護衛のために公爵家令嬢に告白をしたら、何故か婚約者になりました
『レインフィール魔術学園』の庭園には、綺麗な花々が咲いている。
今年入学したばかりの生徒達を歓迎するように咲き誇っていて――そんな場所に、二人の男女がいた。
少女の名はフィリアーナ・レイナード。
『ラウンヘイズ王国』の三大公爵家の一つであり、魔術師としての名門としても知られていた。
長い金髪に凛とした顔立ち。今年入学した生徒の代表であり、首席として新入生代表の挨拶も行ったほどだ。
この学園に入学した者で、彼女を知らない者はいないだろう。
「それで、話というのは何かしら?」
フィリアーナがそう、口を開いた。
彼女に相対するのは、黒髪の青年だ。中性的な顔立ちをしているが、決して目立つようなタイプではない。
同じ学園の制服を身に纏っているが、フィリアーナの方は青年のことを知らないだろう。
学園内の成績は中の下。特段高いわけでもなく、彼女からすれば、ただの一生徒にしか過ぎないレベルだ。
唯一の接点は、同じクラスであるということ。
しかし、青年――イルト・ワイティスは彼女のことを知っていた。
イルトの役割は、フィリアーナとお近づきになり、護衛になることである。
それが、イルトの剣と魔術の師であり、この国の騎士団長でもある女性、セイナ・ラグワイルからの依頼であった。
彼女によって救われ、そして幼少期に面倒を見てもらったイルトはその後、『傭兵』として独立した。
世界各地を転々として戦士としての腕を磨いた彼は、別の大陸では最強と謳われるほどの傭兵となっていたのだ。
そんなイルトの元へ、かつて自分を助けてくれたセイナから依頼が来たのだ――受けないわけにもいかない。
しかし、この依頼にはいくつか問題があった。
フィリアーナは公爵家の娘であるが故に、護衛を付けることが当たり前なのだが、彼女自身がそれを拒んでいる。
魔術学園に通う上では、他の生徒と対等でありたいというのが、彼女の願いらしい。
……もしも護衛を付けるのならば、レイナード家であることが問題なのだから独立する、とまで言い切るほどらしい。
そのため、この国の騎士については護衛を付けることができない。
そこで、護衛という名目を隠して近づく必要があった。
もう一つの問題は、そういう人材がこの国にはいないということ。
すなわち、彼女と同じくらいの年齢では、当たり前だが騎士ではなく学生しかいないということだ。
つまり、彼女の年齢に近しくて、なおかつこの国では知られていない人間である必要があった。
実力があって名を知られていないのは、イルトをおいて他に適任はいないだろう。
後は――イルトが彼女とお近づきになるだけだ。
(しかし、ただの友人関係では少し足りないか……?)
無難に友人になれるように話かけてみてほしい――そんなセイナからのアドバイスはあったが、果たして友人関係で彼女の護衛が務まるだろうか。
そんな疑問の末――イルトは考えに考え抜いて、フィリアーナを近くで守る方法を思いついたのだ。
「……さっきから黙ってばかりじゃない。何も話がないから、これで失礼するわ」
「いや、待ってほしい」
背を向けて去ろうとするフィリアーナを止める。
イルトは小さく息を吐くと、『真剣な表情』で言い放つ。
「一目見た時から、君のことが好きなんだ」
イルトが口にしたのは、そんな『告白』であった。
友人関係レベルで、果たしてフィリアーナの傍にいられるだろうか。
すでに、入学した時点で彼女の傍に近づこうとする者は多い――故に、一番近くにいるのならば、いっそ告白して傍にいた方がいい。
それが、イルトの考え出した『護衛』の方法であり、イルトはフィリアーナと付き合うことで彼女を守ることにしたのだ。……もちろん、それがイルトにとっては『仕事として』であり、偽りであることには違いない。
しかし、イルトは傭兵仲間から聞いたことがある。
男女の付き合いなど、それこそ若い頃はずっと一緒にいるものではない、と。
それならば、バレさえしなければ護衛のために一緒でも問題はないはずだ。
そう思って、イルトは告白した。
……問題は、フィリアーナがそれを受けてくれるかどうか、だ。
公爵家の令嬢ともなると、情報にはなかったが貴族同士で懇意にしている者がいるかもしれない。
ひょっとすれば――彼女がすでに心に決めている人も、いるかもしれないのだ。
そうなると、イルトの告白作戦は失敗してしまう。
その場合は、イルトは『お友達関係』レベルでとどまってしまうことになるのだ。
しばしの静寂。いきなりの告白は失敗だったか……そう思って、ちらりとフィリアーナの顔を見る。
「ふぇ……!?」
顔を真っ赤にして、ようやく反応を見せたのはフィリアーナの方だった。
――私が何故、あなたのような平民と付き合う必要があるのかしら?
