表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

第一刀:八尺之太刀

刀剣蒐集癖が功を奏し(?)、転生して刀剣蒐集の天命を受けた武蔵坊弁慶、彼の旅は、北の田舎から始まります!

異世界 《プブリクス》北方の地・イニティウムにて。


「そこは異世界の北の果て、イニティウムというド田舎の町さね」


目が覚めると姉ちゃん、いや、再生の女神・デメテルの声がした。

だが、姿は見えねえ。

そしてよく見りゃ、オレの首元には首飾りが垂れ下がるのみ、法衣も武器もありゃしねえ。どっからどう見ても素っ裸だ。


「デメテル様よぉ、どっからしゃべりかけてんだい?」

「あーたの首飾りからよ」


ん?


首元には黒い十字架の飾りが。たしかに女神の声はこっから出ている。


――どういう理屈でこっから声がするんだ?


「あーしもあんたにつきっきりでいるわけにゃいかないのよ。だから、その首飾りから助言してあげようってわけさ。あーたの後ろに異世界の服用意しといたから、とっとと服を着な」

「至れり尽くせり。デメテル様、あんたやっぱいい女だなあ」

「はぁ!?///ちょ///はぁ!?///女神口説こうなんざ100那由他(なゆた)早いわさ!!!!」

「ドえらい数字だな」

「どあほうが!!刀剣馬鹿!!」

「悪気はちっともねえんだがわりぃわりぃ。で、早速刀を集めようと思うんだが」

「は?あんた本物だねえ」


ちょっと待ってな、という女神の声と共に、目の前に例の巻物が現れる。


――お!?


そこに羅列されていた一振りの刀の号(愛称)が巻物からはらりと剥がれ、目の前に浮かび上がった。


八尺之太刀(はっしゃくのたち)巖喰(いわぐらい)


「八尺之太刀・巖喰。いい名前だ」

「その子は、あんたがいるイニティウムから五里先にある、『ラクリマの森』で、長い間眠っているのさ」

「誰も使ってないのかい?」

「八尺(約240cm)の得物を使える人間はいないのさ。1000年前、怪力の勇者が愛用した業物(わざもの)でね」


――怪力が振るう業物。千の刀を巡る旅、その始まりの一振(ひとふ)りにはよ。


「お(あつら)え向きときたもんだ。待ってろよ巖喰(いわぐらい)



***********************************


『ラクリマの森』


「おい兄ちゃん、誰の許可得てこの森に入っとるんだぁ?」


オレが森に踏み込み、中頃に来たところで、山賊らしき(やから)たちが木陰から現れた。前後左右、取り囲むように立っている。八、九、十人か。


「関所があれば許可の一つも必要だろうな。ただし、ここは森じゃねえか。誰の許可がいるっていうんだ?」

「俺のだよ!この森は俺の縄張りだ。通りたければ、金目のものを全部置いていきな」


賊の頭目らしい男が言うや否や、周りの手下どもが刀を構えた。


「……勧進帳(かんじんちょう)を読んでもダメか?」

「カンヂン……チョオ?てめふざけんな!!!知らねえ言葉ぬかしやがって!学がねえと思って馬鹿にしてんのか?」

「馬鹿にするつもりはなかったんだが、そうかい。お前さん学がねえのか」

「舐めんな大男!」

「お頭!こいつ、首飾りだけは偉く高価そうだぜ!」

「ん?こいつは女神様からの贈り物でよ」

「そうか、女からのプレゼントか。そしたら、そいつを置いて行きゃあ、耳と鼻をそぎ落とすだけで勘弁してやるよ」


――うーむ。


オレにはずっと違和感があった。だが、それを口にする前に賊の手下どもが襲い掛かってきた。

武器一つもたない俺は反射的に襲ってきた山賊の一人をぶん殴り、その身体を掴んで、投げ飛ばした。仲間の山賊2人にどさりと覆いかぶさった。


――やっぱり。


「てんめえええええ!!!」


オレは山賊が落とした刀を拾い上げ、とびかかってきた山賊一人にぶん投げた。


グサァアアアア!


