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俺に歳の離れた妹が出来た、しかもその少女、鬼らしい  作者: 三雨
オウミ先生とアレイスターさんと修行
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仁獣

オウミ視点です

 慶志郎の異変に、私は後ろに跳んで即座に距離を取った。

 そこからすかさず構えては慶志郎を見やる。

 何だ、あのはち切れんばかりの膨大な力は――

 さっきまで立っているのもやっとなヘロヘロ状態だったくせに一体どこからそんな力が沸いて出てくるというのだ――まさかっ……⁉


「そいつに飲まれるな慶志郎ッ! 戻って来いッ!! 溺れるな慶志郎ッ!! 慶志郎……」


 呼び掛けに反応が無い。その代わりに今尚増幅を繰り返す力。

 時すでに遅かったか……クソッ!

 沸いているのではない、水脈が増えたのだ。塞き止めていた堤防を乗り越え溢れ出ているのだ。

 一体どこからなど言ってる場合では無かった。ましてやこんな何も知らんかったような無知の振る舞いなど私に許されない。

 こんな白々しい言い草などもってのほか――!


 あれの力の源は私が一番良く知っている。そしてその強さも、その凶悪さも全て。

 あの想いは満たしても満たしても乾く杯のようなもの。強欲に貪欲に潤いを求め続ける無限地獄。

 欲に溺れ、塗れ、行き着く先に永遠なんて有りはしない。この世は無常だ。

 それでも夢幻を彷徨い、想いが力を欲し望み続ける。だからこそあの力は危険なのだ。

 それ故に私は慶志郎の心の奥底に封じ込めた。こいつは何かと欲に付け込まれ易い。


 しかしその封印と言う名の防壁を乗り越え、奴が出てこようとしている。

 死しても尚、渇望し続ける夢幻の想いを携え、目覚めようとしている――


 あの知らせを貰った時、まさかとは思ったが……これは早急に止めなければ――!

