一斉送信!将軍就任(既読スルー)の乱
「ふふふ……駆よ、見たか。ついにこの時が来たぞ」
室町御所の奥の間。足利義明は、金箔が施された特注のスマートフォンを掲げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。画面には、全大名強制参加のグループライン『日本を統治する会』が立ち上がっている。
「予の将軍就任の挨拶だ。これを送れば、日本中の大名が『待ってました!』とスタンプの嵐を巻き起こし、挙って上洛(リアルイベント参加)を申し出るに違いない。予の美顔を見るために、京都は人で溢れかえるぞ!」
「はぁ、そうすか。ポチッといっちゃってください」
後ろで天野駆は、膝を立てて鼻の穴に指を突っ込みながら、天井のシミを数えていた。
「えいっ!」
義明が震える指で送信ボタンを押すと、全大名に向けて
【祝・第15代将軍就任!つきましては各自、最高の貢物を持って京都に集合すること(強制)】
というメッセージが飛んだ。
数分後:阿鼻叫喚の通知画面
「……あれ? 駆、おかしいぞ。通知が止まった。誰も『おめでとう』と言わぬ」
義明の顔から血の気が引いていく。血圧計の数値がじりじりと上昇を始めた。
織田信長:既読がついた瞬間に
「忙しい。今、天下布武してるから」
という一言と、燃え盛る寺の画像をアップ。
三好長慶:【三好グループが退会しました】
毛利元就:「三本の矢を折る動画」をTikTokに投稿し、暗に「まとまる気はない」と表明。
伊達政宗:「まだ生まれてないので無理ポ」という無理のある嘘(※実際はまだ幼少期)
「な、な、な……っ! 織田の無礼千万な返信を見ろ! 三好は退会したぞ! 駆、これは謀反か!? ネット炎上か!?」
「あー、信長さんは『今忙しい』って自動返信設定にしてるだけじゃないすか? 三好さんは、たぶん通信制限かかったんですよ。気にしすぎっすよ、将軍」
駆は適当に受け流しながら、自分の端末でソシャゲのガチャを回している。
唯一の光と、止まらない動悸
絶望に打ちひしがれる義明の画面に、一件の通知が届く。
上杉謙信:「義により参上つかまつる。ただし、毘沙門天の加護がWi-Fiに届く範囲で」
朝倉義景:「検討します(※行かない時の定型文)」
「おぉ……謙信! さすがは義の男よ! 唯一のフォロワーだ!」
一瞬喜ぶ義明だったが、ふと見ると、グループの「ステータス」欄に
【義明・キモい】
という匿名の書き込みがされているのを発見してしまう。
「誰だ! 誰だ今の書き込みは! 武田か!? それとも北条か!? 駆、今すぐ発信源を特定せよ! 私の繊細な心臓が止まったらどうするのだ!」
「はいはい。とりあえず血圧の薬飲んで寝ましょうねー。あ、今の愚痴、僕が裏垢でポストしておきますから」
「やめろぉ! 予の威厳が、予の承認欲求がぁぁ……!」
京都の夜に、義明の悲痛な叫びと、駆の「ガチャ外れたわー」という呟きが虚しく響き渡るのだった。




