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登校

「ねえ、そうや。君はいつもこの道のりを歩いて通ってるのかい」


ヘレンは40分ほど歩いてようやく遠くに影を掴めた学校を見て、疲れ果てた声で問いかけてくる。


「いや、いつもは原付で通ってるんだか二人乗りはなあ。バスもちょうどいいのが通ってねえんだ」


「そうかい、ならば仕方がない。僕の故郷じゃこんなに気温が上がることはないからちょっと疲れちゃってね」


「これでも日本の中じゃ一番北で涼しい地域なんだぜ北海道は」


「ふふ、ならばここ以外で記憶が戻っていれば私はもうダメだったかもしれない」


ヘレンはそう言ってわざとらしく肩をすくめた後に、意を決して歩き出す。 犬のようにハッハッと息を吐く彼女に、思わず俺は笑みをこぼしながら、小走りで道が分からないであろう彼女を先導するように前へと躍り出る。


学校に近ずくにつれて、段々と我が校の生徒も増えていく。ここで俺はあまり想定していなかった事態に直面し、思わずため息をつく。

当然のことではあったが、この田舎町において同年代の西洋人、それも白髪の美少女とくれば、さすがに注目の的だ。そして、また俺もこの高校においてあまり良くない印象で悪目立ちして、それ以降良くない注目を浴びる対象である。

そんな俺と制服も来ていないそんな少女が朝ともに登校しているとなると周囲はもう騒然だ。

そんな注目に嫌気が刺し、俺はヘレンの手を掴み早足で学校へと向かう。すると、周囲から黄色い歓声が湧き、ヘレンは戸惑うように上目遣いで俺を見上げてくる。

しかし、俺は意図的その視線を無視して、口を固く閉ざしたまま、ズンズンと早足で彼女の手を引いた。







教室に着くと同時にここに来るまでの好奇の視線に疲れ果て机につっ伏す。

ヘレンは学校に着くなりた事前に話を通していた担任に任せ、すぐに解散した。

放課後まで保健室に置いて貰えるらしく、今は保健室の先生に連れられて図書室に赴き、暇つぶしのための本を借りに行く予定らしい。

突然の話だったのに色々と面倒を見てもらい、今度菓子折りでも持っていったほうがいいのか、だが生徒がそんなことをするのはおかしいのか、なんてことを真剣に考えていたら、急にパシーンという音ともに俺の背中に鈍い痛みが走る。


「おはようさん、お前随分と噂になってるじゃないか」


「ッッッッ痛ってぇな、静かに挨拶しやがれ。それに噂ってなんのことだよ」


面倒くさいやつが来た。こいつは田中赫。俺と同じく学校をサボり気味で今日は休んでくれる事を祈っていたが、どうやら無神論者の祈りはやはり無駄だったらしい。

自称 俺の親友であり、一昔前の表現ではあるが、いわゆるチャラ男というのが一番しっくりくるタイプの、学校一にモテる男。魔術等には一切関わりを持たない男ではあるが、やけに勘が鋭く、ヘレンについて嘘をつくのも面倒だ。俺はそう思い、せめてもの抵抗で精一杯とぼけてみるも、こいつのニヤケ面からして無駄そうだ。


「とぼけないでくれよォ、お前今朝異国の超絶美少女と仲良く手を繋いで投稿してきてたんだろお」


「っクソ。アレだあいつは外国の親戚でちょっと用があって訪ねてきたから家にひとり置いておく訳にも行かず学校に連れてきただけだ勘違いすんな」


「嘘だね。蒼哉の元に親戚なんて訪ねてくるわけないだろ。おいおい、なんで隠すんだ。俺と愛について語ろうよ」


こいつに自分の家庭事情の一端を説明した過去の俺をうらみながら、強引に肩を組んでくる田中を引き剥がして真剣にもう一度伝える。


「確かに、親戚ってのは嘘だが、あとのことはほんとだ。なんもやましい事はねえ」


「なあんだ、つまんないな。お前に愛する人ができたと聞いて、サボるつもりだった学校までとんできたのにさあ」


「なんじゃそりゃ。俺の言うこと信じるのかよ」


「蒼哉はさあ、その目で嘘をつくことないから。そんなことより本当に蒼哉に恋人ができたら教えてね。今度こそ一番に駆けつけてお祝いするから」


そんな、見透かしたような事を言いながら、田中は教室から出ていく。

やけに諦めがいいというか、引き際をわかっているのがこいつのモテる秘訣なんだろうか、とか易体のないことを考えながら、一応その自由奔放な背中を呼び止めてみる。


「おい!どこ行くんだ」


問いかける俺に背中を向けたまま、田中は手をひらひらと振る。


「帰るのさ。君の話以外に用はないから」


「なんだアイツ.........」


わざわざそんな事のために学校に来たのかと、呆れながら、もしかしたら魔術を抜きにした俺の境遇をある程度知っている田中は、俺に恋人ができたことを本当に嬉しく思い、急いで学校まで駆けつけてくれたのかもしれない。

