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第5話:転生しても厄介ごとに巻き込まれる体質でした。

今まで連日投稿でしたが、今後は楽しく気まぐれにちょこちょこ書いていきます。

どうぞお楽しみください。

 考えてみれば夜明け前に起きることなんて今までなかったかもしれない。

 鉱山調査のためにまだ外が暗いうちに起きた俺は、まだ眠い目をこすりながら着替えを済ませて食堂へと向かった。


「おはようございます。そろそろ起こしに参ろうと思っていたところです。まだ厨房で火を起こしていないので簡単な料理をお作りしました」


 ソフィに誘導されて席に着くと、そこにはハム、レタス、トマトを挟んだバゲットが朝ごはんとして用意されていた。

 いわゆるBLTサンドのベーコンがハムになったようなものだ。なかなかにおいしそうなので、試しに一口食べてみたが――


「うまいな」


 思わずそう漏らした。ハムとレタスとトマトの相性は絶妙にマッチしていて、たっぷりぬられたガーリックバターが食欲とスタミナをグングン加速させる。

 用意されたサンドをすべて腹に収めるのにそう時間はかからなかった。

 サンドを食べきって少しのどが渇いたなと思うと、ちょうどそのタイミングでジーヴスさんが紅茶を出してきてくれた。


 ジーヴスさんはこの家の従者をとりまとめている執事で、もう70代の終わりに差しかかっているのに、その仕事は確かなものである。どうやら今日もソフィが作業している音を聞きつけて起きてきたらしい。

 俺が魔法の研究に没頭していた時、ジーヴスさんには荷物を運んでもらったり食事を持ってきてもらったりして結構一緒にいる時間が多かった。にもかかわらず俺はジーヴスさんが座ってるところすら見たことがない。いつ休んでいるのだろうかと心配になるほど、常に仕事をしている印象だ。


 ジーヴスさんの髪はこの世界においては珍しい黒髪で、それをいつもオールバックにしていた。といっても完全な黒髪ではないようで、ところどころ銀色の髪が走っているのだが、むしろダンディーな印象を持たせている。

 瞳の色は深い青色。生まれたころから右目の視力を少し弱かったそうで、普段から右目に、はめ込むタイプのモノクルをつけている。


 紅茶を飲みながらしばし食休みしていると、ソフィが着替えて戻ってきた。

 洞窟に行くというので汚れても良い服を選んだのだろうか、黒地のワンピースを着ていた。

 普段はメイド服を着ている姿しか見ていないので、見慣れぬ姿に少しドキッとしながらも今は時間が惜しかったので、一言「似合ってるよ」とだけ言ってそそくさと玄関へ向かった。

 ソフィがなにやら恥ずかしそうにしているのが視界の端に映ってしまい、興奮のあまり心のメーターが振り切れそうになったのだが、鈍い系主人公補正をかけて何とか無視することに成功した。




「では、どうかお気をつけていってらっしゃいませ」


 ジーヴスさんに見送りを受けた後、俺とソフィは馬車へと乗り込んだ。

 鉱山までは片道約1時間を要する。前方に御者がいるとはいえ、狭い空間に男女二人でいるというのはかなり気まずいもので、一瞬が無限に感じられる。

 かなり微妙な空気感の中で会話もせずにいると、緊張の糸が耐えられなくなったのだろうか、コウタの意識に睡魔がにじり寄ってきた。

 今朝は起きるのが早かったし、何よりこの何とも言えない雰囲気を回避できるならそれに越したことはないので、これは幸いとその誘いに体を任せてひと眠りすることにした。


「到着しましたよ。そろそろ起きたらどうですかね。あっしは今からちょっとキジ撃ちに行かせてもらいます、帰る時はここにいるんで声をかけて下せえ」


 睡眠の呪縛から目覚めると、御者が小窓を開けて少し乱暴な口調で声をかけてきていた。

 ソフィは先に馬車を降りて、もうすっかり明るくなった青い空を眺めている。


 俺は少し伸びをしようとして、天井に手をぶつけた。幸いソフィは天を仰いでいたので醜態を晒すことはなかったが、物音は聞こえたようで不思議そうに振り返ると、目を覚ました俺に気が付いた。


「お目覚めになったのですね。それでは出発いたしましょうか」


 今冷静に考えてみれば、男が女性の前で無防備に寝顔をさらすというのも十分恥ずかしい行為だろう。

 よだれをたらしたり、いびきをかいていなかったか物凄く心配になりつつも、それを顔に出しては本末転倒なのでざわつく心を落ち着かせて馬車から降りた。


 いや、正しくは降りようとした。


 降りようとして馬車の縁に足をかけたところでその足を滑らせた。倒れそうな体を支えようとして咄嗟に足に力を入れたのだが、それが悪手となって、地面に勢いよく放り出された。

