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後編

 三谷さんの話があまりに衝撃的だったので、俺の頭は激しく疲労した。

 今日のところはもう帰って寝たかった。

 俺は三谷さんと明日の約束をした。「■■時に■■のコンビニで会いましょう」と。


 なんにせよ、監視だけは絶対に続けるべきだと思った。



 帰り道に立ち寄ったコンビニで、俺は衝撃的なものを見た。

 それはカップラーメンの着ぐるみだったのだが、形が違った。


 そばやうどんなどで使われる、()()()()()()()()()()()()()

 

 しかも、()()()()


 俺は突然すべてが恐ろしくなって、何も買わずに逃げ出した。

 自室のベッドにもぐり込み、布団の中で一人震え続けた。

 この世界には何種類ものカップラーメンが居る! 


 ()()()()()()()()()()()()()()


 その事実が俺を絶望させていた。



 次の朝、俺は多少気分が良くなっていた。

 眠って何かがリセットされたのではない。


 一晩中、眠れぬ時間を過ごす中で、良いアイデアを思い付いたのだ。


 奴らは物理的に存在している商品棚のおにぎりや、カップラーメンに触っている。


 ということは、奴らも物理的な存在である筈だ。


 だとしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──?


 俺はコンビニで三谷さんに会ったとき、それを話した。

 三谷さんは感心したようだった。


「なるほど。確かに試して見る価値はある。私も考えない訳ではなかったが、どうしても恐かった。仲間が居てくれると心強いよ」


 俺たちは早速やってみることにした。

 ただ俺も三谷さんも誰かに暴力を振るった経験はまるで無い。

 だから、まずは簡単なところから──奴らに触れることが出来るのか? から始めることになった。


 幾つかのコンビニを巡り、俺たちはおあつらえ向きの着ぐるみを見つけた。

 俺が最初に見た、有名メーカーの形のカップラーメン。


 慎重に様子を窺い、タイミングを計る。

 俺の手には、コンビニに売られている傘が握られていた。買うふりをして、これで一旦軽く突いてみる計画だった。


 棚の間を奴がひょこひょこ進む途中、俺は後ろからゆっくり、傘を突き出した。


 ぐにゃり


 着ぐるみ特有の、柔らかい繊維かビニールのような感触。


 ちゃんと触れた!


 俺は小声で、それを三谷さんに伝える。

 三谷さんは俺の手から傘を取ると、


「今度は私がやろう。ただし、ここではもしもの場合逃げられない。店外で狙おう──」

 傘を持ったまま、コンビニの出口へ向かった。


 俺は一瞬だけ驚いた。

 三谷さんが商品を買わずに外に出てしまったからだ。

 もっともそれを店員が追い掛ける様子はなく、俺は三谷さんが手に持ったものは三谷さん同様認知されないのだと知った。

 正直ちょっと羨ましかった。


 俺はカップラーメンがどのおにぎりを爆弾に変えたか見届けると、急いで外に出た。


 三谷さんは入口からやや離れた位置に陣取り、そこで迎え撃つつもりのようだった。


 俺は自分も傘を持って来るべきだったと思ったが、俺の場合買わないといけないし、時間的に間に合わないので止めにした。


「君はもしもの場合に離れていてくれ。何が起こるか解らないからな?」

 まるで槍のように傘を構え、三谷さんが言った。

 俺は頷き、三谷さんとも距離を取った。


 自動ドアが開いた。

 爆弾を作り終わった着ぐるみが、ひょこひょこ歩きで店外に出る。

 三谷さんが一歩踏み出した。


 それが見えているのか見えていないのか──カップラーメンが三谷さんへと近付く。

 三谷さんが駆け出した。

 両手でしっかりと握ったそれをぐっと前に突き出す。


 ばりっ


 座布団か衣服を破いたような音。


 見ると、傘は見事にゆるキャラの腹部に突き刺さっていた。

 その穴から、じんわりとラーメンのスープが染み出している。


 三谷さんが乱暴に傘を引き抜いた。


 瞬間、茶色いスープが噴き出した!

 何か具材のようなもの──四角い肉や野菜片──が、一緒に辺りに撒き散らされる。


「やった! 効いてるぞ!」三谷さんが叫んだ。

 俺は喜び、駆け寄ろうとした。


 一瞬の間に、色々な事が起った。


 ゆるキャラが三谷さんにつかみ掛かった!

 まさか襲い掛かられると思っていなかった三谷さんは、逃げられなかった。


「や、やめろ! 放せッ!」


 カップラーメンはがっしりと押さえ、穴から吹き出る汁を三谷さんに浴びせた。

「うわあ!」

 それが三谷さんに触れた瞬間、辺りに猛烈な煙と、醬油ベースのスープの匂いが漂った。


 三谷さんが聞いたことのない嗚咽を漏らす。

 しかしその姿は立ち上る煙に巻かれ、よく見えない。

 その後もしばらく、悶えるような声が続いた。


 ──やがて、風が運ぶように煙が消えた。


 そこには、二つのものがあった。


 すべてのスープがこぼれ空になって転がるカップラーメンの容器──

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()


 三谷さんの姿は──どこにも無かった。


「み、三谷さんッ!」俺は叫んだ。


 新品のカップラーメンは一瞬、俺の声が聞こえたかのようにこちらを向いた。

 次の瞬間、消えるように居なくなった。



 俺は逃げ出した。


 ()()()()()()()()()

 ()()()()()

 ()()()()()()()


 何が実際のところか解らないが、きっとその全てで間違いなかった。


 俺はコンビニの監視を止めにした。

 そして、三谷さんが言っていた最後の手段に出ることにした。



 今俺はおにぎりとカップラーメンを持っている。

 好きだった定番の昆布と海鮮系スープ味。


 だけど、本当に食べて良いかどうか解らない。

 三谷さんはああ言ったけど、もしかしたら、予想も付かないような罠が仕掛けられているかも知れないじゃないか。


 だから教えて欲しい。


 俺はこれを食うべきか食わないべきか。


 正直、あんたに俺の声が届いていないのは解ってる。

 コンビニで見かけたあんたの跡を勝手に付けて、あんたのすぐ隣に立って話し掛けていることも謝る。


 だけど教えてくれ。そして答えてくれ。


 これを食った瞬間、三谷さんみたいになると想像したら恐いんだ。


 なあ、あんた。

 俺はこれを食うべき? 食わないべき? ──どう思う?

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