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第七章:邂逅する運命

「氷の皇女に手を出そうってんなら、まずはこの俺を倒してからにしてもらうぜ!」

 

 俺の宣戦布告に、黒装束の男たちは一瞬顔を見合わせ、次の瞬間には嘲るような笑みを浮かべた。

 四人の刺客たちが一斉に俺へと襲い掛かってくる。

 それぞれの手には、魔法の輝きを鈍らせるような黒曜石めいた短剣や、魔力を帯びた鎖など、物騒な得物が握られている。


「チッ、数が多いな!」

 

 俺は舌打ちしつつ、初撃を紙一重でかわす。

 こいつら、動きに無駄がなく、連携も取れている。

 フリーシアが苦戦したのも頷ける。

 

「レイン・ストーム!  油断しないでくださいまし!  彼らはただの賊ではありませんわ!」


 背後からフリーシアの鋭い声が飛ぶ。

 いつの間にか立ち上がっていた彼女は、悔しげに唇を噛み締めながらも、両手に氷の魔力を集中させている。

 

「分かってる!  そっちこそ、足手まといになるなよ、皇女様!」

 

 軽口を叩きながらも、俺は内心冷や汗ものだ。

 一人一人が、そこらの魔法騎士団員より強いかもしれない。


「魔拳爆流!」

 

 俺は一人の刺客の突きをかいくぐり、がら空きになった胴体にカウンター気味に拳を叩き込む。

 蒼白い魔力の衝撃が相手の体を吹き飛ばし、壁に叩きつけて沈黙させた。

 

 よし、まずは一人!


 だが、休む間もなく残りの三人が襲い掛かってくる。

 一人が鎖で俺の動きを封じようとし、もう一人がその隙に短剣で斬りかかり、最後の一人が何やら詠唱を始めている。

 厄介な連携だ。


「“アイス・ランス”!」

 

 その時、フリーシアの援護が入った。

 数本の鋭い氷の槍が、詠唱していた刺客目掛けて正確に飛んでいく。

 

「ぐあっ!」


 詠唱を妨害された刺客が苦悶の声を上げる。


 ナイスだ、皇女様!


 フリーシアは的確な魔法で俺を援護する。


 俺の直線的で破壊力のある魔拳と、フリーシアの広範囲をカバーし、敵の動きを封じる氷魔法。

 最初はぎこちなかったが、互いの動きを意識し始めると、不思議と呼吸が合ってきた。


 俺が前に出て敵の注意を引きつけ、フリーシアがその隙を突いて魔法で牽制する。

 なかなかいいコンビネーションじゃないか?


「こいつら、思ったよりやる……!」

「だが、我らの目的はフリーシア様ただ一人!  他の雑魚に構っている暇はない!」

 

 刺客たちは焦りを見せ始める。

 そのうちの一人が、懐から何か黒い球体を取り出した。

 

 球体が強烈な光を放ち、周囲にいる者全てを巻き込む勢いで爆発しようとしていた。

 自爆型の魔道具か!


「フリーシア、伏せろ!」

 

 俺は咄嗟にフリーシアの体を突き飛ばし、自分も地面に伏せる。


 ドォォォォンッ!!


 鼓膜が破れそうなほどの轟音と共に、強烈な爆風と熱波が俺たちを襲った。

 衝撃で意識が一瞬遠のきそうになる。

 

 煙が晴れると、周囲の壁や床は無残に破壊され、刺客たちの姿はどこにもなかった。

 どうやら自爆に巻き込まれて消し飛んだか、あるいは撤退したらしい。

 