 慌てて腕を伸ばして受け身を取ろうとする。このまま倒れこめばさほど問題にもならなかったのだろうが、その先にソフィが立っていた。

 そしてソフィは逃げるのではなく、俺を受け止めようと両手を広げている。


「ちょ、危なっ!」


 当然逃げろという暇もなく、勢いよくソフィに飛び込んでしまう。

 このままソフィを地面に衝突させるわけにはいかないと俺は必死に体をひねって自分の体を地面とソフィの間に滑り込ませる。

 不幸中の幸いというべきか、地面には背丈の低い草が生えており、擦り傷を作るのはいくらか軽減してくれたが、衝突自体はほとんど軽減されなかった。


 意識が遠のいていくのを感じる。背中から地面に叩きつけられたのだから当たり前と言えば当たり前のことなのだが。

 よく、”背に腹は代えられない”とはいうが、今の状況では”女の子に背中は代えられない”のである。実に仕方ない犠牲であった。


「――すか!起きてください!ご自分の名前がお分かりになりますか!」


 目を開けるとソフィが涙目になって肩を揺さぶりながら声をかけてきていた。


「大丈夫だ。俺はコウタだ。少し脳が揺れただけだと思う。問題な……うぉ」


 とりあえずソフィを安心させるように問題ないと言おうとしたのだが……思わず間抜けな声を漏らしてしまった。


 端的に言えば一つ大きな問題があったのである。


 俺が気を失っていたのは一瞬のことだったらしい。倒れこんだ状態のまま呼びかけられていた。


 故にソフィの顔が異常に近いのだ。顔と顔の距離がわずか握りこぶし二つ分くらいしかない。

 そのうえソフィは俺の上に馬乗りになって、肩に手を置いている。


「よかった。安心しました。コウタ様に何かあったかと思うと私……」


 ソフィはそういうと、ダメ押しとばかりに俺の胸に顔を押し当てて涙を流し始めた。

 本人にその気はないとわかっていても、される側としてはなかなか響くものだ。

 特に理性が根こそぎ吹き飛ばされそうになる。


 とはいえソフィはただのメイドであって、ここで理性を投げ捨てる様では俺はただのセクハラ上司である。この世界の価値観で言えば問題ない事かもしれないが、現代人である俺がそれを許すはずがない。

 良き日本人である俺は抱きしめて慰めたい気持ちをなんとか押さえつけ、ソフィの腰を軽く叩くと、そこを支えてスッと立ち上がる。

 その程度がギリギリ許される範囲だろう。


「俺のせいで心配をかけてしまったみたいだ。本当に申し訳ない。次からは気を付ける」


 立ち上がってそう言うと、ソフィは涙をぬぐいながらコクコクと頷いた。


「では、気を取り直して洞窟へ向かおう。今は1秒でも時間が惜しい」


 漂う甘い空気を吹き飛ばすようにわざと少し大きめな声で宣言すると、俺たちは洞窟へとつながる鉱山へ足を踏み入れた。





 坑道は決して広いわけではなかったが、高さは1.8メートルほど、横幅は大人2人分くらいある。機械がないこの世界でこの大きさの穴を掘りぬくとは意外にすごいことだと思う。

 後に聞いた話によると、鉱夫達は精神力が鍛えられているおかげで、衝突の瞬間に重力を増大させる魔法陣が彫り込まれているピッケルを使って効率的に採掘ができるそうだ。


 坑道内は魔術によって作り出された半永久ロウソクによって結構明るく照らし出されていて、崩落を防ぐために魔法陣を彫り込んだ枠木がところどころ設置されている。


 少し歩くと例の崩壊現場にたどり着いた。崩落というよりは壁が吹き飛ばされたといった感じで、右側の壁からなだれるようにして土砂が積もっていた。


「これは老朽化によって自然に起こった崩壊というより、強い衝撃によって瞬間的に引き起こされたものかもしれないね」

「どうしてそうだとわかるんですか?」

「坑道内は魔法陣が彫り込まれた枠木によってちょっとやそっとのことじゃ崩落しないようになってるんだ。木に彫り込まれたという性質上風化すると効力が損なわれるという欠点があるけど、周りの枠木を見る限りそういう事もない。だから何か強い力によって崩れた可能性が高い」

「なるほど、でもそれほど大きな力が加わることってあるんでしょうか?崩壊したのって昨日の夜のことなんですよね?」


 言われてみればその通りである。どうやらソフィを連れてきたのは正解だったようだ。


「お手柄だ。ソフィのおかげで一つ気づいたことがある。この土砂は坑道内になだれ込んできている。加えて、洞窟側にはあまり土砂が入り込んでいない。つまり、この崩壊は洞窟側(・・・)から加えられた力によって起こったんだと思う」

