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(故)エマージェンシーコール  作者: 甲乙千夜
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始まりの破獄1-3

どうも甲乙千夜です。

主要人物たちの名前が出たら、途中で人物おさらいみたいなのを挟む予定です。

次も水曜日のお昼ごろに投稿いたします。

 クローゼットには学生服が一式備わっていた。純白な白のカッターシャツに紺色のブレザー、そしてストライプ柄の青いネクタイ。清潔感のある制服を身に纏うと、痩せた体が気にならない姿に変化した。青年は自分自身でも少なくとも外を出歩いて怪訝な顔をされることはない印象を覚えた。


「顔のやつれは……仕方ないか」


 自身の顔をしげしげと見ていると、


「こんにちは~」


ノックもせずに一人の女性が入室してきた。青年が思わず素っ頓狂な声をあげると、女性は手を合わせて謝った。


「ごめんね、驚かせるつもりはなかったの」


 白衣を身に纏う女性はおっとりとした口調で自分が何者なのかを説明し始めた。


「私は、ディケルト学園医療課主任の北城麻美(きたしろあさみ)です。戦いで傷ついたら私のところで治してあげるね」


「ど、どうも」


 北城麻美と名乗る女性は長い睫毛を強調しながら青年にウインクした。高い身長に高いヒール、細いの体躯は美人という単語を連想させる。そして大人の色気が具現化したものなのか、青年には周囲がピンク色に染まっていくように見えた。


「えっと……ところで、北城さんは何をしにここへ?」


「おっとっと、そうだったそうだった。私がここに来たのは理事長さんから迎えを頼まれていたからよ」


「理事長が……ですか?」


「そうそう。ディケルト学園高等部一年生として入学するんでしょ?」


「はい、間違いないです」


「じゃあいっしょに行きましょう! 入学式に遅れちゃうわ」


「お願いします」


 北城麻美の空気や人間性に押されるがまま青年は個室を後にした。


 空気抵抗を感じさせない推進力で道路を進んでいく。水素エネルギー特有の静かなエンジン機構からは想像できないほど力強い走りを見せていた。


「あまり乗ったことないでしょ、この自動車」


「そうですね。うちはガスエネルギーが主要な車だったので」


「あら懐かしい! 一年前に製造を中止してからめっきり見なくなった種類ね」


「そんなに変わってるんですか……」


「無理もないわね。世の中は日進月歩、技術もそうだけど汎用できるまで作り上げる力もあがっているからね。一年前のモノが古いものと感じることも普通になってきたわね」


「まぁ、そういう種族ですからね、俺たち……そういえば、ハンドルも無いですね」


 青年の記憶が正しければ少し前までは自動車はガソリンを利用し、騒音と排気ガスを出し、そしてペダルとハンドルで操作するモビリティという認識だった。

 しかし今の北城麻美の両手は筒状の中に収められており、足元にあるはずのペダルは見当たらなかった。

「ハンドルはあるわよ。私の脳がそのものになるわ。まぁ、この機体は私みたいなヒトだから扱えるのだけど」


「展開率は?」


「30%ね。まだまだ伸びしろがあるわ」


「さ、30%……」


 謙遜する北城に青年は凄いの一言しか表すことができなかった。


 展開率――脳の可動域を示す数値は、一般的な人間が15%程度である。北城は一般的な脳の倍の展開率を誇る。それを「まだまだ」と言い切れる精神や向上心は並みのヒトではないことを示していた。


「でも、君も。何なら遺伝子レベルで強いんじゃない?」


「そこまで期待しないでください。今の俺に、血族を背負える程の力はありません」


 あはは、と嘲笑する青年だったが、その表情には暗雲が垂れ込んでいた。


北城に手渡されたメモに書かれていた『龍崎』の姓、『蓮真』という名。

龍崎――『創生記』に記された、終焉・誕生・交戦・平穏の四節。この物語の中心人物であり今の現世を生み出した創生者の祖先、その直系にあたる姓。


(あの更地を生み出したのも、この子なのよね……)


 助手席に乗る細身の青年の風貌ともたらした結果の整合性が北城は未だ取れていなかった。本当に強大な力を持っているのか、また暴走が起こるかどうか、監視命令の元で北城のような有力者たちは、青年――龍崎蓮真をこれから見ていくことになる。そのための試金石はどこかで投じる機会が必要である。


 青年自身でコントロールが利かなくなり、もし全人類に被害が及ぶものであれば……最大限の力を持って最悪の処置を行わなければならない。


(まぁ、でも……出来ないわね)


 横顔から伺える恩師の面影に、手を掛ける未来が見えなかった。


誤字脱字は容赦なく言ってください。

わざとでなければ修正します。

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