第一刀:八尺之太刀
刀剣蒐集癖が功を奏し(?)、転生して刀剣蒐集の天命を受けた武蔵坊弁慶、彼の旅は、北の田舎から始まります!
異世界 《プブリクス》北方の地・イニティウムにて。
「そこは異世界の北の果て、イニティウムというド田舎の町さね」
目が覚めると姉ちゃん、いや、再生の女神・デメテルの声がした。
だが、姿は見えねえ。
そしてよく見りゃ、オレの首元には首飾りが垂れ下がるのみ、法衣も武器もありゃしねえ。どっからどう見ても素っ裸だ。
「デメテル様よぉ、どっからしゃべりかけてんだい?」
「あーたの首飾りからよ」
ん?
首元には黒い十字架の飾りが。たしかに女神の声はこっから出ている。
――どういう理屈でこっから声がするんだ?
「あーしもあんたにつきっきりでいるわけにゃいかないのよ。だから、その首飾りから助言してあげようってわけさ。あーたの後ろに異世界の服用意しといたから、とっとと服を着な」
「至れり尽くせり。デメテル様、あんたやっぱいい女だなあ」
「はぁ!?///ちょ///はぁ!?///女神口説こうなんざ100那由他早いわさ!!!!」
「ドえらい数字だな」
「どあほうが!!刀剣馬鹿!!」
「悪気はちっともねえんだがわりぃわりぃ。で、早速刀を集めようと思うんだが」
「は?あんた本物だねえ」
ちょっと待ってな、という女神の声と共に、目の前に例の巻物が現れる。
――お!?
そこに羅列されていた一振りの刀の号(愛称)が巻物からはらりと剥がれ、目の前に浮かび上がった。
≪八尺之太刀・巖喰≫
「八尺之太刀・巖喰。いい名前だ」
「その子は、あんたがいるイニティウムから五里先にある、『ラクリマの森』で、長い間眠っているのさ」
「誰も使ってないのかい?」
「八尺(約240cm)の得物を使える人間はいないのさ。1000年前、怪力の勇者が愛用した業物でね」
――怪力が振るう業物。千の刀を巡る旅、その始まりの一振りにはよ。
「お誂え向きときたもんだ。待ってろよ巖喰」
***********************************
『ラクリマの森』
「おい兄ちゃん、誰の許可得てこの森に入っとるんだぁ?」
オレが森に踏み込み、中頃に来たところで、山賊らしき輩たちが木陰から現れた。前後左右、取り囲むように立っている。八、九、十人か。
「関所があれば許可の一つも必要だろうな。ただし、ここは森じゃねえか。誰の許可がいるっていうんだ?」
「俺のだよ!この森は俺の縄張りだ。通りたければ、金目のものを全部置いていきな」
賊の頭目らしい男が言うや否や、周りの手下どもが刀を構えた。
「……勧進帳を読んでもダメか?」
「カンヂン……チョオ?てめふざけんな!!!知らねえ言葉ぬかしやがって!学がねえと思って馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿にするつもりはなかったんだが、そうかい。お前さん学がねえのか」
「舐めんな大男!」
「お頭!こいつ、首飾りだけは偉く高価そうだぜ!」
「ん?こいつは女神様からの贈り物でよ」
「そうか、女からのプレゼントか。そしたら、そいつを置いて行きゃあ、耳と鼻をそぎ落とすだけで勘弁してやるよ」
――うーむ。
オレにはずっと違和感があった。だが、それを口にする前に賊の手下どもが襲い掛かってきた。
武器一つもたない俺は反射的に襲ってきた山賊の一人をぶん殴り、その身体を掴んで、投げ飛ばした。仲間の山賊2人にどさりと覆いかぶさった。
――やっぱり。
「てんめえええええ!!!」
オレは山賊が落とした刀を拾い上げ、とびかかってきた山賊一人にぶん投げた。
グサァアアアア!