そう思うと照れくさくも嬉しく、そしてこんな俺に友情を感じてくれていることを申し訳なく思う。


田中が居なくなった教室には俺に話しかけるやつなどいなく、俺は朝のホームルームまでの僅かな時間をどっと疲れた体に逆らうことなく睡眠へと費やすことにきめた。








帰りのホームルームが終わり、ヘレン迎えに保健室へと足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。

ヘレンを中心に保健教諭を含めた我が校の若手女子教諭6人全員がお菓子をたべさせたり、頭を撫でたりなど思い思いの可愛がり方をしてて、ヘレンはというと満更でもない顔でおもてなしを享受している。

俺は恐る恐るヘレンに近ずくと俺に気がついた彼女はその異様な和の中からスムーズに飛び出しこちらに向かってくる。


「おかえり、そうや!学校お疲れ様」


「お、おう、ただいま。何してたんだてめえ。先生方に迷惑かけてねえだろうな」


「うん、お姉さんがたはみなとても良くしてくれてとても楽しい時間であったよ」


ヘレンのその言葉に後ろに控えた女子教師陣から黄色い悲鳴が上がる。

俺はその様子に朝話しをした田中の姿を幻視し、なるほど奴と同じタイプの人たらしであったかと、自分の中で勝手に納得していると、保健教諭がこちらに話しかけてくる。


「大丈夫よ中津くん、ヘレンちゃんとってもいい子で、先生が逆に相談にのってもらったくらいなんだから」


「そっすか、よかったっす」


「それよりも!朝、中津くんの家から歩いてきたんだって?遠かったでしょ、帰りは先生が車で送ってあげるから、乗っていきなさい」


「いや、そんな世話になる訳には」


「ダメ!!中津くんは大丈夫でもヘレンちゃんはか弱い女子なのよ!」


「……はい。ありがとうございます。」


何があったのか検討もつかないが、ヘレンに対する母性にも似たただならぬ感情を保健教諭から感じ、その気迫に押し切られ俺は思わず、承諾とお礼を言わされてしまい、当事者であるヘレンはなんだかニコニコと笑いながらこちらを見つめていた。


職員室に寄って一週間程の休学申請を出し学校を出ると、校門前に保健教諭の車がつけてあり、後部座席ではその小さい体をさらに縮こませてヘレンが眠っている。

俺が助手席に乗り込むと住所は名簿で確認していたのか、説明を待たずにきちんと家の方向へと車を走らせる。


「ありがとうございます。ただでさえ一日部外者の面倒を見てもらったのに、家まで送って貰って」


「大丈夫よ、彼女本当にてまのかからない子だったし、さっき言った通り私の方が面倒かけちゃったくらい」


「それなら良かったです」


俺が教師と二人きりの空間(後ろにヘレンが寝ている)にドギマギしながら視線をおろおろと動かしていると、それを察したかのように保健教諭はくすりと笑って話題を提供してくれる。


「中津くんのことは、私も色々と心配してたの入学式であんなことがあったり」


「その節は誠に申し訳ございません」


急にウィークポイントを刺され、ショックを受けながら平謝りをする俺に、保健教諭はすぐさま否定の言葉を紡ぐ。


「全然、気にしないで!確かに入学早々教師をボコボコにして病院送りにしたのは驚いたけど、あれはあいつが悪かったし。それに担任教師と保健教諭にはあなたの経歴も一応開示されてるから」


「そうだったんですね」


「だから、あなたとあの子の関係性が嘘だってこともわかる」


その鋭い言葉に思わず黙り込んでしまう俺を横目に、しばらく車内を沈黙が支配する。

そんな緊張感に支配された空間を保健教諭の浅いため息が壊し、口を開く。


「それでも、ヘレンちゃんの話を聞く限り悪いことに関与している訳ではなさそうだし、君もあの子もいい子だってわかってる」


俺がいい子。その言葉を俺は否定したく、何とか言葉を探すも、その前に再び彼女の言葉が紡がれる。


「だからねとりあえずは騙されてあげるけど、これだけは守って。何か、なんでもいい。本当に困ったら必ず先生に相談して」


いつの間にか家の前につき停車した車の中で彼女は俺の目をしっかりと見つめてそういった。そんな真っ直ぐな言葉の前にまたしても俺が言葉を紡げずにいると、保健教諭は優しく、またしてもその前に口を開く。


「あなたからしたら、今更何を言っているんだってそう思うかもしれないけれどね。さあ、ヘレンちゃん起きて!家に着いたわよ」


車から降りて、ヘレンと一緒に去りゆく保健教諭の車を見送りながら彼女からの言葉を、そしてヘレンや田中からの言葉を思い出す。

昨日からそうだ。俺には過分な心遣いを受けすぎて、自分が真っ当に生きてていいんだと、錯覚しそうになる。

中津蒼哉。思い出せ。

お前はクズだ。死ぬことすら許されなかった人間だ。

勘違いだけはしてはいけない

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