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第7話:予想はピッタリでした。

 照らし出された道の先にいたのは一人の少女であった。


 少女といっても、俺の妹フィオラよりちょっと小さいくらいだから、その年齢はギリギリ二桁に届かない程度だろう。


 金色の髪に金色の瞳。整った顔立ちをしていて、誰が見ても美少女であろう。

 奴隷服かと見間違えるほどに薄汚れてボロボロになった服から覗いている肌は、触ったら冷たいと錯覚するのではないかと思うほど雪のように白い。


 フィオラは天真爛漫といった性格だからどちらかというと可愛いという印象が強いのだが、目の前の少女はどこか儚げで、それでいて永久凍土のような凛々しい逞しさを感じる。その姿には美しいという言葉が他のなによりも当てはまる。


 少しの間、互いを見定めるような静寂が流れていたが、その沈黙は少女の言葉によって破られることになった。


「貴様ら人間か?随分と長いこと余を幽閉しておいて、今更何をしにやってきた?お互いに顔を合わせないほうが良いと言ったのは貴様らのほうではないか」


 少女が何やら聞き流すことなど到底不可能な発言をした。


 俺の中から湧き上がってきた仮説は、早く少女を問いただせと俺を急かす。


「俺らはあなたのことを全く知りません。私たちは、ここを偶然見つけただけのただの洞窟調査員です。それよりも、先の発言から推察するに、あなたは俺ら人間より遥かに長い時を生きる人外ですか?よもや吸血鬼などとは言わないでしょうな」


 こんな怪しげな空間に長い間幽閉されている偉そうな金髪美少女など、俺の想像の中ではもう吸血鬼としか言いようがない。

 この世界に吸血鬼という種族自体は存在したらしい。それはある程度信用のある遺跡研究家によって証明されている話だ。

 ただ、人間との抗争が勃発、人間は多大な被害を出しつつも、吸血鬼は1体残らず殲滅されたとの学説で一致していた。


 俺は正直にいうと、これ以上面倒なことに巻き込まれるのはご免なので、少女が否定してくれるのを期待していた。

 しかし、俺の言葉に反応した少女の、にやりと笑ったその口元から見えた、人間にしては鋭すぎる八重歯を見て、俺の期待は無意味であろうと半ば確信した。


「いかにも。余は吸血鬼、アレクサンドラ=サンヴィアント=リシーアであるぞ」

「ご挨拶どうも、俺はコウタ=バロン=シャロン。こっちはメイドのソフィ=フェメデミナです」


 本当に吸血鬼だった。


 ていうかこの子一人称が「余」だったな。言葉遣いもだいぶ偉そうだし、吸血鬼の国の女王だったりするのか?態度が失礼であるとか滅茶苦茶な理由で敵対されないよな?