 幸いにも、まだ完全に目覚めてしまったわけではない。

 ならばまた封じ込めば良い。あの時と同じように私の全身全霊を傾けて。

 だから待っていろ慶志郎、奴の支配にお前を飲み込ませはしない。


「――おい貴様」


 私の言葉と同時に奴が拳を振りかざして迫ってくる。

 間合いは一瞬の内に詰まるが、私は光を張ってそれを防ぐ。


「――ッ!」


 想い同士のぶつかり合い……なんてものはない。

 言葉を持たない獰猛な獣が牙を剥いて襲いかかるような野生の暴力。

 理性を吐き捨てたその拳は、目の前の障壁をただ屈伏させるためだけの手段。

 荒々しく打たれるその殴打の連続に私の盾がミシリと音を立てた。


「――相変わらずの馬鹿力だな。うんざりする」


 気を抜けば盾は割られ、この小さな体躯なんぞ簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。

 現に今の私はギリギリで耐えているし、展開した盾を通して両腕がビリビリと痺れている。

 片鱗でこれ程とは……これは長引くと流石に不味いな……私も慶志郎も。

 ならばやる事は一つ。足を地に付け、目の前の敵にどっしりと構え、迎え撃つ。


「慶志郎すまんな。一つだけ謝罪させてくれ」


 私の言葉に――いや正確には私の力の流動に奴が反応した。

 それに構わず、私は自身の頭上に光を展開する。


「手を出さないと言ったが、そうも言っていられなくなった」


 刹那、轟音を引き連れ無数の光の飛礫を辺り一面に降り注ぐ。


 手応えは有る。だがこれは……

 舞う砂煙、訪れる静寂――その中で何処吹く風の如く悠然と佇む異物の双眸と目が合った。

 何かを訴えかける眼差しを捉えながら私は言葉を口にする。


「ひどく懐かしいだろう。この姿を目にするのは」


 そう言って私は自身の頭から突出した一角を撫でた。

 先程の集めた光の残滓が微かに感じ取れる。次の発射までにまた力を貯めなくてならない。


「この鱗のような腕の膜も、烈火に揺れる尾も全てが懐かしいだろう。そう……お前を封印した時のまま何も変わっては――」


 言い終わる前に奴が突っ込んでくる。

 どうやら怒りと憎しみの感情はありそうだ。いや、正確に言えばそれらと征服しか持ち合わせていないのだろう。

 だからこそ単純で単調。


 透けて見える思考に合わせ、私も拳を突き出してそれを迎撃。


「重いだろ……? 私の想いは――!」


 力と力の衝突。

 想い思いの力比べ。

 その反動は周囲の風景をも揺らす。


 そこへ加える私の誓いの炎。

 不義を許さず、不道を灼き尽くす聖火の鉄拳を奴の不浄の光へと叩き込む。

 たちまち奴は蹌踉めき、先程までの動きが嘘のように倒れ込んだ。

 私情を挟んで良いのならあと数発を撃って憂さを晴らしたい。

 しかしながらこれでも皆から先生と慕われる身だ、道徳に反する真似は許されない。

 だからこそ、幼き体の背を目一杯伸ばして、打ちひしがれたこの様を見下ろすくらいは許されたい。


「貴様も慶志郎もほとほと手のかかる奴だ」


 私の言葉にピクリと僅かながら反応したが、反撃する力は残っていないと見た。ならば迅速に元に戻さなければならない。

 私は倒れ込んだ慶志郎の体へと歩み寄り、そのまま腹にのしかかる。

 いくらダメージが蓄積されていようとも、童子一人分の重さ程度の加算は単なる誤差であろう。

 そんなことに構うこと無く、私は慶志郎の体へ手を翳す。

 さすれば光を纏った掌から炎が上がる。それは慶志郎の体を支配する不道を締め上げる。

 今度はより強固に、より頑丈にと想いを込めて巻き上げ、楔を刺す。


「次に会う時が貴様の本当の最後だ。だから今はまだ眠っていろ――」


 私がそう言うと、慶志郎から不道の力が鎮まっていくのを感じた。

 やがてそれを一切感じなくなった。良かった、これで私も一息付ける。

 慶志郎の体を敷布団代わりにして身を委ねるが、これくらいは許して欲しい。


 ふむ、もやしっ子かと思っていたが、こいつ意外と鍛えているな。一息付くには硬くて寝心地が悪い。

 それでも背に腹は代えられん。地面で寝るのはあまりにも体も心も休まらん。


「――先生、これは一体」


 中々体勢が決まらず、何とも居心地の悪い空間を過ごすこと少し、アレイスターが迎えに来た。


「アレイスターか、ちょっと色々あってな」


 私の言葉にアレイスターが何やら考えている。

 堅物すぎるのが玉に瑕だが、私が話さずとも聡明なこやつなら自ずと真実に辿り着くだろう。決して私が喋るのが面倒臭い訳では無い。



「……成程」

「うむ、そういうことだ」

「先生、不貞行為を働くのはあまり良くないかと」


 ……どういう道を辿ったらそうなるのだ。


「違うぞ、アレイスター」

「そうでした。子供体型故、先生にまだ番はいらっしゃいませんでしたね」

「張り倒すぞ」

「押し倒しているのは先生の方では……?」

「……」

「冗談です。茶目っ気です」

「尚更たちが悪い」


 駄目だ、何だか会話するのが嫌になってきた。

 普段こんなことは一切言わないのに何があった……? そもそもそんな真顔で冗談ですとか言われてもどうすれば良いのか分からん。


「それより、懐かしいですねそのお姿。25年ぶりに見ました」

「ふむ、私も披露するつもりはなかったんだがな……ほんと色々あったのだよ。という訳で後のことは任せたぞ」


 私の言葉にアレイスターは頷く。

 堅物が故に、約束事はちゃんと守ってくれる。こやつはそういう男だ。今はどこかおかしくなっているのが心配だが……。


 まあ、今の私が心配したところで無駄だ。

 この力の代償はあまりにも大きい。だからなるべく使いたくなかった。


「――不吉、ですね」

「眠るだけだ、死んでおらん」


 私は纏った力を解き、アレイスターに身を委ねて瞼を閉じた。

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