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第4話:我が家が危機に陥っていました。

最初の半分は前回の続きです。

「父さん、俺、実は言いたいことがあるんです。実は、明日からソフィに専属メイドになってもらおうと思っています」


 俺は意を決して口を開いた。

 紹介するために部屋の隅に控えているソフィがいつ話すんだろうかとソワソワしているようで、まともに食事にも集中できなかったが、やはり落ち着いてからがいいだろうと食事が一通り終わってから話すことにした。

 決して話を切り出す勇気がなかったわけじゃないし、緊張していたせいで今日の食事中の会話があまり成立していなかったということもない……たぶん。


 俺たち一家は家族仲を大切にしたいという両親の考えから、夕食は毎日一緒に食べるようにしている。

 一家は4人家族で、俺と、父親のエバーハルトと、母親のルシアナ、それから10歳の妹のフィオラ。

 髪の色は俺以外みんな黄色。瞳の色は、父さんが黒で、母さんは赤色。それを受け継いだのかフィオラの瞳は燃え上がるような紅色だ。魔術の適性と魔法の適性が噛み合わないなんてことはよくあることだ。

 真っ先に口を開いたのはやはり父親のエバーハルトだった。


「なるほど。このことが気になって今日の夕食の間コウタは挙動不審だったのか」


 思いっきりばれてた。


「まぁ、それはそれとして。私もそろそろコウタに専属メイドを付けたらどうだと言おうと思っていたところなんだ。コウタが自ら選んだのであれば反対はしない」

「お父様?それは本気でおっしゃっているんですか?私の記憶によればソフィはまだ新人ですのよ?優秀なお兄様の専属メイドなど務まるとはおもいません!」


 珍しく……もないがフィオラが反対した。瞳の色と同じ真っ赤なリボンでまとめたツインテールを荒ぶらせながら、猛抗議する。

 ちらりと母ルシアナのほうに目をやってみるが、いかにも我関せずといったように優雅に紅茶を飲んでいる。どうやらこの場の判断は父に一任するようだ。


「だそうだが?コウタ。それは本当かね?理由はあるのかい?」


 やはりそれなりの試練はあるようだ。しかし覚悟していたことでもある。


「ソフィ、ちょっと来てくれないかな」


 俺は髪色のことも含めて納得してもらうためにソフィを呼び寄せた。

 父さんはメイド雇用に関してはメイド長にすべて任せている。おそらくソフィのことも知らなかったのだろう。少し驚いたようにソフィを観察すると、再び俺に視線を戻してアイコンタクトで説明を求めてくる。


「確かにソフィは新人だ。今日も俺の部屋の前で花瓶を割っていたしな」

「んな!そんなことをしておいてなぜ専属メイドなどにしようと思ったのですか?さてはお兄様たらしこまれましたか?私は絶対反対です!」


 フィオラが以外にも鋭い発言を投擲してくる。なぜ10歳の子がたらしこむなんて言葉を知っているのだろうか。

 心臓を貫かれないように鋭利な言葉のナイフを間一髪でかわして、動揺が表情に出るのを抑えると、一息落ち着いてから理由を説明した。


「ソフィには最初から専属メイドとしての完璧な仕事を期待しているわけではありません。今まで俺は自分の予定くらい自分一人で管理していましたし、身の回りのことも引っ掻き回されるのが嫌でほとんど自分でやっていました。だからソフィができるようになるまでは俺自らソフィに仕事を教えますし、そのほうが俺も安心してソフィに仕事を任せられます。それに……」

「それに?」

「父さんはもう気付いていると思いますけど、ソフィは魔術魔法が使えないんです」

「お兄様!それじゃあ彼女は日々の仕事も他人には及ばない上に、有事の時にお兄様を守ることもできないじゃないですか!」

「大丈夫。自分の身くらい自分で守れるさ。それに専属メイドの仕事に力仕事はない。どうしても魔法を使わなければならない場面なんてほとんどないし、そういう時は俺自身でやる。俺は誰よりも魔法を使える自負があるからな。それに本心。俺はソフィに興味があるんだ」

「やっぱりたらしこまれてます!お兄様!目を覚ましてください!」


 まるで「一発殴って正気に戻してあげます」と言いたげに拳を振りかぶっているフィオラを慌ててなだめると、俺は言葉を続けた。


「そういう意味じゃないよ。ほら、俺はなんでも魔法が使えるだろ?だから魔法がどうしても使えないっていうソフィに少し興味があるんだ。俺がすぐ解決できてしまう問題をソフィがどんなふうに対処して、どんなふうに成長していくのかを見ていたいと思ってる」


