大好きな人と食べるパンケーキ
木々に囲まれた王城の庭は、木陰を吹き渡る涼やかな風のおかげで心地が良い。
ユラシェは屋敷で作ってきたパンケーキを皿に取り分けた。
リオンハールは瞳を輝かせ、手を叩いて喜ぶ。
「わあ! ふわふわパンケーキだぁ。おいしそう! ユラシェ、天才‼︎」
「綺麗に焼けましたけれど、味は自信がないのです。お口に合えばいいのですが……」
ユラシェは不安そうに、大口を開けてパンケーキを頬張ったリオンハールを見つめる。
「どうでしょうか……」
「んん⁉︎」
リオンハールは咀嚼するのをやめ、目を丸くした。
嫌な予感に、ユラシェの心臓がきゅっと縮こまる。
「もっと練習が必要ですよね……」
「んんんっ⁉︎」
「次回はおいしく作れるよう、頑張ります」
ユラシェは膝上に置いた手を握りしめた。リオンハールは優しいから、お世辞でおいしいと言ってくれるかもしれない。けれどそれでは、素直に喜べない。
初めての演習会に臨むリオンハールを応援しようと、ユラシェは『レモンド♡キュート』のオーナー、アーリィに弟子入りしてパンケーキ作りを教わった。
けれど、料理をしたことのない箱入り娘のユラシェには難易度が高かった。
焦げたり生焼けだったり、ひっくり返すときに崩れたり、生地が寄れてしまったり。味も、材料は合っているのになにかが足りない。
(今まで料理作りに興味がなかったことが恥ずかしい。初めてお料理をしたのが、このパンケーキなんですもの。五十枚焼いて、綺麗な見た目の十枚を持ってきたけれど……。味は、アーリィさんの作るパンケーキには程遠い)
「ユラシェ、このパンケーキ……」
「はい……」
「レモンド♡キュートのパンケーキと同じ味がするっ! どうしてどうして⁉︎」
「よく分かりましたね。アーリィさんに教わりました」
「わぁ、嬉しい! ユラシェ、ありがとう。レモンド♡キュートが人気店になっちゃって、いつ行っても満席で食べられなかったんだ! あぁ、嬉しいな♪ おいしいパンケーキがたくさん食べられるなんて幸せだな♪ ユラシェの優しさがこもったパンケーキおいしいな♫ ボクって世界一の幸せ者だな♬」
リオンハールは歌いながら、パンケーキをあっという間に平らげてしまった。
「もっと食べたい‼︎」
「あ、はい。どうぞ」
幸せいっぱいの顔で、もぐもぐと食べるリオンハール。お世辞でおいしいと言っているようには見えない。
ユラシェもパンケーキを口に入れる。味も食感も悪くないけれど、やはりアーリィの作るふわふわパンケーキと比べるとなにかが違う。
(でも……おいしいと思えるから不思議だわ。屋敷で味見をしたときは、あまりおいしく感じなかったのに……。もしかして、好きな人の笑顔を見ながら食べているから? リオンハール様の笑顔が、このパンケーキをおいしくしているのだわ)
大好きなリオンハールと食べるパンケーキには大好きの魔法がかかって、とてもおいしくなる。ユラシェは食が細いのに、二枚も食べてしまった。
十枚あったパンケーキはリオンハールが七枚。ユラシェが二枚。ヨルンが一枚食べてなくなった。
「もっと食べたかったなぁ」
指を咥えて、悲しい顔をするリオンハール。
ヨルンは立ち上がると、腰に下げていた魔法の杖を手に取った。
「七枚で十分だろう。これ以上食べると夕食が入らなくなるぞ。それよりも、リオンハールにお願いがある。ここのところ職務が忙しくてな。ストレスが溜まる一方なのだ。癒しを切実に求めている。リオンハール、ちびドラゴンになってくれ!」
リオンハールの返事を待たずに、ヨルンは魔法の杖を振った。すると眩しい緑色の光がリオンハールを包み、あっという間に真っ黒なちびドラゴンへと姿が変わった。
「わわっ! ドラゴンになっちゃった‼︎」
リオンハールは慌てふためいて、ユラシェの反応を確かめる。




