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18:薬草園の白い影と、旧知の獲物



 夕暮れの光が窓から差し込む、開店前のBAR【second】。


カイが仕込みの準備をしていると、店の扉が静かに開かれた。


現れたのは、森の香りをまとった美しいエルフの女性、エリアーデだった。



「こんにちわ、カイ。息災でしたかぁ? そういえば、以前連れてきたピクシーたちは、ちゃんと森の奥に帰しましたよぉ」


「ああ、どうも。あの時は急に頼んで悪かった」


 おっとりとした挨拶を交わしながら、カイはエリアーデが持ってきた香草の束を手に取り、その品質を確かめていく。


その間、カウンターの奥で退屈そうにしていたリンドが、旧友の姿を認めてぱっと表情を輝かせた。


「おお、エリアーデではないか! 息災であったか、友よ!」


「リンド! あなたこそ、変わりないようで何よりだわぁ」


 久しぶりの再会を喜び、二人は楽しげに思い出話に花を咲かせ始めた。



 取引が終わり、エリアーデが客としてカウンターに座る。


しかし、カイが差し出した水を一口飲むと、その表情は次第に曇っていった。



「実は、相談があるんですぅ…」


 エリアーデが語る。


彼女の薬草園に、どこからか一対のウサギが住み着いた。


最初は可愛らしいと思っていたが、薬草を食い荒らし始めたため、ギルドに討伐を依頼。


しかし、依頼を受けた駆け出しの冒険者たちは、軒並み返り討ちに遭ってしまったという。



「とにかく、すばしっこいそうでぇ。姿は捉えられるが、気づくと懐に入られ、やられている。被害者全員、首元への一撃で戦闘不能にされたと…」


 その話を聞いていたリンドが、うっとりとした表情で呟く。



「ほう…そのウサギ、きっと良い肉をしておるのう。シチューにでもすれば、絶品じゃろうな」


 カイは天を仰ぎながら、リンドの食欲を無視してエリアーデに告げる。



「そいつは、ただのウサギじゃねえな。たぶん、『ボーパルバニー』だ。カミソリみてえに鋭い牙を持つ、魔獣の類だ」


 かなり手強い相手で、高位の冒険者でないと対応は難しいこと、そしてこのままでは薬草の収穫にも深刻な影響が出ることを伝え、エリアーデは再び頭を抱える。



 その様子を見ていたリンドが、ポンとカウンターを叩いた。


「決まりじゃな。エリアーデ、今宵はここに泊まっていくがよい。カイ、今日はもう店じまいじゃ!」


「おいおい、何言ってんだ、まだ開店前だぞ」


 呆れるカイに、リンドは得意げに言い放つ。



「明日はウサギ退治じゃ! なに、案ずるな。お主、昔ボーパルバニーを狩ったことがあったはずじゃろう? 儂は覚えておるぞ」


 カイの過去を一方的に暴露し、有無を言わせぬリンド。


カイは深いため息をつくと、諦めたように動き出す。



「分かったよ…。エリアーデさん、馬車は店の裏に。寝具、用意するから中で待っててくれ」


 エリアーデはリンドに感謝を伝え、二人は再び楽しそうに語らい始める。


その様子を横目に、カイは静かに明日の準備を始めるのだった。



 *



 翌朝、三人の姿は薬草園にあった。


カイは畑を歩き回り、足跡や食い荒らされた痕跡から「…ああ、間違いねえ。二匹だ」と目星をつける。



 「一発、デカいの頼む」と合図するとリンドが大きく息を吸い込み、龍の如き咆哮を放つ。


その衝撃に驚いた二匹の白いウサギが、薬草の茂みから猛スピードで飛び出してきた。



 ウサギは畑の中心に立つカイを目がけ、一直線に襲いかかる。


一匹目がカイの喉元に飛びかかった、その瞬間。


カイの剣が一閃し、ウサギの首が宙を舞った。



すかさずエリアーデが魔法を使い、薬草に血が飛び散らぬよう、血飛沫を球体状に空中で固定する。



 もう一匹も間髪入れずにカイに襲いかかるが、同様に一刀のもとに斬り伏せられた。


カイは足元のタライに獲物を手際よく収め、エリアーデは固定した血をバケツへと注ぎ込む。完璧な連携だった。



「ありがとぉ、リンド。そしてカイも」


「うむ、友の頼みだからな」


 リンドは満足げに胸を張った。



 *



 後日、BAR【second】を訪れたエリアーデに、カイが小さな包みを差し出した。



「この間のウサギの牙で、職人に園芸用のハサミを作らせた。あんたが使うのが一番だろ」


 驚くエリアーデに、カイは照れくさそうに続ける。



「いつも格安で良い香草を卸してもらってるからな。困った時は、お互い様だ」


 カイがそう言ってグラスを掲げると、三人は祝杯を交わした。



 その傍ら、カイがテーブルにおつまみを並べる。


その手には、先日までなかった、真新しいナイフが握られていた。



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