 自分で言っていてもかなりクサいセリフだと思ったが、これで納得してもらうしかない。恐る恐る家族のほうを向いてみると、母さんは相変わらず無関心を貫いていたが、父さんはどうやら認めてくれたらしく、目が合うと大きくうなずいた。

 フィオラはとても不満げに頬を膨らませ、泣き出しそうに目にうるうるさせていた。それでも俺の決意は固そうだと知ると、ソフィに人差し指をビシッと突きつけると、今まで聞いたこともないような大きな声で叫んだ。


「専属メイドになったくらいで、私からお兄様を取り上げられると思ったら大間違いですからね!覚悟しておいてください!泣いても許してあげませんから!」


 フィオラは一気に言い切ると、軍人もびっくりのきれいな回れ右を決めてダーッと走り去ってしまった。


「ちょい、待てよ!人に指を向けるのはよくないぞ!それから俺は別にフィオラのものでもソフィのものでもないぞ!ってまったく聞いてないな……。ソフィ、フィオラは元からああいう奴なんだよ。頭が冷めたら謝りに来ると思うし……許してやってくれ」


 そう言ってソフィの方に目をやると、ソフィは頬をトマトのように真っ赤に染めてうつむいていた。やはりフィオラに認められなかったのはいくらかショックだったのだろうか。


「ソフィ?大丈夫?」

「はっ!はいっ!大丈夫です!私、頑張りますね!」

「そうか。ならよかった。これからよろしくね」

「あ……はぃぃ……」


 改めて握手を求めるとソフィは消え入りそうな声で返事をすると両手でしっかりと握手をしてきた。手がとても熱い。よほど緊張していたのだろう。


 怒涛の展開を駆け抜けたせいか、自分でも知らないうちにかなり緊張していたらしい。一気に脱力するとそのまま椅子にへたり込み、5分ほど立ち上がることができなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~3日後~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ならば、明日、俺が視察に行ってきます」


 実は俺たちの領地の財政はかなり苦しい。というかあと1年足らずで財政破綻を起こす危険性がある。

 俺は自ら名乗り出て定期的に開催される領内の有力者を集めた会議に出席しているのだが、そこでも財政解決策は行き止まっていた。

 まぁ、その理由は明確なのではあるが……。


 俺の父さんは、現代人の俺から見ても素晴らしい人格の持ち主で、「民が国の唯一の資本。民の幸せなくして国の幸せはありえない」という、この身分社会においては到底考えもしないような崇高な信念のもと、善政を敷いている。

 もちろん、税金を取らなければ財政が回らないことは目に見えているので税金の徴収自体は行っているのだが、それがかなり緩い。


 いわゆる所得税に当たるものは、以前王都から視察に来た役人が言うには平均の大体4分の1らしい。つまり、全収入の内80%を占める所得税収入が4分の1に削られたものなのだ。

 そのほかの収入は関所を利用した雀の涙ほどの交通料と、鉱山から掘り出された石炭の収入である。


 関所の交通料を上げるのは論外。交通の妨げになって領民が苦しむのは目に見えているし、時々来る行商人だって寄り付かなくなり、むしろ財政は悪化するだろう。

 石炭についても、工業が発展していないこの世界において石炭は質の悪い贄くらいの認識しかなく、石炭で稼ごうなど土台無理な話だ。


 現在、俺たちの領地を維持できているのは父さんのおかげである。

 実は父さん、なんでも昔は王国の騎士団に所属していたらしい。

 1000匹ほどの獲物を捕食したと思われる魔獣の討伐作戦で最前線に立ち、作戦成功の第一人者となったそうだ。

 その武功を認められた父さんは、爵位と小さな領地と報奨金を得たのである。

 その報奨金に加えて、騎士団を脱退する時に、父さんの人格を尊敬する後輩団員が寄付してくれた退職金のようなもので現在まで財政を何とか維持してきた。


 そんなだましだましの財政計画が長く持つはずもなく、その資金はあと1年で底をつくと計上された。


 控えめに言っても危機である。この問題を解決できなかったら、毎年王国に納めている領地税を納めることができず、領地を取り上げられてしまう。

 そうなると、新たな領主がどんな輩かわからない以上、領主交代によって、領民に大きな税負担を強いる可能性が出てきてしまうのだ。


 やはりあきらめるしかないのかと俺も意気消沈していたところ、もしかしたら希望となりえる報告がたった今上がってきたのである。

 早速、領内の自警団団長と鉱山管理者を呼んで、俺と父さんも合わせた緊急会議を開いた。


 報告によれば、鉱山で働く鉱夫がいつものように石炭を採掘しようと坑道を歩いていると、坑道が途中で崩壊していたらしい。

 これは困ったことになったと崩落した岩をどかしているとなんと洞窟につながっていたそうで、試しに少し進んでみたのだが、魔獣の唸り声のような音が響いてきたため慌てて地上に戻ってきたそうだ。


