動き出す時間 #5
過去、後悔編はこれにて終幕。皆さん、お疲れ様です。
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10年前のあの日、俺はルージュを殺された怒りに我を忘れ、世界中の人族の街へ襲撃を繰り返した。他の龍たちが次々と討伐される中、俺だけは最後まで生き残りありとあらゆる破壊を行なった。
老若男女、抵抗無抵抗問わず、目に入る全ての者たちを焼き、潰し、喰らい尽くした。
この惨状を打破すべく、エルフ、ドワーフ、そして人間族は国家に関わらない大連合を結成。世界中の刃が俺ただ一人に向けられる事となった。しかし、それでも俺のやる事は変わらない。村、街、国を焼き尽くす傍ら、挑んでくる全て者共をことごとく返り討ちにした。
だが、それも長くは続かなかった。俺が如何に圧倒的な力を持っていようとも、戦力差は天と地以上の開きがあった。最初から勝てるとは思っていない。一人でも多くの奴らを滅ぼすため、俺は戦い続けた。
最終的には連合軍筆頭の七勇者相手に、重症を負わせながらも敗れた。ある者は腕を失い、ある者は片足を失った。俺は疲弊した勇者たちの一瞬の隙を突き、人族に変身。そして術発動の際に生じる激しく強烈な光に紛れて、その場を立ち去った。
幸い、人族は俺が……龍王は死んだと判断し、戦争の終結と勝利を大々的に祝ったそうだ。だが、その喜び以上に俺が残した爪痕は大きかったと聞く。
あの後、俺は戦争終結後の華やかなパレードを目にした。勿論、人の姿を保ったまま。
そこでも俺は激しい怒りに駆られることとなった。そのパレードの目玉として晒されていたのは、女王ルージュの剝製だった。この戦争の圧倒的勝利を誇示するには、この手段が最も効果的だったのだろう。
憎悪に押しつぶされそうになった。だが、今の傷ついた俺では奪い返せないと思った俺は、「あれはルージュではない。ルージュを模したただの人形だ」と自分に言い聞かせながら、足早にその場を立ち去り、樹海へ帰った
そして最深部にルージュへの石碑を建て、傷を癒しながら、止まった時を浪費する生活が始まるのだった。
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静かな樹海の道を歩く。ここは広い樹海の中でも、飛びぬけて広く整備された街道だ。大戦勃発前は数多の龍たちが行きかっていたが、今はただ静かな時を刻んでいる。俺はその空間でゆっくりと歩を進めた。鳥のさえずり一つ聞こえない、孤独な世界を。
次から新たなステップへ移行します。ここまでお付き合い有難う御座います!