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メンゲレの注射

〈雨の輪を淋しくさせる蝦蟇二匹 涙次〉



【ⅰ】


「をばさん」こと砂田御由希、風邪氣味だと云ふ。無理もない。5月半ばに猛暑日・熱帯夜が續いた上、6月を迎へるに当たつて、3月並みの肌寒さを見せる日あり、では老體には應へるであらう。地球温暖化は、人間の健康の問題でもある。


 テオは、相變はらず谷澤景六として多忙であつたし、野代ミイの事もある。世話係として、自分の代はりにロボテオ2號を、「をばさん」の許に派遣した。



【ⅱ】


「をばさん」、自分を襲つた* 魔坐頭が、また世間を騒がした事も知らなかつた。「それつていつ頃の話?」と云ふので、4月下旬だよ、と答へると、つひ最近だねえ、と。テオにしてみれば、それから色んな事が目白押しにあつたので、遠い昔に感じるが、暇をうとうとゝ凌いでゐる「をばさん」にしてみれば、それはまるで昨日の事のやうなのだつた。

 テオは自分と「をばさん」との間に、或るギャップが生じている事に、氣付かざるを得なかつた。



* 当該シリーズ第32・112話參照。



【ⅲ】


「そんなに氣を遣ふ事ないんだよ、テオちやん。をばさんには、篠山先生が付いてゐてくれるから」

 -篠山史勝(しのやま・ふみかつ)、インターンを終へたばかりの医師、「若先生」である。良く出來た孫のやうだと云ふんで、老人の患者の間では、人氣者。尤も、テオにとつては、ライヴァル出現だな、と云ふ感じ。

 だがその感情は、放つて置けば段々と疎遠になつてしまふであらう、テオと「をばさん」との迂遠さを、圖らずも露呈する物- でもあつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈子づくりに悠久かけてこの方式取ると決まりしそれも笑える 平手みき〉



【ⅳ】


 テオ、篠山の事をそれとなく調べてみた。自分が「得點」しやうと、氣が急いてゐるやうで嫌だつたが-

 然し調べて良かつたのだ。SNSで篠山は、老人医療の莫迦らしさ、を滔々と述べてゐる。勿論、自分の正體は隠して、である。更に彼は、ネオ・ナチ思想に染まつてゐる、と云ふ事も分かつた。

 何だ「をばさん」、騙されてやんの。僕が助けてやるしかないぢやんか。テオは「シュー・シャイン」に頼んで、最近の魔界に、篠山史勝なる者の足跡はないか、調べを付けた。



【ⅴ】


 篠山は飛んでもない食はせ者だつた。ドクトル・メンゲレ(ユダヤ人大虐殺の首謀者である、ナチス・ドイツの医師)の生まれ代はり、と、魔界では專らの噂-

 おいおい「をばさん」、暢気に奴に注射なんて打たせてゝいゝのかよ!



【ⅵ】


 手順を踏んでゐる内に、老人たちの健康が、より深く犯されてゆく恐れはあつた。だが、敢へてテオは、この篠山絡みの實情を「魔界壊滅プロジェクト」の佐々圀守キャップに報告、暫くして、佐々とじろさんの協同戦線、篠山を検挙した。

 カンテラは彼の尋問役に回つた。催眠術を使ひ、篠山の惡事を暴き出す- だうやら、彼は、骨密度が下がる毒薬注射を老人たちに打つてゐた、なほ且つ、彼はインターン時代に、死体から皮を剥ぎ取り(女性の大切な箇所だと云ふ)ノートのカヴァーをそれで作成してゐた...


「佐々さんよ、此奴(こやつ)生かして置いていゝのかよ」-カンテラとじろさん、詰め寄つた。「ぢや、私の見てゐないところで、と云ふ事にしませうか」-「OK」。



【ⅶ】


「しええええええいつ!!」。と云ふ譯で、篠山はカンテラの刀の錆となつた。密殺。「本当は、公開処刑が相應しいのだが」と、じろさん。今のところ、「をばさん」を含む、老人連には、彼の消息は語られてゐない。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈おほいなる蝸牛大なる雨滴舐む 涙次〉


 

 これで今回は終はる譯だが、釈然としないものは殘る。それを承知の上で、色々な事が敢へて人の口の端に登らない、今回のカンテラ物語なのである。

「プロジェクト」は確かにカネを出したのだが… だうかテオだけは責めぬやう、これは作者からのお願ひである。それでは。




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