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彼女の婚約者は結婚してしまった

 メディリアス家の至宝、ユラシェが目を覚ました‼︎

 屋敷は上を下への大騒ぎ。

 リオンハールはユラシェの両親と祖母からこれでもかというぐらいに感謝をされ、使用人たちには拝まれ、仕事を早退してきたユラシェの祖父からは小切手を渡された。

 小切手の額は、給料三百年分‼︎


「こんな大金もらえません! 別にボク、たいしたことしていないですし!」

「ふぉふぉふぉ、なにを言っておる。愛する孫娘を目覚めさせたのじゃ。桁をもう一個増やしてやろうかのう?」

「いやいや! 大金なんて持ったら、泥棒に狙われそうで怖いです!」

「君は欲がないねぇ」


 涼やかな声にリオンハールが振り向くと、爽やかな風貌の青年が応接室の戸口に立っている。

 ユラシェの祖父は相好を崩すと、両手を広げて青年を歓迎する。


「これはこれは、ヨルン様。お出迎えせずに申し訳ない」

「メディリアス夫人から熱烈な歓迎を受けましたので、ご心配なく。それよりも、ユラシェが目を覚ましたと聞きましたが、本当ですか?」

「本当です! ヨルン様は正夢を見たのです。ヨルン様もマクベスタ様と同じ、最高名誉魔法使いの称号を持つお方。さすがです!」


 ヨルンの後ろに控えていたカリオスが、興奮した声をあげる。

 ヨルンは、ソファーに座って小さくなっているリオンハールに目を向けた。


「リオンハールがユラシェを目覚めさせたんだね? 私やマクベスタでも起こすことのできなかったユラシェを目覚めさせるとは、たいしたものだ。で、君はユラシェと言葉を交わしたのかな?」

「いえ……」

「妹の瞳に男を入れてはなるものかと、妹のまぶたが完全に開く前に、この少年を部屋から追い出しましたのでご心配なく!」

「カリオスは仕事の出来る男なのに、ユラシェのことになると冷静さを失うね。リオンハールの顔を見るぐらい、いいじゃないか」

「なりません! 妹の瞳には常に美しいものしか映らないよう、最善を尽くす所存です‼︎」


 カリオスはシスコン全開とばかりに、鼻息を荒くする。祖父も同意の頷きをしているのを見ると、メディリアス一家はユラシェを相当に溺愛しているようだ。

 ヨルンは苦笑すると、顎に手を当てて眉をひそめた。


「そっか。まだ二人は会っていないのか。どうしようかな……」

「どうしようと言いますと?」


 ユラシェの祖父であるブランドン・メディリアスが、合いの手を入れる。


「ユラシェが心臓発作で倒れて一年。一年前と今とで、決定的に変わったことがある」

「ん? なんですかな?」

「私の人生最大のイベントを忘れないでください。私は十日前に挙式をあげました。つまり、一年前ユラシェは私の婚約者だった。しかし今、私には妻がいる」

「そうだった! ヨルン様は結婚なされたのだった!」


 四方八方に手を尽くしても、ユラシェは目覚める兆候を示さなかった。

 世界一の魔法大国である、アジュナール王国。その国の王太子の婚約者が昏睡状態であることに、人々は最初同情の目を向けた。しかし時間が経つうちに、ヨルン王太子に娘を当てがおうとする者たちが現れた。その者たちはユラシェの悪口を言いふらし、メディリアス家そのものの失墜を狙った。

 さらにはユラシェを亡き者にしようと、屋敷に忍び込む者もいた。

 ヨルンはユラシェの命と尊厳を守るために、メディリアス家と相談したうえで、最果ての国から留学生として来ていたミリィ皇女と婚姻を結んだのだった。


「私が結婚したと知ったら、ユラシェは間違いなく動揺するだろう。心臓がもつかな?」


 ヨルンが放った一言に、応接室が水を打ったように静かになる。

 ブランドンとカリオスは息を詰め、互いを見やった。


「無理じゃろう。再び倒れてしまうのでは……」

「妹は体が弱い。さらには繊細な神経をしている。ヨルン様が別な女性と結婚したなど、受け入れられるわけがない」

「ヨルン様。非常に言いにくいのじゃが、離縁してはどうかね?」

「はっきりと言いますね。ミリィは私と結婚するために、厳しい王妃教育に必死に食らいつき、寝る間も惜しんで勉強してくれた。十日前に盛大な結婚式を挙げたばかりだというのに離縁などしたら、私は世界一薄情な男になってしまう」

「ではちょうど良い頃合いをみて、離縁なさったらどうでしょう? 東の最果てにあるポスニシア国の皇女など、我が妹と比べたら、夜空に輝く満月と干からびたパンケーキぐらいの差がある」


 ヨルンは頭痛がするかのようにこめかみに手をやると、ゆるく首を振った。


「カリオス、変なたとえ話をするな。ユラシェは素晴らしい女性だよ。だが溺愛するあまり、他の女性を酷評するのはいただけないな。それではユラシェが眠っているのをいいことに、自分の娘を当てがおうとした者たちと同じになってしまう。カリオスは将来、私の右腕になるべき人物だ。公平な目を持ってくれ」


 ヨルンは深い吐息をつくと、リオンハールに再び目を向けた。


「私にいい考えがある。リオンハール、協力してくれないか?」

「ボク、ですか?」

「ああ。事情を知る者を最小限に抑えたい。君が適任だ」

「わかりました。協力します」

「素直でいいね」


 ヨルンは温和な笑みを浮かべると、さらりと言った。


「私に変身して、ユラシェとデートをしてもらいたい」

「へ?」



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