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テーマ《雪》
季節は冬真っただ中。
彼女と桜の木の下に僕は居る。
寒いのに、だ。
「桜の木が呼んでいたのよ」
彼女が言うが、甚だ信じられない。
桜色の冬用コートに、桜色の耳当てをした彼女は真剣だ。
「私、将来樹木医になりたいの」
突然の告白に、僕は言う。
「樹木医、か……」
「この桜の木を守りたいの」
「そこまで桜に思い入れがあるんだな」
「だって……」
彼女はマフラーの下でもごもごと何か呟く。
「この桜は、貴方と出会えたきっかけだから」
「……そうだったな」
僕はあの日の事を思い出す。
桜の木の下で初めて出会った日の事を。
雪が静かに降る中、桜色の手袋をした彼女の手をしっかりと握ったのだった。
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