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飼いゾンビ日記  作者: 樋口和矢
1/1

ぬめ男の看病

 朝、目が覚めたら、体中にびっしょりと汗をかいており、

起き上がろうとしても体に力が入らず、倒れ込んでしまった。


 昨日から寒気がしていたのだが、

どうやら本格的に風邪をひいてしまったらしい。

 

 よりによってこんな時に風邪なんて、タイミングが悪すぎる。


 お父さんは出張で昨日から留守だし、

お母さんは法事で実家に帰っており、明日まで帰ってこない。


 ぬめ男のご飯、どうしよう…


 そう思ったが、どうにも体がいう事をきかず、

僕は再び意識を失うようにして眠り込んでしまった。


 その日は結局、一日中動く事が出来なかった。

 一度トイレに行ったが、立ち上がるのがやっとという有様で、

ふらふらとトイレに行ったのはいいものの、

気分が悪くなって吐いてしまい、しばらくトイレの中でうずくまっていた。


 頭が燃えるように熱かったので熱を計ると、40度近くあったのだが、

とてもひとりでお医者さんに行けるような状態ではなかったし、

まず体が動かなかったので、とにかく僕はうんうん唸りながら

寝ているしかなかった。


 ぬめ男の事が気がかりだったが、仕方がない。


 僕はゲージの中で、ごそごそと動いているぬめ男に


「ごめんなぁ、今日はご飯あげられないや…、

明日お母さんが帰ってくるまで、我慢してくれな、

ほんと、ゴメン……」


 と、ゾンビに言葉など通じないのを承知の上で語りかけ、

また眠りに落ちた。


 次の日、僕は頭がひんやりと冷たくて心地よいのと、

顔のまわりがわんわんとうるさいのとで目が覚めた。

気分はすっかり良くなっていた。


 ふと気づくと、顔の上に、なにやら冷たいものが乗っている。

 見るとそれは、ぬめ男のエサ用に冷凍してあった豚の内蔵で、

わんわんという音は、すっかり溶けて生暖かくなったそれに、

無数のハエがたかっているのだった。


 僕がびっくりして上半身を起こすと、顔を覆っていた腸が、

でろでろびしゃびしゃっと床に落ち、その横にぬめ男が座っていた。


 「……ぬ、ぬめ男、お前……看病してくれてたのか ? 」


 そう訊いても、言葉のわからないぬめ男は無表情のままだ。

それに、ゾンビにそんな知能があるなんて聞いた事がない。

生前の記憶を頼りに、冷蔵庫を開けるくらいの事はするかもしれない。

だけど、お腹がすいて冷蔵庫からエサを出したなら、

それを食べればいいだけの話だ。

なのにそれを僕の頭の上に乗せてあったということは……。


「ぬめ男…あ、ありがとうな……」


 僕はそれだけ呟くと、ぼんやりと焦点の合わぬ目で

虚空を見つめているぬめ男を抱きしめた。


 知能のないゾンビだって、愛情を込めて世話をすれば心が通じ合うんだ……


 僕は嬉しくて、誇らしくて、そして、何よりもぬめ男が愛おしくて仕方なかった。


 が、ふと気づくと、ぬめ男が豚の内蔵の汁まみれになった僕の首を

エサと間違えてかぶりつきそうになっていたので、咄嗟に突き飛ばして

力の限りの回し蹴りをくらわしてしまった。




ごめんな、ぬめ男。

お母さんが帰って来たら、その脇腹、縫ってもらおうな。


      つづく

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