 魔獣の討伐は領民の安全確保のため、通常であれば当分第一目標となるだろう。

 しかし洞窟探索において希少鉱石の鉱脈が発見できれば、いままで散々あえぎ苦しんできた財政問題が一気に解決する。


「しかしコウタ殿。いくらコウタ殿の望みとはいえ魔獣もいる危険な地域に行くことは見過ごせませんな。我々自警団が魔獣を駆逐するのをお待ちいただきたい」

「それに鉱脈の発見も難しいと思われます。鉱石鑑定にある程度慣れている職人がいかなければ、洞窟などという暗い場所ではまず鉱脈は見つけられますまい」


 自警団のハンス団長と、領内唯一の商会であるレボンダ商会の会長でもあって、鉱山の管理を一任されているレボンダ商人が反対の意を示した。もっともなことである。


「いえ、俺程度の実力があれば捕食1000匹程度の魔獣だったら問題なく処理できますし、手数戦は魔法の得意分野です。範囲攻撃ができますからね」

「それは本当ですか!聞けばエバーハルト様が最前線で戦った魔獣も捕食1000匹程度。王国軍精鋭小隊と同等の相手を問題なく処理できるとは!冗談じゃありませんぞ!」


 そういってハンス団長は勢いよく席から立ち上がると領主エバーハルトに訴えかけた。彼は父さんの理念に深く感動したそうで、父さんが騎士団を辞めるときに彼も辞職し、領主として日が浅かった父さんの改革を、自警団団長の立場から法の守護者(物理)として手助けしたそうだ。


「まぁまぁハンス君。コウタはこういう場においても空気を読まず冗談を吐くような子ではない。その実力は彼の魔術の師匠であるカール先生お墨付き、というか先生自身、彼の使う術についてはもう何が何だか分らんと言っておるようだし、あながち間違いではないだろう」


 その通り。俺が回復魔法をカール先生に見せた時、先生は腰を抜かすどころか、常時エビのように曲がっていた腰をピーンと伸ばして泡を吹いて倒れた。ショックが強すぎて心臓発作を起こしたらしい。

 その時は俺の心肺蘇生と回復魔法によって事なきを得たが、またカール先生に魔法を発表するときはたっぷりと前置きをしておかなければ、あの人は冗談でなくショック死してしまうかもしれない。


「かつて王国の魔術師協会参謀だったカール先生をもうならせる魔法ですか……いやはやコウタ殿は末恐ろしいですなぁ」


 ん?初耳なんだが?カール先生ってそんな聞くからにすごく偉そうな組織の参謀だったの?まじで?俺ってそんなすごいことしてたんだ……。

 よし、今度からもう少し自重しようかな。いや、いまさらか……。


「し、しかしですな。いくら魔法とはいえ鉱石を見分けるような魔法まではないでしょう?魔獣討伐はいいとしてやはり鉱脈探索はそれなりに時間がかかりますな」

「いえ、それについても俺がいけば問題はありません。これを見てください」


 そういって俺はトランシーバーのような手のひらサイズの道具を取り出した。


「この機械は中に組み込まれている魔法陣の効果で、魔力が流れている間、大きなエネルギーを感知するとその方向が表示されるようになってるんです。確か村の入り口に防犯のために贄のエネルギーを探知するゲートがありましたよね?それを応用したものです。これで希少金属のエネルギーを探知して鉱脈を発見できます。俺はこれを”マジック・サーチャー”と呼んでいます。そのままですけど」

「なんと!そんなものまで!……しかしそんなコンパクトにまとめられているものならさぞ実用性があるでしょう?量産して販売できないですかな?」


 さすがは商人である。どんなことでも商売に結び付けるその立派な商人魂がこの領地の収入を縁の下から支えているだけのことはある。しかし……


「残念ながらそれは難しいですね。ここまでコンパクトにしたものですから、扱うのに相当の魔力を要します。それに回路がかなり複雑で何種類かの魔法を組み合わせているので、俺みたいにほとんどの適性を持つ人でないと、操作自体ままなりません」

「そうですか……それは残念ですな。それでもその道具があれば鉱脈探索はたしかに従来の何倍もの速度で進みそうですな」

「うむ。我々としても協力できないのは歯がゆいが、ここはひとつコウタ殿に任せてみるとしようか。それでよいですかな?エバーハルト様?」

「それが最善であろう。頼んだぞ、コウタ。これはこの地の未来にかかわる」


 どうやらみんな納得したようだ。


 父さんの言う通り、今回の洞窟探索はこの地の未来の命運をかけたものとなるだろう。心して臨まなければならない。


「そうと決まったら明日の朝一番にでかけます。今日は一刻も早く準備をしたいので、これで失礼させていただきます」


 俺は挨拶もそこそこに部屋を飛び出すと早速準備に取り掛かった。


「まったく、ご子息が頼もしいですなぁ。私の息子も少しくらい商売に精を出してほしいものです。しかしこれでシャロン領の未来も安泰というものですなぁ」

「ああ、そのことなのだが一つ相談があってな……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 俺が部屋に戻っていそいそと準備をしていると、ベッドメイクをしていたソフィが話しかけてきた。