――いきなり告白とか、ふざけているの?
――消えなさい。
この辺りの言葉が返ってくる可能性があるとシミュレーションしていたのだが、これはイルトが全く予想もしない反応であった。
……何というか、物凄く初々しい。
もしかすると、フィリアーナは今のような『大胆な告白』に慣れていないのかもしれない。
「きゅ、急に何を言い出すかと思えば……お互いに何も知らないのに、こ、困るわ」
ようやく絞り出すように、そんなことを口にするフィリアーナ。
しかし、彼女の態度を見れば分かる。
――フィリアーナは、箱入り娘なのだ。彼女はまだ、恋愛事については全く疎く、いきなり好意を示されることには全く慣れていない。
あるいは、彼女ほどの相手になると、簡単に告白しようという者がいなかったのかもしれない。
だが、これはイルトにとっては追い風であった。
「知らないのであれば、これから知ってほしいんだ。代表の挨拶で見た君はとても美しかった――僕には、もう君しか映っていない」
告白のために用意しておいた台詞を、イルトは口にする。
これを成功させるために、あらかじめ読んでおいた恋愛小説の言葉を少しいじって使った。
そんなイルトのシンプルな告白を受けて、フィリアーナは少し後退りをする。
「うっ、ほ、本当にそんなことを思っているの?」
「もちろんだ。僕はずっと、君の傍にいたいと思っている」
「……そ、そう。えっと、先に断っておくと、こういう告白はその、初めてで、少し動揺しているわ」
知っている――というか、少しというレベルではない、とイルトは心の中で突っ込みを入れる。
問題となるのは、彼女の答えだ。
フィリアーナが小さく深呼吸をして、真っ直ぐイルトの方を見る。
「あなたのことはまだ知らないし、いきなり告白されても、答えるのは難しいの」
(……くっ、やはり難しいか)
「でも――」
フィリアーナが前に出る。
イルトの手をそっと握り、上目遣いで見つめて、
「あなたの真っ直ぐな言葉は、すごく素敵だったわ。だから、その告白、受けてあげる」
「! 本当に?」
「ええ、何でそんなに驚いているの?」
それはもちろん、失敗する可能性も高いと考えていたからだ。
しかし、無事にイルトの告白作戦は成功した――これで、フィリアーナの護衛として傍にいられる。まずは、仕事の第一段階についてはクリアだ。
「じゃあ、私達は婚約者ということでいいわね」
「……ん、婚約者?」
だが、次に聞こえてきた言葉に、イルトは首をかしげる。
「当たり前じゃない。あなたと私は将来を誓い合う仲になったのだから……少なくともどちらかの意志だけで破棄をするなんてあり得ないわ。早速、明日にでも書類を纏めて国に報告をしましょう?」
少し恥ずかしそうにしながら、けれど彼女は淡々とそんな言葉を言い放った。
『男女の付き合いなんて簡単なものだ』――そんな風に聞いていたはずなのに、契約まで結ばされるとは聞いていない。
しかし、今更『なし』にできる雰囲気でもなく、ここでなしにすれば間違いなく仕事にも失敗する。
それは、恩人であるセイナにも迷惑のかかることだ。
「……うん、そうしよう」
イルトは護衛になるためにフィリアーナと付き合うことになる――それも、婚約者という思った以上の関係によって。
そうして、二人が婚約者として知られるようになるのは一月と掛からず、気付けば護衛ではなく本当に一緒になってしまうことになるとは、イルトもまだ考えもしないことであった。
認識の違いにより思ったよりも重い感じになってしまうような感じの付き合いから始まって、そのまま結婚してしまうような展開が好きです。




