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02.隣人と上階の人

「ということでこの子が新しい入居者の阿多部くんよ。ほれ、アンタも自己紹介しなモリリン」

「はい……」


 初日から管理人の怒髪天を拝むことになるとは思わなかった総悟。怒りが静まるまでの五分間は非常に長く感じた。


「俺は森凛太朗もりりんたろう。一○三号室に住んでるからお隣だね」


 寝癖なのかくせ毛なのかわからない程度に頭がボサボサだが、お洒落な髪型だなあと総悟からは好印象である。


「モリリンは四月から神柳の二年生になるのよ。だから阿多部くんの先輩ね」

「じゃあモリリン先輩ですね!」

「モリリンは余計なことさえ言わなければ優良物件よ。文武両道で見た目もいいし優しい性格してるし」

「へえ、モリリン先輩はすごいんですね!」


 照れるモリリンこと凛太朗だが、これはアメとムチのほんのささやかなアメに過ぎない。


「これで片思いの恋が実れば完璧なのにねー」


 凛太朗は固まった。


「か、片思いですか?」


 凛太朗のことなどお構いなしに、管理人は嬉々として話を続けていく。


「モリリンには幼なじみがいてね。その子がまた可愛くて天真爛漫なのよ。いまでも仲良しではたから見ればお似合いのカップルに見えるくらいなんだけどねー」

「なのに付き合ってないんですか?」

「そう、モリリンがあまりにもヘタレすぎてねー。未だに片思い続行中なのよね」

「そうなんですか……でもどうして管理人さんはそこまで知っているんですか?」

「なぜならねー」


 今度は上の階からドタバタと騒がしい音が聴こえてくる。ここの住人なのは間違いないだろう。

 もしかしたら今日中に全員に会えるんじゃないだろうかと、総悟は内心わくわくしている。


「あー! リンちゃんに管理人さん! こんにちはっ」


 元気な声とともに現れた女性は、大きく手を振ってこっちに来た。


「あらなっちゃん。いま丁度なっちゃんの噂をしてたところよ」

「ちょ、管理人さん」

「あたしの? ってあれ、知らない子がいる……もしかして新しい人!?」


 なっちゃんという女性が総悟をまじまじと覗きこむ。少し距離が近い。


「そう、なっちゃんの下の部屋に住む阿多部くん。神柳の新入生になるのよ」

「阿多部総悟です! よろしくお願いします!」

「総悟くんね! あたしは佐倉夏葉さくらなつはっていうの。学校でも家でも困ったことがあったら何でも頼ってね!」


 そう言って笑顔で総悟と握手をする夏葉。

 ボブカットで真っ直ぐな黒髪がとてもよく似合う。

 明るくて一緒にいると楽しくなりそうな人だなあと総悟は思った。まさに天真爛漫という言葉が相応しい。


「それでね、なっちゃんも神柳の二年生って話をしてたのよねーモリリン」

「あ、はい、そうです」

「そうなの? なんか顔赤いよリンちゃん?」

「なんでもないよなっちゃん……」


 ここでようやく総悟は察する。


 もしかして、モリリン先輩の好きな人って……


 凛太朗が冷や汗をかいていることなど気にせず、管理人はニッコリと夏葉に尋ねた。


「ところでなっちゃんさー。なっちゃんが片思いしてる澤くんって元気ー?」


 固まる総悟と凍る凛太朗。対照的に夏葉は困りつつも照れながらの笑顔だ。


「やだなー管理人さんっ。リンちゃんはともかく総悟くんの前でなんなのー」

「いいからいいから」

「相変わらずすっごくかっこいいよ! 今日もこれから練習試合だから応援しにいくの!」

「あらそうなんだー。いつか想いが伝わるといいわね」

「えへへ、がんばるね! それじゃあみんなまたねー!」


 去り際も元気いっぱいに手を振る夏葉であった。


「ということであの子がモリリンの大好きななっちゃんでした」

「…………」


 反応に困る。

 さらに管理人は追撃の手もとい口を緩めない!


「澤くんって人はサッカー部の名門校でキャプテンやってるみたいよ? イケメンで気さくな性格だからモテモテらしいわね。たしかなっちゃんが澤くんに惚れたきっかけが」

「小学生ナンパとか言って本当に申し訳ございませんでした!!」


 全力で土下座する高校生を初めて見て総悟は悟る。

 口は禍の元。


「わかればいいのよ。それはそうとごめんね阿多部くん時間とっちゃって。もう部屋で休みたいでしょ?」

「え、いえ、そんな」

「これが鍵ね。ちなみにあと二人上に住んでるけど、今日は疲れただろうからまた今度紹介するわ。それじゃあ改めて今日からよろしくね。歓迎会は後日やるからっじゃねー」


 いろいろ面倒くさくなったのだろう。部屋の鍵を渡して管理人は去っていき、残ったのは総悟と地に伏せている凛太朗。

 気まずい。


「あの、モリリン先輩」

「ん?」

「辛いときや大変なときもあると思いますが、なんというか、がんばってください!」

「……ありがとう」


 初対面の相手に気遣われる凛太朗であった。



 凛太朗とも別れてようやく自分だけの部屋とご対面。

 キッチンスペースの奥に九帖のワンルーム、初めて一人暮らしをする総悟にはやや広く感じる。


「一人暮らし、か」


 改めてその言葉を口にすると、どこか物悲しい。

 今日から両親も妹もいない。炊事も洗濯もなにもかも一人でやらなければならない。

 一抹の寂しさはあるが、それでも新生活に胸を躍らせる自分がいる。


「がんばるぞ! 早速勉強でも……」


 する前に到着したことを母親に電話する約束を思い出す総悟だった。

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