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 求む、副将軍(※ただしフォロワー100万以上)





「駆! 予は決めたぞ。もう信長のような『不遜な成り上がり』には期待せぬ!」




義明は、乱れた烏帽子をなぎ倒しながら、血圧計の加圧ベルトを自ら巻き直した。液晶画面には『210/115』という不穏な数字が点滅しているが、今の彼を動かしているのは健康不安よりも強烈な「承認欲求」だった。




「いいか、全国にはまだ、予を知らぬだけで、心の底では幕府への忠誠心に燃える『まともな大名』が潜んでいるはずなのだ。そいつを見つけ出し、スカウトするのだ!」




「スカウトって……将軍、うちの幕府、今かなりホワイト企業とは言い難いっすよ。残業代(恩賞)も出ないし、社風(格式)だけは無駄に厳しいし」




駆は、御所の柱に背中を預け、誰と通信しているのか、ニヤニヤしながら高速でフリック入力を続けている。




「黙れ! 予には切り札がある。……『副将軍』のポストだ!」




義明は鼻息を荒くし、スマホのメモ帳を開いて「副将軍・候補リスト」という文字を打ち込んだ。




「どうだ駆、この響き! 幕府のナンバー2、将軍の右腕、公式マーク付きの共同経営者パートナーだぞ! これを餌にすれば、各地の有力大名どもが『ぜひ私を!』と、DMの通知が止まらなくなるはずだ。さあ、今すぐまともな大名を探せ。条件は、幕府のために命を掛け、予の自撮りに必ず『いいね』を押し、かつ、兵力がそこそこある奴だ!」




駆は「へいへい」と生返事をしながら、検索エンジンに『戦国大名 忠誠心 ランキング』と入力した。




「えーと、まともそうなの……あ、この人どうすか? 朝倉義景さん。北陸の越前で、めちゃくちゃ文化レベル高い生活してますよ。インスタの投稿も、雪景色と和歌ばかりで上品です」




「朝倉か……。あ奴は名門だからな。予の気品についてこられるかもしれん。……よし、DMを送れ! 『副将軍のポスト、検討してやってもいいぞ。とりあえず上洛のスケジュールを共有せよ』とな!」




「送りました。……あ、一瞬で既読ついた。早いっすね」




義明は身を乗り出し、駆の手元を覗き込む。しかし、返ってきたのは、美しい雪景色の写真とともに添えられた、あまりに冷ややかな一言だった。




【朝倉義景:今はカニのシーズンなので、領国を離れられません。副将軍より、タグ付けされたカニの方が大事です。】




「カニィィ!? 予より、幕府の栄光より、甲殻類の方が大事だというのか! おのれ越前のグルメ野郎め!」




義明の血圧が再び急上昇し、顔が紫がかってくる。




「次だ! 次を探せ! 誰か、誰かおらんのか! 命を掛けるような熱い男は!」




「あー、じゃあ、この人は熱そうですよ。斎藤龍興さん。美濃の若手です。親父さんの代から色々揉めてるみたいですけど、今なら『新体制』に乗りたい時期じゃないっすか?」




「美濃! 信長の義理の兄弟ではないか。そこを取り込めば信長への当て付けにもなる! 送れ、今すぐ『副将軍・内定』の文字をデカデカと送るのだ!」




数分後。駆のスマホが震えた。




「あー……将軍、龍興さんから動画が届きましたよ」




画面に映し出されたのは、宴会でどんちゃん騒ぎをしている龍興の姿だった。彼はカメラに向かって中指を立て、マイクを握って叫んでいる。




『将軍なんてオワコン! 時代は美濃のパリピ! 副将軍とか縛りプレイ、マジ勘弁w』




義明は静かにスマホを畳に置いた。




「……駆。予は、予はもうダメかもしれん。この国には、上も下も、ふざけた奴しかおらぬのか。予の顔を見るだけで涙を流し、忠誠を誓うような、古き良き武士道は死んだのか……」




ガックリと項垂れる義明。その背中は、現代の孤独な中間管理職そのものだった。




すると、駆が少しだけ真面目な顔(に見える表情)で、画面をスクロールした。




「……将軍、一人だけ、変なのがいますよ。DMじゃなくて、わざわざ『公式ウェブサイト』のお問い合わせフォームから長文送ってきた奴」




「何……? 誰だそれは」




「えーと、甲斐の武田信玄。『今の幕府にはセキュリティが足りない。私が副将軍として、強力なファイアウォール(武田騎馬隊)を構築してやってもいい。ただし、月額の保守費用(領地)は高くつくぞ』……だって。これ、どうします?」




「信玄……! あの、SNSのアイコンが常に『風林火山』の文字だけで、一切私生活を見せない、ミステリアスな大物か!」




義明の目に、怪しい光が宿る。




まともな忠臣は見つからない。ならば、この「猛獣」を副将軍という鎖で繋ぎ、他の大名を見返してやるのはどうか。




「よし駆、信玄とZOOM面談のセッティングだ! 予の威厳を、バーチャル背景(金屏風)越しに見せつけてやる!」




「了解っす。あ、でも信玄さん、山奥すぎてWi-Fi死んでるみたいですよ。画面ガビガビになると思いますけど、いいっすか?」




「構わん! 繋がっているという事実が大事なのだ!」




義明は必死に身なりを整え始めた。




一方、駆は義明に見えないところで、こっそりと信長の「裏アカウント」にメッセージを送っていた。




『【速報】将軍、武田と密談開始。これ、リークしたら面白くないっすか?w』




駆の指先が、歴史の歯車を狂わせる。義明の血圧は、まだ下がる気配を見せなかった。

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