第十一章 鉱石外交
硝煙が立ち込める坑道の前で、僕と大田仁は顔を見合わせた。
「若旦那……戦争で街を潰すより、頭使う方が得策やろうな」
「ええ、まずはこの鉱石の価値を、敵に理解させるんです」
僕たちは坑道奥に待機し、カワスジニウムの小片を用意した。
これを使って“火力・安全・経済性”のデモンストレーションを行うのだ。
◆◆◆
重装甲車や機関銃を前にした国家部隊の司令官が現場を見下ろす。
僕は歩み寄り、カワスジニウムを小さな炉にくべると、瞬間的に強烈な白い炎が立ち上がった。
「……これは……?」
司令官が目を丸くする。
煙も有害ガスも出ず、わずか数秒で鉄板が赤熱する。
「これが……田川だけに存在する燃料鉱石、“カワスジニウム”です」
「石炭の50倍以上の熱量を持ち、有害物質はゼロ。輸送も容易、発電も可能です」
◆◆◆
その性能を目の当たりにしたGHQ将校も、顔色を変えた。
「……なるほど、これはただの石炭ではない。
戦略物資としても膨大な価値があるな」
僕は淡々と続けた。
「ですから、戦争で奪い合うよりも、平和的に運用した方が国益になります。
田川の炭鉱街の人々の雇用も守られ、災害も防げます」
大田仁も堂々と胸を張る。
「ここで戦争して街潰すのは、仁義に反するやろがい。
協力して運用せんか?」
◆◆◆
長い沈黙の後、司令官はゆっくりと頷いた。
「……分かった。カワスジニウムは田川の管理下で、国と連携して運用する」
「戦闘は撤退、武力介入は一切行わない」
坑道に集まった炭鉱夫たちが歓声を上げる。
田川の街は、戦争の危機から救われたのだ。
◆◆◆
その夜、街の広場には祝福の灯がともった。
カワスジニウムの光を背に、僕は大田仁と拳を合わせた。
「若旦那……お前の頭で、街を救ったな」
「ああ。戦うだけが正義じゃない。未来を見据えて、交渉で勝つこともできる――これが二度目の人生の強みだ」
月明かりに照らされる炭鉱街は、黒い石炭の街から、希望の光を宿す街へと変わった。