私の所属する声優事務所が和菓子をモチーフにしたVTuber事業を始めるらしい
※お手数ですが、まずはあらすじをお読みいただけると幸いです。
私、御津 鈴は養成学校を卒業して間もない声優のたまごだ。
卒業後、講師の現役声優である速水 明夫さんにスカウトされるカタチで事務所に所属したのだが、未だデビューには至っていない。
この事務所は速水さんが独立し新設したのだけど、その際に一緒に付いてきてくれたマネージャーが失踪してしまったらしい。
そのせいもあって人脈やら様々なノウハウが失われることになり、私の仕事が取れなくなってしまったのだ。
速水さん自身は実績も実力もあるため仕事を失うということはなかったが、まだ20代と若いこともあって伝手などもあまりないらしい。
つまり私は、完全に泥船に乗ってしまったというワケだ。
(はぁ……、どうしたものか……)
マネージャーが失踪したのは想定外だったろうし、速水さんを責めることはできない。
実績のない事務所を選んだ私も、迂闊だったと言わざるを得ないだろう。
……ただ、私としてはどうしてもこの事務所に所属したかったのだ。
「こんなことになって済まないね、御津さん」
速水さんは悪くない。全ては失踪したマネージャーに責任がある。
ただ、保険を何も用意していなかったことは問題だし、マネージャーも何が原因で失踪したか不明なため、速水さんとしては複雑な心境のようであった。
「……このままでは厳しいのが現実だ。御津さん、この前の話は――」
「それはお断りしました」
速水さんは新人の仕事を取ってくる伝手はないが、交友関係から移籍を支援する伝手ならあるとのことで、私に移籍を勧めてきた。
しかし、私は速水さんの声と演技に惚れてこの事務所に所属したのである。
我儘かもしれないが、せめてデビューだけでもこの事務所からしたいと思っている。
「そうか……。では一つ提案があるんだが、御津さん、VTuberになってみないかい?」
「っ!? VTuber、ですか」
VTuberとはバーチャルYouTuberの略語で、2DCGや3DCGで描画されたアバターで活動する配信者のことだ。
「実はボイスドラマやASMRなどをやってる関係で、多少ノウハウがあってね。それであれば私でも君をプロデュースできると思うんだ」
「で、でも私なんかじゃ――」
「大丈夫。私は御津さんの声に惚れたからこそスカウトしたんだよ? 君ならば、必ず成功するさ」
「グハッ!」
そんなイケボで惚れたとか言われたら断れるワケないでしょ!
こうして私は、VTuber『大福』としてデビューが決まったのであった。