甲斐の虎、西上(ログイン)開始!〜三方ヶ原の回線落ち〜
朝廷の「公式通知」と義明の「副将軍ポストのチラつかせ」に、ついにあの男が本格的に動いた。
「……時は来た。甲斐の山奥はもう飽きた。これからは『リアル』の時代だ」
甲斐のオフィス(本陣)で、武田信玄が重厚な漆塗りのタブレットを閉じる。彼が立ち上がると同時に、背後の「風林火山」の旗印が、スマートフォンのアンテナ表示のごとく、風にたなびいた。
信玄の西上開始。それは、戦国SNS界における「最大手配信者のコラボ突撃」に匹敵する衝撃だった。
三方ヶ原:徳川家康、絶望の「圏外」
信玄の進軍ルートに立ち塞がったのは、三河の徳川家康だ。彼は信長から
「援軍送るから、とりあえず粘ってw」
という適当なリプライをもらい、必死に防衛ラインを構築していた。
「……駆さん、助けてください! 信玄さんの『騎馬隊・物理ブースト』が強すぎて、うちのサーバー(三方ヶ原の陣)が次々とダウンしてます!」
家康は泣きべそをかきながら、現場から必死にZOOMで駆に相談する。しかし、駆はこたつでみかんを食べながら画面越しに答えた。
「あー、家康さん。信玄さんのアカウント、今『無双モード』に入ってるんで。下手にブロックしようとすると、端末ごと爆発しますよ? とりあえず、ログアウト(撤退)を推奨します」
「そんなこと言ったって! あぁっ、信玄さんが『魚鱗の陣・マクロ』を組んで突っ込んできた! 通信が……死ぬ……っ!」
信玄の圧倒的な兵力(帯域幅)の前に、徳川軍は瞬く間に粉砕された。家康はあまりの恐怖に、自身のステータス画面に「脱糞なう」という最悪の誤爆投稿を残したまま、浜松城へと逃げ帰った。
義明の狂喜と、信玄の「システムエラー」
京都の足利義明は、この速報を見て小躍りしていた。
「見たか駆! 信玄が、あの信長の盟友・家康をボコボコにしたぞ! これで信長も予に媚びを売るしかなくなる。信玄こそ、予が求めていた『最強の課金勢(忠臣)』だ!」
義明は、信玄に
【副将軍・内定おめでとう! 早く京都に来て、予と一緒にインスタライブをやろう!】
と、ハイテンションなDMを連打した。
しかし。
信玄の快進撃が止まった。それも、家康を倒し、いよいよ信長をデリートしようという、歴史のクライマックス直前で。
「……グ……ガハッ……!?」
進軍中の信玄が、突然馬上で胸を押さえた。彼の視界に、真っ赤なエラーログがポップアップする。
【警告:本体のハードウェア(肺)に致命的な損傷。冷却システム(休息)が不足しています。強制終了(退却)を開始します】
「……おのれ……あと一歩……あと一歩で、京都の……無料Wi-Fiに……手が届くというのに……」
信玄は、義明からの「ライブやろうぜ!」という大量の通知を見つめながら、最期の力を振り絞ってステータスを更新した。
【武田信玄:今日は体調悪いんで、ログアウトします。しばらく不在。三年間は『アカウント削除』したって言わないでね。】
義明、絶望の「未読無視」
「駆……。信玄が……信玄が退却した。DMを送っても、既読がつかぬ。どういうことだ。予を……予を置いていくのか……っ!」
義明の血圧計が、再び警告音を鳴らす。
「あー……将軍。信玄さん、どうやら『サービス終了(永眠)』みたいっすよ。メンテナンス(薬)も間に合わなかったみたいで」
「そんな……嘘だ! 予の副将軍が! 予の、信長に対抗できる唯一の希望がぁぁ!」
義明はスマホを抱きしめ、二条御所の床をのたうち回った。
一方、駆は信玄が残した「未完成の攻略Wiki」をこっそり自分のクラウドにバックアップしながら、一筋の冷めた視線を東へ向けた。
「信玄さんが消えたってことは、もう信長さんを止める『ファイアウォール』は無くなったってことっすね。……将軍、そろそろ本気で『物理的な引っ越し』の準備、しといたほうがいいっすよ」
義明の絶叫が響く中、信長のアイコンが不気味に赤く輝き始めた。
室町幕府、サービス終了の足音が、一歩ずつ近づいていた。




