サービス終了(滅亡)のカウントダウン〜二条御所、強制ログアウト〜
「既読がつかぬ……! 誰一人として、予のSOSに既読をつけぬのだ、駆!」
元亀4年(1573年)
京都・二条御所は、織田信長が率いる数万の「物理デリート部隊」によって完全に包囲されていた。
足利義明は、もはや充電切れ寸前のスマホを握りしめ、暗い部屋の隅でガタガタと震えている。
「武田は死に、浅井・朝倉は圏外……。予がこれほどまでにDMを送っているのに、皆、通知をオフにしていやがる! おのれ信長、予を……室町幕府という伝統あるコミュニティを、たった一人の独断でBAN(追放)するつもりか!」
「将軍、もう諦めましょう。信長さん、さっき『室町幕府、本日をもってサービス終了。長らくのご愛顧ありがとうございましたw』って全ユーザーに公式通知出しちゃいましたよ」
天野駆は、迫り来る織田軍の足音を聞きながら、比叡山で回収した「足利家の秘伝データ」を自身の端末にロードしていた。
二条御所:最後の「拒否」
門の外では、信長が巨大なスピーカー(拡声器)を使い、最後通牒を突きつけていた。
「義明! 貴様の『将軍』という名の管理権限は、今日この時をもって剥奪する! 悪質なデマの流布、および複数の不適切なコミュニティ(包囲網)への加担……。これ以上ログインし続けるなら、物理的な初期化(焼き討ち)を開始するぞ!」
「嫌だ! 予は将軍だ! 予が消えたら、誰がこの国のタイムラインを監視(統治)するのだ!」
義明は最後の抵抗として、信長に「ブロック」をかけようとしたが、指が震えて操作ができない。その時、駆が義明の肩を叩いた。
「将軍、僕の『隠しコマンド』、使いますか?」
「隠しコマンド……? それを使えば、信長を追い払えるのか!?」
「いや、追い払うのは無理っすけど……将軍の『データ』だけは、別の場所にバックアップ(亡命)させることができます。比叡山で見つけた足利家の結界プログラム……これを使えば、信長の物理攻撃を一時的に無効化して、裏口から脱出できますよ」
幕府滅亡:強制ログアウトの瞬間
信長の合図と共に、二条御所への一斉攻撃が始まった。炎が上がり、壁が崩れる。しかし、義明が目を閉じ、駆が端末のエンターキーを叩いた瞬間、御所の周囲に青白いデジタルな結界が展開された。
「な、なんだこれは……!? 攻撃が通らぬ!」
織田軍が困惑する中、義明と駆の姿は、光の粒子となって御所の裏手へと転送されていった。
数時間後、焼け跡に残されたのは、義明が愛用していた「金箔貼りのスマホ(画面バキバキ)」だけだった。
信長はそれを拾い上げ、フッと鼻で笑った。
「……時代遅れのOSは、もう必要ない。これからは、俺が新しい『天下の基盤』を構築する」
鞆の浦:電波の届かない安らぎ
数日後。
備後国(広島県)・鞆の浦。
穏やかな波音だけが響くその場所に、義明と駆の姿があった。
「駆……ここ、電波が一本も立っておらぬぞ。予のフォロワー数も確認できぬ……」
「いいじゃないっすか。たまには『デジタル・デトックス』ですよ、将軍。信長も、まさか将軍がこんな僻地で『オフライン生活』してるとは思わないでしょうし」
義明は、しばらく自分の手のひらを見つめていたが、やがて小さく溜息をついた。
「……不思議なものだな。通知が来ぬというのは、これほどまでに……血圧が安定するものなのか」
「でしょ? まぁ、僕が気が向いたら、時々『衛星回線』繋いであげますから。今はゆっくり休んでくださいよ」
駆は、海を見つめる義明の背中を、スマホではなく自分の「目」で焼き付けた。
室町幕府という巨大なアプリは、ここに完全に「終了」した。しかし、一人の「臆病な男」としての義明の物語は、この静かなオフラインの地で、密かに続いていくのであった。