「んぎやあああああ」
山賊が一人死に、そいつから刀を引っこ抜く。
――やっぱりだ。
「おめえ、何者だ!!」
頭目がビビりながら怒鳴る。
「俺は弁慶。お前らこそ何なんだ一体?」
「「「「あ?」」」」
「なんでこんなに弱いんだ?」
「「「「弱い?」」」」
そう。俺がダラダラこいつらとくっちゃべったのも、山賊たちがあまりにも弱そうだったからだ。
「なんだおめえらの腕は。オレから言わせりゃ、棒切れみてぇで貧弱すぎる。武芸のたしなみは?」
「武芸ってなんだよバカ野郎!」
「やっぱねえか。さしづめ、無力な文官や、女子供ばかり相手してきて、勝手にてめえが強いと思って山賊稼業を始めたんだろうが、やめとけやめとけ、それに、」
「なんでお前にそんなこと言われなk」
「まだオレが説法してやってる途中だろうが!!!!!!!!!!!」
オレの威嚇に、手下どもはもちろん頭目も含めて全員が腰を抜かした。
「それになんだこの刀は」
「そそそ、そ、そいつは身ぐるみはいだ貴族の刀で」
「貴族のだぁ?こんななまくら刀がか!?」
「ええまあ」
信じらんねえ。山賊から奪った刀は、確かに装飾は立派な貴族然とした高そうなモンだが、全然なっちゃいねえ。
――こんな質の低い鉄で打たれて、刀が可哀相だ!!!!だれがこんな劣悪な刀を打ちやがったんだ。
「この世界の刀、全部こんなもんじゃねえだろうな?」
「そりゃあ、俺達はよく知らねえけど」
「安心しな弁慶、巻物に載ってる業物は、全部あんたを満足させてくれる逸品たちさね」
十字架からデメテル様が声をかけてきた。
「だと良いけどよ。少しがっかりしてらあ」
「がっかりだって?」
十字架ごしに声をかける女神が、首をかしげている様子が目に浮かぶ。
「首飾りがしゃべってねえか!?」
「お頭!!!今のうちにずらかりましょ!!!」
「ひぃ~!!!!」
蜘蛛の子を散らすように賊どもが逃げていく。オレは頭目に向かって、足元に落ちていた石を思いっきり投げた。
ンゴツゥ!!!!!!!!!!
見事命中。頭目はばたりと倒れ、手下たちが急いで担ぎ上げ、去っていった。
「人間も、あんな雑魚ばっかりなら、この世界はずいぶん張り合いがねえなと思ってよ」
「ふん、それについても安心をし。この異世界の戦士は、あんたが知る平安の豪傑、木曽義仲、平知盛、源義家らと遜色なく強い」
「そうかい」
「弁慶。反応が近いよ。すぐそばに、八尺之太刀は眠っているわさ」
女神の声を頼りに、オレは森の奥へ奥へと進んでいった。
そして一刻余りを経て。
そいつはいた。
森の最奥部、巨大な樹木が立ち並ぶ中、一つの墓が。
墓標には≪怪力僧・ジガンテウスここに眠る≫と彫られており、墓の真横に、三尺余りの黒橡色の柄が生えている。
――あれが八尺之太刀・巖喰か。
ガシッ。
両手で柄を握る。土深く埋められている巖喰は、ピクリとも動かない。
「あーたね、横着しないで、穴を掘りなさいや」
十字架からデメテルの小言。
「必要ねえ。漢と刀は惹かれ合う。巖喰が俺を漢と認めてくれりゃあ、おのずと引っこ抜けるはずだ」
(古来の英雄伝説で、勇者が聖剣を引っこ抜くのと同じソレやね)
オレは力を込めながら、巖喰に話しかける。
「よぉ、八尺之太刀。格好良い号じゃねえか。オレは武蔵坊弁慶。前の世界じゃ、比叡山ってとこの坊主でよ、お経唱えるよりも、武芸の方が性に合って、気づけば戦いに明け暮れる日々だった」
八尺之太刀はびくともしない。
「その頃のオレの相棒は、『岩融』って薙刀でな。刃長もおめえと同じくらいだ。おめえが巖喰で、相棒が『岩融』、他人の空似とは思えねえんだがどうだい?」
八尺之太刀が心なしか軽くなった。
「オレは一度死んだ。前の生き方に微塵も後悔はねえ。だから、この人生のやり直しも、後悔のねえモンにしてえんだ。よぉ八尺。いや、巖喰!おめえは名刀だ!主人に殉じて刀の役目を終えたんだろ!?立派なもんだ!!!」
無意識に、グッと、力こぶが盛り上がる。
「だがよぉ!!!」
はちきれんばかりに血管が浮き上がる。
「おめえは名刀である前に刀だ!刀がいつまでも眠っているつもりか!?戦場で輝くのが、おめえら刀の在り方じゃねえのかい!?オレがお前を輝かせてやる!もう一度この世界で生き直すんだよ!オレもおめえもよぉおおおお!!!!!!!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!!!!
地鳴りと共に大地がひび割れた。
ブンッ!!!!!!
引っこ抜かれた太刀は、土の中で眠っていたとは思えぬほどに美しい刀身で、1000年ぶりに朝日を浴び、白く煌めいていた。その刃長、柄と合わせて、八尺余り、ゆえに号を八尺之太刀。
「うん、思った通り良い面してるやがる。気に入ったぜ相棒」
弁慶最初の一振りは、弁慶の愛刀『岩融』とよく似た業物、八尺之太刀!
よく馴染む新たな相棒を手に、武蔵坊弁慶、異世界をこれより駆け回ります!
次回も乞うご期待!!!!!!!!!!!!!!
※良ければ☆☆☆☆☆評価やブックマークをしてもらえるとすごい励みになります(汗)