁ!」
信長が物理的に迫り、信玄がネットで晒し、家康は既読をつけずに寝ている。
義明の、平穏な引きこもり将軍ライフは、まだ一歩も前進していなかった。