「お疲れさまでしたコウタ様。そんなに急いで準備をしてどこかに行かれるのですか?」

「ああ、どうやら鉱山に新たな洞窟が発見されたらしい。俺が明日、そこの調査に行くことになった。どうやら魔獣もいるらしいから念には念を入れて準備をしているんだよ」

「魔獣がいるのですか?そんな危険なところに行かれると心配です」

「いや、俺の実力なら問題ないよ。ちょっとやそっとの魔物にやられるほどヤワじゃないつもりさ」


 俺がそう説明してもソフィはどうやらまだ心配なようで、何か言いたいことでもあるのだろうか。作業は終わったのに、それから何をするでもなくもじもじしている。


「どうした?言いたいことがあるなら言ってごらん」

「あの……明日の洞窟調査、私もご一緒することはできませんか?」

「なぜだい?ソフィは魔術が使えないのだろう?一緒に行っても危ないだけだ」

「それはわかってるんです。でも……でも、どうしても、その……心配なんです。足手まといになるのはわかってるんです。でも私の知らないうちに、もしコウタ様に何かあったら私、どうしたらいいのかわかりません」

「そうか……分かった。一緒に行こう。でも俺より先に行っちゃだめだ。俺が指示したこと以外はするな、ソフィの安全のために」


 放っておくと1級建築士ばりに次々とフラグを建築していきそうなソフィの頭を少し撫でて安心させると、俺は同行を許可した。

 別に少し目に涙をためながら上目遣いで頼んできたかわいい女の子の頼みだから断れなかったわけじゃない……そう、決して。

 しかし、彼女は何があっても守らなければならない。これは俺の責任だ。


「ところでコウタ様はそのかばんに次々と物を詰め込んでいます。明らかにかばんの限界量を超えていると思うのは私だけでしょうか?」

「おっと、ばれたか。これは俺が自分で作った道具なんだ。名前は……そうだな、仮に”パーソナル・バッグ”とでもしようか。詳しいことはかなり難しいから端的に説明すると、物質をエネルギーに変換して貯蓄することで、スペースを取らない収納を実現させたんだ。しかも他人はほとんど中身を取り出せないはずだ」

「そんなことができるんですか!それって私専用のも作れるんでしょうか?」

「すまないが今はまだほぼ俺専用だな。エネルギー変換の際に取り出すもののエネルギーに対する適正が必要なんだ。だから水瓶一つ取り出すにしても全エネルギーに適性がないと取り出せないんだ。魔力消費も意外とあるし、取り出したいものを明確にイメージしないといくら魔力があっても取り出せないしね」

「そうなんですか……。まさに魔法の英知といった感じですね!さすがはコウタ様です!」


 実は、異世界と言えば無限収納機能だろう!と思ってその存在をカール先生に聞いたところ、「ほっほっほ、坊ちゃん。坊ちゃんでもそのような夢物語を語ることがあるのですな。その研究はとうの昔に破綻しておりますのじゃ」とか盛大に馬鹿にされてしまったことがある。

 悔しくて作ってやろうと息まいたのだが、実は何度か挫折した。さすが、昔の研究者が匙を投げるほどだ。しかし、俺としてはあきらめの悪いことに関して負けるわけにはいかないのだ。ちょくちょく実験と失敗を繰り返して11歳の時にやっと完成させた。

 そしてそれをカール先生に報告したところ、例にもれず、先生は白目をむいて泡を吹きながら倒れた。必死の蘇生によって命に別状はなかったが、その後3日寝込んで起きられなかったそうだ。


 そんな昔話をソフィに話していたら準備は完了した。


「明日は夜明けとともに出発しようと思う。そっちも早く寝て明日に備えておいたほうがいいと思うよ」

「はい、わかりました。まだ料理人の準備ができてないと思いますので、朝ごはんと昼ごはんは私が用意しておきますね。おやすみなさい」


 どうやら明日はソフィの手料理が食べられるらしい。実に楽しみである。

 そんなことを考えつつ、寝られないなどと抜かしている余裕はないので、ベッドに入ってしっかりと休息をとった。

少しずつコウタ君のチート性能が発覚しているようです。これからどんなことになるのか、私自身楽しみにしてます。

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