短編小説 こんな話を聞いた 「高もっさん」
ガサガサ、駅のゴミ箱を漁る男がいる。
ボロボロだが、髪は七三分け、赤いネクタイ、背広の上下を着こなし、革靴を履いている。
高もっさんだ。この人、ホームレスだが、キレイ好き。不思議な人だ。
おっ、食べかけの弁当を見つけた。
フフッ、 とシニカルな笑みを浮かべる。
高もっさんのクセだ。
それを素早くバックに仕舞い込み、急いで立ち去る。
口笛を吹く♪ジーンケリーの「雨に唄えば」だ。
生まれは香港で、資産家の息子だったらしい。親が事業に失敗し、流れ流れて、この駅に住み着いた。ちなみに英語はペラペラだ。
セルフの三分間写真機が彼の寝床だ。
たまに、日雇いの仕事はあるが、お金が入ると一日で全額使ってしまう。
昔、住み込みで木工所に務めた時も、給料を貰ったら一週間帰って来ず、一円も無くなってから帰って来た。すぐクビだ。一種の病気かもしれない。
この駅には長く、皆んなからは「高もっさん」と呼ばれる。
高もっさんには、友達がいた。ホームレス仲間の山もっさんだ。
二人は気が合うらしく、よく一緒にいた。
共通の趣味が映画で、ジョン ウェインからスチィーブ マックイーン、イチ押しがシェーンだ。シェーンの話をしたら止まらなくなる。実は、暇な時、映画館の斎藤さんがこっそり、タダで見せてくれるらしい。
そんな時、二人は大興奮だ。一晩、映画談義が止まらない。
しかし、…山もっさんが生活保護を受けることになった。身元が証明出来たからだ。
高もっさんは、国籍も本籍も不明なので生活保護は無理だった。
山もっさんが駅から去った。
高もっさんは、寂しそうだった。
クリスマスの夜、
私が出張から帰って来た時、
高もっさんが、サンタクロースの帽子を被っていた。
「高もっさん、その帽子どうしたんですか?」
「あそこの若者が、これ被って立っていたら千円くれるって、言うんだよ」
若者らが、柱の影から笑いながら動画を撮っていた。
私は、無性に腹が立った、
高もっさんに千円渡し、サンタクロースの帽子を取って捨てた。
高もっさんは、「Thank you!」と言い、弁当を買いに行った。
ある日、高もっさんが、訪ねて来た。
「この間は、ありがとう。三日も食べて無かったんだよ」
「いいですよ、高もっさん、どうしたんですか?」
「駅に財布が落ちててさ、落とし物ですよ、と言ったら、お礼に一万円もくれたんだよ。Luck is on my side today!」
フフッ、 とシニカルな笑みを浮かべる。
「そしたら、変な男に声を掛けられたんだよ。住み込みで温泉旅館に来ないかって、Licky me!」
「よかったですね」
高もっさんは、ご機嫌だった。
一か月後、高もっさんは、駅にいなかった。
無事、温泉旅館に行ったかな?
私は気になって、他のホームレスに高もっさんの事を聞いてみた。
「ああっ〜、アイツか〜皆んなに金借りてよ〜騙されて〜どっか行っちまったよ〜」
高もっさんは、男に、「温泉旅館までの交通費を用意しろ」と言われ、ホームレス仲間から必ず返すと約束して三万円を集めた。
しかし、その男は三万円を持ったまま帰って来なかった。
高もっさんは、男を待って、一週間、バスターミナルに立っていたそうだ。
酷い話だ、お金が無いホームレスを騙すなんて!ホームレスの三万円は一般人の何十倍に値する。悪魔だ!
高もっさんは、「責任とってお金を稼いでくる」と言って、駅を出て行ったそうだ。
それっきり、高もっさんを見かけることは無かった。
新聞に身元不明の死者の記事が出ると、思ってしまう。もしかして、高もっさんかも?
高もっさん、どうしてるかな。