エッチなことができそうなチートをもらって転生したらえらいことになった話
チートスキルをもらって転生できることになったので、ありがたくその境遇を受け入れた。
もらったチートスキルは『セックスしたいと思った相手が徐々に俺のことを好きになる』というスキルである。
ほしいスキルをくれるというのでじっくり考えて選んだ素晴らしいスキルだ。
思えば内気なコミュ障だった前世では童貞であった。
新しい人生ではせめて道程は捨てたい。
だが俺から声をかけるのは難しい。内気でコミュ障なのだから。
だが相手のほうから好きになってくれればどうだろう。
アプローチを向こうから仕掛けてくれるわけだ。
無視されたりスルーされることもないだろう。
徐々に、というのもポイントだ。
急にその人の態度が変わったら周りの人が不信に思うかもしれない。徐々にであれば周りが変化を受け入れる余裕もでき、チートばれを防げるという狙いだ。
それに急に距離を詰められるとてんぱってしまうのは目に見えている。
徐々にということであれば、流れに身を任せて相手のほうから動いてくれるのをまつのである。そうやって経験を積んでいっていつか童貞を捨てるのだ。
最終的にはハーレムを作れるかもなうへへ。
「よーし、世界中の美女とヤっちゃうぜ」
異世界に降り立った俺は新たな人生の抱負を胸に歩き出した。
あれからどれだけの時間がたっただろう。
「ダーリン、いい子で待っててね、泥棒猫を皆殺しにしてくるから」
そういったのは目を見張るほどの美人だ。顔と体だけならやりたいランキングトップスリーに入る逸材である。
ただし身の毛もよだつ笑みを浮かべて狂気的な目を向けてくるヤンデレ女である。
全身を拘束された俺は動けない。
これからヤンデレ女は魔軍四天王の紅一点とその軍勢を迎え撃ちに行く。
拘束した俺を隠して。
俺を狙う実力者を殺し続けて世界有数のレベルとなったヤンデレ女だが、それでも魔軍四天王は俺という足手まといを抱えたままでは討ち果たせないという判断であろう。
「あなたは誰にも渡さないわ。すぐに帰ってくるからね」
動けない俺にちゅっちゅしてからヤンデレ女が姿を消した。
そこに、空間からにじみ出るようにして現れたのが最悪の魔女であった。
白い肌をピンク色に火照らせ淫靡な魔力を隠そうともせず吹き付けてくる最悪の魔女はもまた素晴らしい外見の持ち主だ。
どこまでも暗い深淵のような眼を三日月のようにして俺を見つめる。
「みぃぃぃつけたがはっ」
ねばつく視線で俺を舐めまわそうとした最悪の魔女の胸元から漆黒の刃が生える。
この特徴的な刃は暗殺教団の女暗殺者の仕業に違いない。
「このお方を愛するのはわたくしですわ」
暗殺教団により、愛するということはすなわち殺すことであると刷り込まれた恐るべき暗殺者がまた俺にたどり着き、最悪の魔女を排除――。
「ダメよお嬢ちゃん、お姉さんの邪魔をしたら」
――できなかった。
胸から凶刃を生やした最悪の魔女はにじむように消滅し、少しずれた場所に現れる。
理屈はわからないがなんか魔法的な空蝉の術とかそんなんだろう。
「因果操作魔法だよ、愛しい君」
わかりません。
ともあれこんなやばそうな魔法を使う魔女すらごまかして逃げていたヤンデレ女マジパネエ。
「ほんとそうよね。まあ、今ここにいないのだからッ」
「最悪の魔女、あなたも愛されたいのね」
最悪の魔女と女暗殺者の戦いが始まる。
どちらも世界有数の凶人であり、まともにやりあってどちらが勝つのかなんて俺には想像もできない。
ただわかるのは買ったほうがさらにやべーやつになるということだけだ。
決着つかずでヤンデレ女が帰ってきて撤退するのと、決着がついたうえでヤンデレ女と戦いになるのどっちがいいのかもわからない。
拘束されて動けない俺はただただ状況を見守るしかできることはなかった。
なぜこんなことになったのかというと、つまり最初の一手である。
チート転生して調子に乗って「よーし、世界中の美女とヤっちゃうぜ」とか言っちゃった俺が悪いのだ。
これで世界中の、俺が美女と感じる女性すべてが徐々に俺のことを好きになっていったのである。
際限なく。
また、スキルは使えば使うほど鍛えられるらしく。
無数の女性を相手に行使したことになり、スキルは一気に成長した。
ほんともう、世界中の美女が俺のことを好きになったのである。際限なく。どんどん好きになるのだ。
そして、好きな相手へのアプローチは人によって、また愛の深さによってさまざまである。
結果、あのヤンデレ女が誕生したのだ。彼女は最初に立ち寄った町の飯屋の給仕だったのだが。なんでこうなったのかわからないほど強くなった。ヤンデレにもなった。素養があったのだろう。
彼女を置いといても、ヤバイ女たちに狙われ続けた。
女だった魔王が女だった勇者と、俺を取り合って相打ちになったり。
カマキリみたいな生態の種族に襲われたり。
複数の国が俺を指名手配しつつも俺を争って戦争になったり。
まるで蠱毒のように俺をめぐっての争いが続いたのだ。
それも、俺への好意が深まるばかりで消えないために泥沼である。
さらにこうして逃亡生活を送るようになってから、ヌイてない。
何がって、ナニをである。
もう何年になるだろう。
命の危機を覚え続け、しかし自分では何もできず。
今ではなぜかいつもビンビン状態である。
「ああもう、誰でもいいからヤリたい」
そんなことを思ってしまうほど、欲求不満がたまっており。
目の前で恐ろしくもおいしそうな女性が争っているのを見てつい口からこぼれてしまった。
「あっ!?」
「んっ!?」
最悪の魔女と、女暗殺者の口から嬌声が漏れる。
スキルが発動した。してしまった。それに反応したのだ。史上まれにみるレベルで強化されたチートスキルによってさらに愛情が深まったのである。
ん、……待って? 俺今なんて言った?
おしまい