「んぎやあああああ」


山賊が一人死に、そいつから刀を引っこ抜く。


――やっぱりだ。


「おめえ、何者だ!!」


頭目がビビりながら怒鳴る。


「俺は弁慶。お前らこそ何なんだ一体?」

「「「「あ?」」」」

「なんでこんなに弱いんだ?」

「「「「弱い?」」」」


そう。俺がダラダラこいつらとくっちゃべったのも、山賊たちがあまりにも弱そうだったからだ。


「なんだおめえらの腕は。オレから言わせりゃ、棒切れみてぇで貧弱すぎる。武芸のたしなみは?」

「武芸ってなんだよバカ野郎!」

「やっぱねえか。さしづめ、無力な文官や、女子供ばかり相手してきて、勝手にてめえが強いと思って山賊稼業を始めたんだろうが、やめとけやめとけ、それに、」

「なんでお前にそんなこと言われなk」

「まだオレが説法してやってる途中だろうが!!!!!!!!!!!」


オレの威嚇に、手下どもはもちろん頭目も含めて全員が腰を抜かした。


「それになんだこの刀は」

「そそそ、そ、そいつは身ぐるみはいだ貴族の刀で」

「貴族のだぁ?こんななまくら刀がか!?」

「ええまあ」


信じらんねえ。山賊から奪った刀は、確かに装飾は立派な貴族然とした高そうなモンだが、全然なっちゃいねえ。

――こんな質の低い鉄で打たれて、刀が可哀相だ!!!!だれがこんな劣悪な刀を打ちやがったんだ。


「この世界の刀、全部こんなもんじゃねえだろうな?」

「そりゃあ、俺達はよく知らねえけど」

「安心しな弁慶、巻物に載ってる業物(わざもの)は、全部あんたを満足させてくれる逸品たちさね」


十字架からデメテル様が声をかけてきた。


「だと良いけどよ。少しがっかりしてらあ」

「がっかりだって?」


十字架ごしに声をかける女神が、首をかしげている様子が目に浮かぶ。


「首飾りがしゃべってねえか!?」

「お頭!!!今のうちにずらかりましょ!!!」

「ひぃ~!!!!」


蜘蛛の子を散らすように賊どもが逃げていく。オレは頭目に向かって、足元に落ちていた石を思いっきり投げた。


ンゴツゥ!!!!!!!!!!


見事命中。頭目はばたりと倒れ、手下たちが急いで担ぎ上げ、去っていった。


「人間も、あんな雑魚ばっかりなら、この世界はずいぶん張り合いがねえなと思ってよ」

「ふん、それについても安心をし。この異世界の戦士は、あんたが知る平安の豪傑、木曽義仲、平知盛、源義家らと遜色なく強い」

「そうかい」

「弁慶。反応が近いよ。すぐそばに、八尺之太刀(はっしゃくのたち)は眠っているわさ」


女神の声を頼りに、オレは森の奥へ奥へと進んでいった。


そして一刻余りを経て。


そいつはいた。


森の最奥部、巨大な樹木が立ち並ぶ中、一つの墓が。


墓標には≪怪力僧・ジガンテウスここに眠る≫と彫られており、墓の真横に、三尺余りの黒橡色(くろつるばみいろ)()が生えている。


――あれが八尺之太刀・巖喰(いわぐらい)か。



ガシッ。


両手で柄を握る。土深く埋められている巖喰は、ピクリとも動かない。


「あーたね、横着しないで、穴を掘りなさいや」


十字架からデメテルの小言。


「必要ねえ。(おとこ)と刀は惹かれ合う。巖喰こいつが俺を漢と認めてくれりゃあ、おのずと引っこ抜けるはずだ」


(古来の英雄伝説で、勇者が聖剣を引っこ抜くのと同じソレやね)


オレは力を込めながら、巖喰に話しかける。


「よぉ、八尺之太刀。格好良い号じゃねえか。オレは武蔵坊弁慶。前の世界じゃ、比叡山ってとこの坊主でよ、お経唱えるよりも、武芸の方が性に合って、気づけば戦いに明け暮れる日々だった」


八尺之太刀はびくともしない。


「その頃のオレの相棒は、『岩融(いわとおし)』って薙刀でな。刃長もおめえと同じくらいだ。おめえが巖喰(いわぐらい)で、相棒が『岩融(いわとおし)』、他人の空似とは思えねえんだがどうだい?」


八尺之太刀が心なしか軽くなった。


「オレは一度死んだ。前の生き方に微塵も後悔はねえ。だから、この人生のやり直しも、後悔のねえモンにしてえんだ。よぉ八尺。いや、巖喰!おめえは名刀だ!主人に殉じて刀の役目を終えたんだろ!?立派なもんだ!!!」


無意識に、グッと、力こぶが盛り上がる。


「だがよぉ!!!」


はちきれんばかりに血管が浮き上がる。


「おめえは名刀である前に刀だ!刀がいつまでも眠っているつもりか!?戦場で輝くのが、おめえら刀の在り方じゃねえのかい!?オレがお前を輝かせてやる!もう一度この世界で生き直すんだよ!オレもおめえもよぉおおおお!!!!!!!!!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!!!!


地鳴りと共に大地がひび割れた。


ブンッ!!!!!!


引っこ抜かれた太刀は、土の中で眠っていたとは思えぬほどに美しい刀身で、1000年ぶりに朝日を浴び、白く煌めいていた。その刃長、柄と合わせて、八尺余り、ゆえに号を八尺之太刀。


「うん、思った通り良い(ツラ)してるやがる。気に入ったぜ相棒」

弁慶最初の一振りは、弁慶の愛刀『岩融』とよく似た業物、八尺之太刀!

よく馴染む新たな相棒を手に、武蔵坊弁慶、異世界をこれより駆け回ります!

次回も乞うご期待!!!!!!!!!!!!!!

※良ければ☆☆☆☆☆評価やブックマークをしてもらえるとすごい励みになります(汗)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