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すごくすごく大好きです

 リオンハールは震える手で、薄ピンク色の封筒を受け取る。


「怖いことが書いてある?」

「さあ? 私は読んでいない」

「怖くて読めないよ! お願い、先に読んで。それで、大丈夫かどうか教えて!」


 不安で尻尾がプルプルと震えているちびドラゴンに、ヨルンは笑みを深める。


「自分で読めと突っ返すところだが、可愛い子のお願いを拒否するのは良心が痛む。特別だよ?」

「ありがとう!」


 ぱぁぁぁっ! と瞳を輝かせたちびドラゴンに、ヨルンは(どうにかして、この子をペットにできないものか……)と邪なことを考えてしまう。

 ヨルンは、ユラシェの手紙に目を通した。

 表情を暗くして黙ってしまったヨルンに、リオンハールは恐る恐る尋ねる。


「なんて書いてあるの?」

「個人的な感想としては、読まなければ良かったと後悔している」

「ええーっ⁉︎」


 寄越された手紙。ヨルンはそれ以上教えてくれなさそうなので、リオンハールは勇気をだすことにした。



『リオンハール様

 大好きです。

 あなたが何者であれ、どんな姿であっても、大好きなのです。

 なぜなら、私はあなたの魂に惹かれたから。あなたが純真無垢な魂を失わない限り、あなたが魔物であっても心惹かれてしまうのです。

 つらいときにはつらいと言っていいのだと、おっしゃってくださいましたよね?

 リオンハール様に会えないのが、とてもつらいです。

 会って、無事を確かめたい。お話したい。笑い合いたい。オペラ鑑賞やパンケーキデートをしたい。手を繋いで公園を歩きたい。くすぐりごっこもしてみたい。

 リオンハール様とやりたいことがたくさんあるのです。

 大好きです。すごくすごく、大好きなのです。

 明日は私の誕生日です。お願いですから、誕生日パーティーにいらしてください。元気なお顔を見せてください。

 お待ちしています。   ユラシェ』



 キューピッドが恋の矢を携えてやってきたが、(はんっ! ハートが飛びすぎだ。こいつらは相思相愛。おいらは必要ないぜ!)と帰っていく。


「大好きって、書いてある‼︎」

「そのようだね」

「すごくすごく大好きって‼︎」

「ああ」

「手を繋ぎたいって‼︎」

「ふ〜ん」

「くすぐりごっこをやりたいって‼︎」

「なにそれ?」

「誕生日パーティーに来てって‼︎」

「行けば?」


 はしゃぐリオンハールとは対照的に、ヨルンのテンションは低い。

 不機嫌なヨルンに、リオンハールは口元に手を当てて「ぷぷっ!」と吹き出す。


「もしかして、ボクたちの仲の良さに嫉妬している?」

「別に。ユラシェが私に兄のような感情しか持っていないことには昔から気づいていたし、それに私は結婚したし。嫉妬する理由はなにもないが、ただ、私には一回も好きだと言ってくれなかったのに、君には随分とサービスをするのだと思って気を悪くしただけだ」

「へへっ! いいでしょう? あー、ユラシェって、なんて素敵な女の子なんだろう! こんなに素敵な女の子がボクを好きだなんて、めちゃくちゃに最高なんですけどっ!」


 幸せすぎて足元がおぼつかない。ふわふわと浮いて、空の彼方に飛んでいってしまいそう。

 リオンハールのその思いのままに、足が地面から離れて、ちびドラゴンの体はぷかぷかと空に浮いていく。翼が風を上手に拾って、空を上昇していく。


「どこまで飛んでいくんだ⁉︎ 戻ってこーーーいっ‼︎」


 入道雲に頭を突っ込んだリオンハールを、ヨルンが魔法を使って地上に引き戻す。


「浮かれすぎて大気圏を飛び出さないよう、人間に変身させよう。個人的な希望としては、ちびドラゴンを飼いたいところだが……」


 ヨルンが魔法の杖を振る。すると、にやけ顔がいまだおさまっていないちびドラゴンの体を新緑の光が包み込む。

 目を開けていられないほどの強烈な光がしずまったとき、そこにいるのは黒ドラゴンではなく、長い黒髪を一つに結んだ紫紺色の瞳の魔法使い。

 神秘的な風貌をもつ、人間のリオンハールがにやけた顔で座っている。


「人間の姿だと手加減しなくて済む」


 ヨルンはちびドラゴンには甘いが、人間リオンハールには容赦する気はない。リオンハールの耳を思いきり引っ張って捻る。


「いてててっ!」

「いつまでもにやけている時間はない! 魔法使いの職場が機能していないのだ! 君はただの雑用係だと思っているだろうが、王城魔法使いたちの潤滑油だったらしい。君がいないせいで揉め事が絶えず、簡単な事務仕事さえ滞っている。一刻も早く王城に帰って、仕事をしなさい!」

「えぇー、やだぁ。甘い手紙に浸かっていたーい!」

「仕事に浸からせてやろう。まずは職場の掃除からだ。ゴミが散らかって、足の踏み場もない」



 ヨルンに引っ張られるようにしてリオンハールが王城に姿を現すと、プライドの高いはずの魔法使いたちに平身低頭で迎え入れられた。


「リオンハール、待ってたぞ! もう二度といなくならないでくれ! 俺のスケジュール、わけがわからないんだ」

「助かった! リオンハール、掃除の仕方を教えてくれよ。ゴミって、どうやって捨てたらいいんだ?」

「酒を飲みすぎて、店の扉を壊しちまってさ。謝罪の仕方を教えてくれ!」


 リオンハールに寄っていく王城魔法使いたちを、ヨルンは遠巻きに見ていた。腕組みをすると、長いため息つく。


「魔法使いたちのことはマクベスタに任せていたが、ここまで酷いとは……。魔法しか才能のない者というのは困ったものだ。生活していくための基本的な事柄から教育していかないといけない。リオンハールを教育長にさせよう」


 こうしてリオンハールは、雑用係から教育長に昇格した。

 地位に合わせて寮の部屋を移り、古くて狭い部屋から一流ホテルのような豪華な部屋に変わったのだった。




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