動き出す時間 #1
龍王が亡き女王を引きずっているので、また暗くなってしまいました……
もう少しだけお付き合いください。
『私の事は忘れて……幸せになって……先に逝く私を許してください……シュネー……』
樹海最深部。人族からは大戦の発端場所として禁足地と言われているその場所は、太い木々が複雑に入り乱れ、ドーム状を型取っている。そしてその空間の中心部には亡き女王龍の石碑が聳え立ち、ドームの頂点に空いた穴から零れる陽の光を浴び、今も静かに光を放っている。
その石碑の隅に一頭の『白銀』の翼竜が静かに寝息をたてていた。
――『許さねぇ!絶対許さねぇ!よくもルージュを……クソ共が、皆殺しにしてやる……!』
――『済まない……ルージュ……仇、討てなかった……』
繰り返される悪夢。10年前の終戦、女王ルージュを失ってから止まった時間。天も地もない暗闇にただ一人弾き出されたような感覚が彼を襲う。
――これは罰だ。
ルージュを守れなかった罰。
怒りに溺れた罰。
仇を討てなかった罰。
俺はどうすれば良かったのか。どうしなければならなかったのか。ただ一人の押し問答が続く。そして決まって最後に出てくるのは、亡きルージュの姿。怒っているような、泣いているような瞳を俺に向けて佇んでいる――そして、いつもここで夢は終わり、暗闇から目を覚ます。
『――おはよう、ルージュ。いい朝だな』
思ってもいない言葉を石碑に投げかける。自分自身の嘘を凝縮した一言だといつもながら思うが、俺にはこれ以外の言葉が出てこない。ルージュがいつまでも「幸せ」でいて欲しいから……
この瞬間から俺の一日が始まる。長く長く、終わらない止まった時が今日も刻まれる。
* * * * *
白き龍「シュネーヴァイス=アルタイル」、赤き龍「ルージュロート=ベガ」は幼馴染である。
昔から何をするにも一緒だった。親同士の都合で生まれた時から婚約が運命付けられていた二人だが、それを苦痛に思ったことはない。それがお互いにとって最高の「幸せ」だと思っていたから。
王になる事が命運のシュネーと女王になる事が命運のルージュ。生まれた時から……いや、生まれる前から決まっていた事だった。
そして女王を受け継いだルージュは樹海から出る事が出来なくなった。シュネーより早くに王として地位を受け継いだルージュにシュネーは変わらない態度で接した。幼馴染として。そして恋人として――
* * * * *