「私のおかげだなんてそんな、私は何も気が付きませんでしたよ。そんなことまで気が付くなんて流石コウタ様ですね」


 そういわれて照れくささに少し体を熱くしつつ、適当に土砂をどかして洞窟へはいれるようにする。


「これから先は暗いからこのランタンで照らしながら歩いていく。ソフィにも一つ渡しておくから、足元には気を付けて。俺の通った道を通れば安全だろう」


 改めてソフィに注意を促すと、マジック・サーチャーを起動させてゆっくりと進んでいく。


 洞窟といえば、ゲームでよくある迷路のように複雑な道のりを想像していたのだが、この洞窟は分岐がほとんどなく、強いて言えば水溜りがあるくらいで、どうしても通れない道はなかったし、迷うこともなかった。

 分岐自体も進んでみればすぐ行き止まりになったり、道が細くなって通れなくなったりして結局1本道のような構造になっている。


「洞窟っていうから張り切ってきたんだけど、ちょっと拍子抜けかな」

「そうですか?私が今朝ジーヴスさんから聞いた話では、洞窟って長い時間をかけて水に削られたりしたものだから、人が通れるくらいの洞窟ならちょっとしたデートスポットになる程度の場所だそうですよ?」


 恐るべき博学ジーヴスさんである。そういえば俺が勉強をしていた時は、魔法の研究ばっかりだったから、むしろ常識とか生活の知恵とかはジーヴスさんが教えてくれたんだよな。俺、一生あの人に勝てる自信がない。


 帰ったらお礼として何かプレゼントでもしようかな。ただ、あの人いかにも「仕事が命、物欲はありません」っていう性格してるから何送ったらいいか想像もつかないな。


 そんな他愛もないことに思案を巡らせていると、手元から軽い振動を感じた。


「マジック・サーチャーに反応がある。方向はこの洞窟の道なりっぽいな。よし、気を引き締めて進もう」


 期待に胸を膨らませながら少し速めの足取りで洞窟を進んでいくと、かなり広めの空間に出た。半球形のドームの様になっていて、高さは一番高いところで10メートルくらいだろうか。直径は数十メートルはありそうだ。


 どう考えても自然にこういった空間が出来るとは考え難い。というよりも確実に人の手が入っている。

 洞窟の壁には半永久ロウソクと思しきものが等間隔で設置されていた。

 こちら側の道は1本道で崩落まで地上とつながっていなかったことから、ちょうど反対側に見える洞窟の続きのような場所から人が出入りしていたのであろう。


 とその時、洞窟内に重々しい声が響いた。


「なぜここに来た。今すぐ帰れば許してやろう」


 なんだが危ないにおいがするが、ここで引き下がるわけにはいかない。希少鉱石の鉱脈という希望が見えた以上、それを捨てることは財政破綻にまた一歩近づくということなのだから。


「こちらも後に引けない立場なのです。この洞窟はあなたの所有物ですか?」

「私の所有物ではない。だが、今は私が使っている場所だ。それを邪魔するというのであれば死をもって償ってもらう」

「随分と物騒なことを言うものですね。ですがこの洞窟を所有しているわけでないというなら私にも立ち入る権利があるのです。探索をさせてください」

「引き下がらないか。ならば死ね」


 声の主がそう告げると、向かい側の穴から何かが吠える声が聞こえた。おそらく魔獣の声だろう。


 ソフィに逃げるように言おうとした次の瞬間、穴から飛び出してきた魔獣がいきなり襲い掛かってきた。

 おそらく魔獣化した熊だ。溢れ出る魔力から推し量るに、おそらく捕食1000匹レベルの魔獣である。いったいどうやって生き延びたのかは分からないが、ただでさえ体が大きく力も強い熊が捕食1000匹となると相当強い。


 しかし、声の主に従っているようなタイミングで登場したことに強い違和感がある。魔獣とは理性を失った存在。人の声など届くはずもないのだが……もしかすると魔獣を支配する方法でもあるのかもしれない。


「ウガアァァァァァァァァァ」


 熊魔獣は物凄い咆哮を上げながらまだ動けないでいる2人に襲い掛かる。


 実際、熊魔獣は本能敵にそう思っていた。勝った、と。

 この段階で人間にはすでに、魔獣に反抗する手はもう残されていない。


「グワァァァァァァァァァ」


 次の瞬間、気づいたころには熊魔獣の体は今まで走ってきた方向と反対へ吹き飛ばされていた。


 ソフィは死を覚悟していたのか、目をぎゅっと閉じて頭を抱えていたが、いつまでたってもそれは訪れない。恐る恐る目を開けて確認する。


 そこには右腕を前に突き出して手を開き、悠然と立つコウタの姿があった。

そういえば「!」や「?」の後には1マス開けるっていう書き方が主流なんだそうですが、明確なルールはないそうで、私はないほうが見やすいと思ってる人間なのであえて開けてません。

見にくいという意見が多ければ考えたいと思います。

他にも文法や語法的におかしな点があれば、ぜひご指摘ください。

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