 面倒そうなので一刻も早くこの場を離れたいところではあるが、とりあえず敵対行動はとっていないので、少し話を聞いてみることにした。


「俺の知る限り吸血鬼はとうの昔に殲滅されたと聞いたのですが、なぜ幽閉されているのか教えてくださいますか」

「どうやら余の身体能力が高すぎてどうしても殺しきれなかったらしくての、血液を飲ませないことでなんとか無力化はできたから、ここに閉じ込めておこうとなったらしいぞ」

「なるほど、左様でしたか。では太陽の光は苦手ではないのですか?」

「吸血鬼は夜行性だからの、強い光の下では目眩がしてかなわん」

「十字架とニンニクは苦手ではないですか?」

「どちらも余は知らぬ言葉じゃの」

「では、眷属をお作りになられたりはしますか?ご自身だけで吸血鬼を増やしたりすることはできますか?」

「コウモリを眷属として視界を共有したり出来る。吸血鬼を増やすには他種族と同様にして子を作らねばならぬな」

「では、棺の中で眠ったりしますか?」

「棺の中というよりも、暗い場所で眠りたいのう」

「レディには失礼かと存じますが、ご年齢は?」

「1000を超えてからは数えておらんから分からぬ」

「じゃあ吸血鬼に寿命って……?」

「本来はないな、じゃが大抵の場合は生きることに飽きた者から自害によってその命を絶つ」


 吸血鬼の衝撃の事実を知った気がするが、本人が気にしていない様子なので、それが当たり前というものなのだろう。

 それにしてもけっこう素直に会話してくれるな、この人。もしかしたら本当に長い間幽閉されていたから話し相手に飢えていたのかもしれない。


「ところでお主、余の願いも聞いてもらっても良いかの?」

「え?ここから出すこと以外で俺にできることならいいですけど?」

「なぜじゃ!なぜここから出してはもらえんのじゃ!」


 いやいや、いくら封印したのが昔の人とは言え、さすがに一度人類の敵になった存在を積極的に逃がしてやることなどできるわけがない。

 ソフィの考えはどうなのだろうかと、さっきから黙りこくっているソフィのほうを見ると、誰が見てもわかるレベルでボケッとしていた。


「おーい、ソフィ?大丈夫か?」

「ふぇ?あ、すみませんコウタ様!……ところでキュウケツキ?って何ですか?」


 なるほど、ソフィは吸血鬼という種族自体知らないのか、軽く説明しておこう。


「吸血鬼というのは人の血を吸って生きる種族のことだ。昔人間と敵対して殲滅されたらしいんだが、どうやら生き残りがいたらしい」

「人の血を吸うんですか?どうしてそんなことするんですか?」


 確かに言われてみればもっともな疑問なのだが、俺には正直分からなかったので目線をアレクサンドラのほうに向けてみた。


「ふむ、吸血鬼は人の血を贄として使う術に長けておるからの、それで生命を維持する事もできるし、魔法を使うこともできるんじゃ。人間の血を吸わずに生きることは出来るんじゃが、やはり血を吸って生きるほうがコスパがよくての。それに吸血鬼が血を飲むと、お主らが酒を飲むみたいに気持ちよくなれるのじゃよ」


 なんで遥か昔に封印された吸血鬼がコスパなんて言葉を使うのかツッコミたいところだったが、俺はそれをぐっと飲みこむと、加えて質問することにした。


「人の血にそのような使い道があるとは驚きですね。1日にどれくらいの血が必要なんですか?」

「まぁ、普通の吸血鬼であれば10ミリリットルくらいじゃな」


 俺は吸血鬼の血液の変換効率が異常なまでに高いことに心底驚いた。


「え!?そんなに少しでいいんですか?では人間と共存の道もあったのではないですか?なぜ人間は吸血鬼を殲滅しようなどと?」


 俺がそう問いかけると、今までは調子よく答えていたアレクサンドラは急に遠い目をして悲しそうに顔をゆがませた。

 しばしの沈黙が流れた後、重々しい声音でアレクサンドラは口を開いた。


「さっきも言ったように吸血鬼にとっての血は、人にとっての酒のようなものなのじゃ。昔は人間に金を払って少し飲ませてもらう程度だったのじゃが、もっと飲みたいと欲する馬鹿者が出始めての。歯止めが利かない者は大量に、それこそ殺人を犯してまで血を吸うようになった。その吸血鬼は飲んだ血で強力な魔法を使い、さらに血を集めたのじゃよ。余はそれを止めようとしたのじゃが、余のように必要最低限の血しか飲んでおらぬ者はその力に対抗できるわけもなかった」

「それで人間の反感を買ったと……」

「仲間を殺した人間を、恨んではいないのですか?」

「全く恨んでいない、といえば嘘になるのやもしれんがの。暴走する仲間を止められなかったのは確かに余の罪。人間を恨むのはお門違いと思っておるよ」


 実に悲しい話である。自分は穏健派なのに、むしろ穏健派であるがゆえに過激派の暴走が止められず、人間の殲滅対象になってしまったわけか。


「そう、なんですね……。あ、そう言えば何でアレクサンドラさんは血を飲んでもいないのにまだ生きていられるんですか?」


 重い雰囲気を払しょくしようと思ったのだろうか、ソフィが質問を投げかける。


「うむ、余はトクベツじゃからな。微量ながら空気中の魔力を集められるから、生きるのに必要な魔力くらいは勝手に集めてしまうのじゃ。ちなみにこの力のおかげで余は吸血鬼の女王をやっておったぞ」