 俺は全身の痛みに顔を顰めながらも、フリーシアを庇ったおかげで、彼女は軽傷で済んだようだ。


 「……大丈夫か?」


 俺は埃を払いながらフリーシアに手を差し伸べる。

 彼女は、俺の差し出した手を一瞬ためらった後、小さな声で「ええ…」とだけ答えて、自力で立ち上がった。

 その頬が微かに赤いのは、爆風のせいだけじゃないだろう。

 俺に庇われたことが、彼女のプライドに触ったのか、それとも……。


「……手間をかけさせる」


 その時、まるで全ての音を吸い込むかのような、静かで、しかし底知れない威圧感を伴った声が、破壊された中庭に響き渡った。


 俺とフリーシアが同時に声のした方を見ると、そこには一人の男が、いつの間にか立っていた。

 月明かりに照らし出されたその姿――フリーシアによく似た美しい銀髪、だがその紫の瞳は氷よりも冷たく、感情というものを一切感じさせない。

 全身から放たれるオーラは、先程の刺客たちとは比較にならないほど強大で、肌が粟立つようだ。


 間違いない、こいつが親玉だ。


「フリーシア。お前はやはり“氷の魔神”の器として申し分ない。よくぞ、あの刺客たちを退けた」

 

 男は、まるで娘の成長を喜ぶかのように言うが、その声には一切の温かみがない。

 

「父上……!  本当に、父上なのですか!?  なぜ、このようなことを……!」

 

 フリーシアの声は震えていた。

 七年間行方不明だった父親との再会が、こんな形になるなんて、誰が想像できただろう。


「そして……そこの“魔力異骸症”の少年。お前は予想外の収穫だ。“炎の魔神”の器となり得るか、試す価値がありそうだな」


 クリスタルロードと名乗った男は、今度は俺に視線を向けた。

 その瞳の奥には、まるで獲物でも品定めするかのような、冷酷な光が宿っている。


 炎の魔神?  俺が?


  何のことだかさっぱりだが、ろくでもない話なのは確かだ。


「“魔法拳”か……おもしろいな。だが、真の力の前では無意味だと思い知るだろう」


 クリスタルロードが右手を軽く振るう。

 次の瞬間、俺とフリーシアの体は、見えない巨大な力によって地面に押さえつけられた。


 身動き一つできない。

 これが、こいつの力……!?


 魔法の詠唱も、魔法陣の展開もなかった。

 ただ、手を振るだけでこの威力。

 次元が違いすぎる。


「いずれ、お前たち二人には“目覚めて”もらう。世界の真の姿を見るためにな。それまで、しばしの猶予を与えよう。楽しみにしているぞ、我が娘フリーシア。そして、名も知らぬ魔法拳の使い手よ」

 

 クリスタルロードは不気味な笑みを浮かべると、まるで霧のようにその場から忽然と姿を消した。

 部下たちも、いつの間にか一人もいなくなっている。


 嵐が過ぎ去ったかのような静寂の中、俺たちにかけられていた圧力も消え失せていた。


 俺は荒い息をつきながら立ち上がり、負傷しているフリーシアに肩を貸す。


「……大丈夫か?」

「な、なれなれしく触らないでくださいまし……でも……その……ありがとう、助かりましたわ」

 

 フリーシアは顔を赤らめ、素直じゃない言葉を口にする。

 だが、その声には、先程までの敵意とは違う、微かな信頼のようなものが滲んでいるように感じた。

 

「魔晶結社……魔神の器……父上……」


 フリーシアは呆然と呟き、俺の顔を見上げた。


「私たちは、とんでもないことに巻き込まれたのかもしれませんわね……」


 その紫紺の瞳には、恐怖と、混乱と、そしてほんの僅かな、何か新しい感情が揺らめいていた。


「ああ……だが、逃げるわけにはいかないだろ」


 俺は、クリスタルロードが消えた夜空の彼方を睨みつけながら答えた。

 

 俺自身の中に眠るかもしれない「炎の魔神」の可能性。

 フリーシアの運命。

 そして、あの底知れないクリスタルロードという男。


 厄介なことこの上ないが、ここで背を向けるなんて選択肢は、俺の中にはなかった。


 俺の戦いは、どうやら、本当に始まったばかりらしい。

 

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