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銀滅のドラゴンロード 〜最後の龍王〜  作者: 翡翠宮
第2章 旅立ち
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旅立ち #1

今回は少し長くなってしまいました。切りどころを見つけられなかったもので……申し訳ないです。


 「本当にありがとございました」「感謝する」「ありがとうございます」「ありがとう!」


 深々と頭を下げる人族一行。日が完全に沈んだ今、俺たちは簡単な夕食を済ませ、彼らの持ち物にあった小型のランプを灯らせて囲っていた。重症だった男も夕食の前に目を覚まし、輪に加わっている。


 「礼を言われる事をした覚えはないのだが……?」


 「え?」


 「俺は治癒の手段を提供しただけであって、不利益は被っていない。礼を言うのは筋違いではないのか?」


 率直な意見を述べる。俺たち(ドラゴン)は生活の内で礼を言うことは滅多にない。礼とは心の隙を作る行為であり、その隙は命をも奪うかもしれないからだ。だから、礼をするのは親しい間柄か、それこそ身内くらいである。


 「……そうであってもお礼を言わせて下さい」


 「…………」


 これが人族の文化なのか?こんな隙だらけな種族に俺たちは負けたのか……そんなことを頭の淵で思案する。そんな俺に、向かって一番左に座っている騎士の男が言った。


 「そうだな……まず自己紹介をさせてくれ。色々あって名乗ってもいなかったからな」


 俺は黙って彼らを促す。

 

 「俺はフェルゼン=アーデ。元は騎士団に居たが、今は訳あって冒険者をやっている」


 「冒険者?」


 俺は全身を鉄の鎧で覆った姿を視界に収めながら言う。鎧に隠れて見えないが、彼自身相当な鍛錬を積んでいるのだろう。他とは鍛え方が違うのが見て分かる。短いブロンズの髪に丹精な顔立ちの下には隠せていない歴戦の風格が見て取れた。


 「冒険者というは仕事斡旋組織、ギルドに寄せられた数々の依頼をこなして生計を立てている者たちの事だ。安定すればかなり良い収入を得られるが、その分危険も多い」


 俺は今日の樹海での出来事を思い出し「ああ、なるほど」と呟く。『数々の依頼』ということは討伐なども含まれるのだろう。確かに危険な職業だ。人族特有の金銭欲というのは凄まじいものだなと改めて思う。己が命を命有らぬモノと天秤にかけるとは……いまいち理解出来ない価値観だ。

 俺はそこで一旦思案するのを止めて、フェルゼンの隣に座っている少女へ目線を送る。すると少女は、俺の視線を感じ取ったのか身体の向きを変え、頭よりも大きい群青色の魔女帽子を小さな膝の上に置いた。

 

 「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。私はノア=ユナイトと言います。主に魔法でのパーティー支援を担当しています」


 怯えながらも割と積極的に話しかけてきていた魔法使いの少女だ。尖った形状の耳にミディアムショートの髪。蒼く艶やかなその髪色は見るものに柔らかそうな印象を与える。クリっとした瞳も髪と同じ蒼っぽい色だ。そして、俺はその紹介を聞いて言葉を返した。


 「魔法使いというのは珍しい存在なのか?」


 「えっと、それは――」


 「一般的には10人に1人と言われています」


 俺は声にした方向へ顔を向ける。樹海で会った時、弓をその手に持っていたエルフの少女である。


 「申し遅れました。私はリリー=テナール。見ての通り弓術士です」


 俺が変身術を解除した時、激しく怯え、動揺しながらも唯一武器をこちらへ構えていた少女である。翡翠色の流れるようなロングヘア―を後ろで一本に纏め、動きやすさを重視した軽装でその身を包んでいる。琥珀色の瞳はランプの炎を淡く反射させ、時折優しい光が送られてくる。


 「先ほどの問いですが、魔法使いは割合的に希少に分類されます。その中でもここにいるノアは、魔法を杖などの媒体を用いず発動させられる自然干渉力を持っています。そして――」


 リリーの話しによると、魔法を素手で発動させられる人は世界でも50人といないらしい。ランク制を敷くギルド所属の冒険者の中では、文句なしの若手エースに数えられる腕前だそうだ。まあ、当然と言えば当然だろうが。

 そしてランクというシステムについても聞いてみた。加入当初はランク「1」に分類され、数々の依頼をこなしてギルドからの信頼を得るとランクが上がっていく。最高ランクは「10」だが、この域に達しているのは俺が大戦末期に戦った七勇者のみらしい。その事からランク「10」を英雄クラスというようだ。言い得て妙である。

 因みに彼らのランクだが、フェルゼンが「6」、ノアが「4」、リリーが「5」だ。ノアのランクは「4」だが、同年代では「2」か「3」が精々と言われている事を考えると中々に破格である。意外とハイスペックなパーティーだったようだ。


 リリーの話しを一通り聴いた俺は、残る最後の一人に視線を合わせた。すると彼は直ぐに気が付き、俺に満面の笑みをぶつけながら言った。


 「ジェイド=サードニクだ!今日は本当にありがとう。助かったよ。正直もうダメかと思ったぜ」


 紅色の瞳にオールバックにした髪、額に着けた鉢巻が特徴的な青年だ。リリー程ではないが、動きやすさを重視した皮鎧をその身に纏っている。


 「その籠手……お前はこのパーティーの前衛か?」


 俺は彼の脇に並べられている薄い装飾が施された籠手を見ながら言った。


 「正解だ。拳闘士が俺の職なんでな!」


 「そうか。何はともあれ、無事で良かった」



 その後も彼らは俺の質問に快く答えてくれた。他人と……ましてや、かつて戦った人族との対話に新鮮味を感じながら密かに心を躍らせた。悠久の時を生きてきて初めて、俺は異種族に興味を抱くことが出来たかもしれない。これが俺の――いや「俺たち」の()()()であると――信じたい。


最後の一文の「俺たち」ってシュネーと誰だと思いますか?

樹海から出たくて仕方がない今日この頃です。

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