 目の前の少女は、こともなげに自分が元吸血鬼の女王であると明かした。

 俺は内心では物凄く驚かされたのだが、急に態度を変えて機嫌を損ねられるとむしろ面倒なので、とりあえず全力で無関心な振りをしておくことにした。


「それってつまり、何も食べなくても生きていけるってことですよね。凄いじゃないですか。」

「まぁ、飢えて死ぬことができないからこんなところに幽閉されとるんじゃがな」


 アレクサンドラは冗談めかしてそういうと、今までの重かった雰囲気は何だったのかと感じさせるほどに明るくケタケタと笑った。


 話していくうちに、俺はアレクサンドラに興味を引かれていった。

 ただでさえ貴重な吸血鬼という存在、そして血を使った魔術の存在。それはすっかり魔法オタクになってしまった俺に対する誘惑としては上等なものだった。

 そして、俺はアレクサンドラをここから連れ出すことを決意した。


「わかりました、アレクサンドラさん。お話を聞いていて、あなたが人に害意を持っていないことは十分にわかりました。あなたをここから出すことにします」

「本当か!」


 ここでの暮らしは相当退屈なものだったのだろう。アレクサンドラはものすごく目をキラキラと輝かせている。


「でも、条件があります。俺が誓約書を作るので、そこにサインをしてください。内容としては、俺が言うことには絶対従うこと、俺の許可なく人間を害さないことです」

「そんなことでいいのか?良いぞ良いぞ!ここから出られるなら何でもしようじゃないか!」


 俺はバッグから紙とペン、机代わりの木の板を取り出すと、さっそく誓約書を書いて俺の名前を書き込んだ。


「そういえばアレクサンドラさんはなぜそこから出てこれないんですか?」

「それなんじゃがな、どうやら見えない壁のようなものがあるみたいなんじゃ。力を加えると同じ勢いで反発を食らうのじゃよ」

「わかりました、ちょっと見てみますね」


 アレクサンドラの言う通り、どうやら力を感知すると正反対の方向に同じ力を加える魔術が働いているようだ。


 でも魔術が働き続けてるってのは少し変だ。魔術が発動されるたびに消費される贄があるってことなんだよな。


 そう思って俺は試しに足元をスコップで少し掘ってみた。すると……


 ガキン!


 金属同士がぶつかる音が響いた。どうやら贄の正体に当たったらしい。急いで土をどかしていく。


「コウタ様……これってもしかして……」

「ああ!もしかしなくても金だ!金のブロックが贄として埋まっているんだ!」


 どうやらマジック・サーチャーはこれに反応していたようだ。


「鉱脈はなかったけど、これはお宝だぞ!これで当分の財政問題は解決か……」


 金のブロックは、全部掘り出してみると10センチ四方のブロックが、さらに大きな10メートル四方のブロックを作るように積まれていたことが分かった。

 消費されたと思われる金の量は全体の1割に過ぎなかった。

 まったく、どんだけアレクサンドラを幽閉しておくつもりだったんだ。


 金を全部取り出してバッグに収めると、地面に掘られていた魔法陣をスコップで突き崩して壊した。


「おーいアレクサンドラ、魔術はもう解けたから出てきていいよー」

「本当に……本当にこの時が来たのじゃな……」


 アレクサンドラがどれほどうれしかったのかは顔を見れば一目瞭然。今にも泣きだしそうなほど、歓喜に満ちた表情だった。


「それじゃあアレクサンドラさん、ここにサインしてね」

「うむ。余のことはサーシャと呼ぶが良い。特別に許可してやろう。それから敬語も不要じゃ。余のような美少女に敬語を使うのはイワカンがあるじゃろ?」

「あ、ああ、そうだな、ありがとうサーシャ。これからもよろしく」

「こちらこそよろしく頼むぞ」

「えっと、私も!よろしくお願いします!サーシャさん!」

「うむうむ」


 サーシャが自分のことを美少女と呼んだことは完全にスルーして、誓約書にサインをしてもらった。実はこの誓約書にはちょっとした秘密があるのだが、それは今話すことでもないと思ったので、しばらくは伏せておくことにした。


 そして、サーシャと打ち解けたこのタイミングで、俺は兼ねてからの願いをもう一つ、ソフィに頼むことにした。


「ソフィ、実は言いたいことが一つだけあってさ」

「何ですか?」

「俺のこと、コウタ様じゃなくて、コウタとか、せめてコウタさんって呼んでほしいんだ。なんだかコウタ様って呼ばれるのが少し恥ずかしくてね」

「え?良いのですか?わかりました。コウタさん。これからもよろしくお願いします!」

「ああ、よろしく頼む」


 その後、俺たちは元々来た道を帰ることにして、洞窟から坑道へ、坑道から地上へと抜けだした。

 楽しい時間は過ぎるのが早い、とよく言うが、それは俺たちにも当てはまるようで、金を掘りだしたりする時間が意外と手間取ったらしく、外はもうすっかり夕焼けになっていた。


 鉱山から出てきた3人は全員、それはもう嬉しそうなホクホク顔であった。

彼女を第二ヒロインにするつもりです。

吸血鬼といえば金髪少女な気がするのは私だけでしょうか。ちなみに金眼なのはあとでバリバリ魔法使ってほしいからです。

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