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vs土生

土生春彦、日本の魔術大家出身であり、歴代最年少で執行官の地域統括まで上り詰めた天才。

扱う魔術の種類はそう多くなくほとんどが砲撃魔術ではある。しかし結界を使用せずに環境から直接属性を取り込み、また環境を支配して魔術出力口として自在に操るオールレンジ攻撃はあらゆる敵に先手を取り、砲撃魔術の欠点を克服した超実践的魔術師である。


「オラァ、どうした。防ぐだけじゃあジリ貧だぜ」


ごく普通の住宅街において、戦闘に使えるほどの魔術的記号なんてものはそうそう多くはないが、こいつは夜空の星を出力口にして砲撃魔術を放ってくる。その数は防御系魔術を持たない身では対処するだけで精一杯だ

今まで幾度となく戦ってきてはいるが、手数と出力があきらかに強くなっている。


「『抜刀 空裂』」


左手に握る風断とは別に、右手で脇差を抜く。

風断は特殊な能力を持たない代わりに風すらも断つ名刀であるが、脇差の空裂は逆に刀身はなまくらだが破魔の術式が埋め込まれており、あらゆる魔力を切り裂く。

夜空に向けて空裂を振るうと共に星の輝きは土生の支配下から外れる。

それと同時に俺はアスファルトが砕けるほど力を入れて地を蹴り、民家の上に立つ土生の元へと迫り風断を首目掛けて振るうも、しゃがんで躱され、その隙を狙うがごとくアッパーの要領で放たれた拳から砲撃魔術が飛んでくる。

俺はそのカウンターをバックステップでかわしながら屋根瓦(雪国なので装飾)を蹴って飛ばし、距離を取らせる。


「チッ、やっぱりテメエは相性が悪い。魔術の支配を魔術を使わずに奪い返しやがって、魔人もどきが」


「相変わらず言い訳が上手いな。素直に格下だって認めろよ、土生」


「ッッッッ!」


頭に血が上ったのか、無駄だと思ったのか、遠距離は完全に捨て砲撃魔術を足から放出し、高速機動しながら肉弾戦をしかけてきたので、もうこちらのものだ。

脇差を消し、迫る右の拳を右手で掴むと合気の腰ぐるまの要領で道路へとたたき落とし、地面へとめり込んだ所へ鳩尾に位置エネルギーたっぷりの膝を入れて、完全に意識を落とす。

こいつの俺に対する勝ち筋は不意打ちか、こちらの防御を崩すほどの遠距離飽和攻撃しかないのに、いつも最後は近接を選ぶため、まあやりやすい相手だ。


「っ.........ゴリラかい、君は」


「うるせえよ、殺してはねえからこいつが目覚める前に帰るぞ」


ドン引きしながら俺を見るヘレンの腕を引きを俺はさっさとその場を離れる。







家に着くやいなや、宿題を始めようとする俺にヘレンは初対面時のふてぶてしさが嘘のように、怯えながら、質問をしてくる。


「何も聞かないのかい?」


「何か聞いて欲しいのか?」


そう質問に質問で返すと、彼女は俯きがちだった首をさらに下に振り、一応肯定のような合図をして、身の上話を語り始めた。


「さっきも聞いてたかもしれないけどね、僕には記憶がないんだ。正確に言えば10歳の夏から今僕が何歳かは分からないが半年前に山奥で半壊の建造物と私と同じような格好をした人達の死体の山の中で意識を取り戻すまで、その間の記憶がない。最後の記憶といえば、僕の故郷はイギリスの田舎町なんだけど、そこから日本人のおばあちゃんを訪ねに飛行機に乗ろうとした、その瞬間までだ」


「なるほどな、お前、記憶を失う前から魔術の存在はしっていたのか?魔人化したのはどのタイミングだ?」


「魔術について知ったのは、記憶を取り戻した後、執行官とやらに出会ってからだよ。かつてはごく普通の村娘だったが、目を覚ますと同時に、おばあちゃんとお揃いで自慢だった黒い髪と瞳は色素を失い、その場に居合わせた執行官に、お前は魔人になりかけている。だから殺すとか意味のわからいないことを言われたから、死にたくないって一心で逃げ回って、幸い身体能力もなんだかおかしかったから何とか追っ手を巻き続けていたら、気がついたら北海道まで来ていた」


記憶喪失か。さっき土生もそんなようなこと言っていたし、魔人化みたいなでかい魔術的儀式では記憶を奪われたりすることなど珍しくないし、苗字からして結社に狙われる理由はあるから、信じる余地はある。それに、こいつが目覚めた場所を考えると、魔人化研究の一環として、捧げさせられたのかもしれない。


「仮にお前の話を全て信用するとして、状況証拠から判断すると、お前は魔人を作るための研究をしていた魔術結社に拉致をされ、魔人となる時の代償に魔術結社側への恨みも忘れさせるために記憶を捧げさせたが、何らかの理由で失敗し、お前は記憶を失い魔人もどきにしかなれなかった上に、結社の魔術師全滅ってとこか。実際にもどきつっても魔人ができちまうのは珍しいが、まあよくある話だ」


「そうか、よくあるのか。確かにそれなら辻褄が合うね。」


彼女はそう言って、辛そうに笑った

まだまだ疑問は尽きないが、そんな彼女を見てられなくて、俺はそれをなんでもないことのように一蹴し話題を変える。


「お前、他の家族はどうした?」


「学校の長期休暇を利用してきたから一人さ。何も無ければ今もあの朴訥な田舎町で暮らしているはずさ」


「それなら帰る場所はあるな。土生をボコしたからにはしばらく追っ手は来ないだろうし、それに、そんなことよりもだ。」


「え?」


本当になんのことか分からないかのようにキョトンとする彼女に俺はわざとらしく呆れたかのように両手をあげる。


「俺の宿題、手伝ってもらう。その約束だったろう。」


努めて悪そうな顔を作って彼女に問いかけると、そのキョトンとした顔は一瞬で崩れ落ち、タガが外れてように笑い出す。


「アハハハハハ、ああそうだった。ありがとう私を助けてくれて。きっと役に立つよ」


「構わん、今から俺が助けてもらうんだからな」


俺の言葉を聞き、なおも笑い続ける彼女はやがて笑い過ぎたのか目尻に涙を浮かべると、せき止められていたモノが溢れ出したかのように、次はとんでもない勢いで泣き出す。しゃくりあげながら、何とか言葉をひねり出そうとする彼女を俺は黙って見守る。


「っありがとう。本当に怖かったんだ。っなにもっわがんなくてっ、誰も助けてくれなくてっ」


今までの不安をひねり出すかのように泣く彼女を見て、そんな状況で俺を逃がそうとしてくれた彼女を思い出して、俺はもはや言い訳など必要ないと悟った。


宿題なんかを理由にする必要も無い。俺は魔術師として、かつて彼女と同じような立場から救われた人間として、彼女が元いた世界に戻してやらなければならない。そのためにはこんな小競り合いではなく本当に協会を敵に回してでもやり遂げてみせる。

そう心に誓った。

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