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アイツとあの子  作者: ラフトL
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中高生期


『ワタシの場合』


どこかで、ハッキリと壊れてしまった関係。それに疲弊した感情も確かにあって、ワタシは心をすり潰した。


最初は母の為にと努力した。頑張った。母は喜んでくれた。確かに喜んでくれていた。


しかし、いつの間にかワタシの行いは望まない結果をもたらした。


それを素直に受け入れる事の出来ないワタシはあろう事かあの子に相談してしまった。


ワタシは肯定して欲しかった。ワタシは良くやった、頑張ったって。


ワタシは諭して欲しかった。母親が大切なら信じてやれって。


あの子がそう言ってくれたならワタシはまだ大丈夫だと思えたから。あの子の言葉を糧にワタシはまだ耐えられると思えたから。


ただ願望を希望を期待を押し付けて。


そして、勝手に裏切られたと思い込んで。


あの子と決別してしまった。













『私の場合』


それは愛情というには歪んでいて、最早執念なのだと解っていた。それでも私は止まれない。


最初こそ父に褒められたい、認められたいという思いからだった。それが今ではただの執念になっている。


あの子以外は口を揃えて言う。勉強にしか興味の無い奴だと、人間味の無い奴だと、協調性も社交性も無い欠陥品だと。


違う。父はいつも言っていた。学生の本分は勉学だと。父の言葉は正しい。それを証明する為に私は励む。


近い将来、進学・就職で思い知るんだ。父の教えが、私の在り方が正しかったのだと。


だから私はあの子の相談をいつもの調子で答えた。あの子の環境を、思いを、努力を無視して深く考えもせず。


私を唯一認めてくれて、手を取ってくれた、話しかけてくれた、笑顔を向けてくれた私にとって太陽の様なあの子を。私自身が否定し、貶めて、咎めた。


人の絶望というモノを初めて目の前で見てしまった。









『ワタシの場合』


分かってる。この気持ちも見なりも言動も八つ当たりだ。


母親とアイツに対する当て付けだ。


だけど、それが分かってるからと言って今更どうすれば良い。


謝罪して、受け入れて、上辺だけの関係を取り繕ってヘラヘラしていれば良いのか。それは違うだろう。


今も尚燻る思い違いな憤りと憎悪をしまい込んでもワタシはもう昔のワタシには戻れない。


中学は卒業だけした。進学はせず働きもせず一日中ブラブラとしている。


髪を染め、境遇の似た奴らと寄り集まった。法を犯した事は数知れず、それを武勇伝の如く自慢し合う阿呆共と同じ位置にまで堕落した。


一度、アイツを見かけた。超が付く私立の進学校の制服を着て一人で歩く姿。


ワタシが幾ら頑張ったってあの制服は着れない。だから、あの時の事が無くてもアイツは変わらず一人でああして歩いていたのだろうと考える事をやめた。


ワタシは成る可くしてこうして堕ちたんだと思う事にした。つるんでいる奴らは殆どが片親の奴らだ。遅かれ早かれワタシはアイツと袂を分かっていたんだと納得したフリをした。










『私の場合』


あの子を見かけた。素行の悪そうな…いや、実際に悪いのだろう輩と共に行動していた。


日も暮れぬ時間帯にアルコール飲料缶を片手に紙タバコを嗜むあの子に気付いて、私は逃げた。あの子が私に気付いていない事をただひたすらに祈りながら走った。


きっと、あの子がああなってしまったのは私のせいだと理解している。だけど分からない。私はどうすれば良いのか分からなかった。


高校生になれば環境も変わるだろうと淡い期待を抱き受験に向けて没頭した。そうする事であの子の事を考えないようにした。


結局、変わらない。県下でも有数の進学校に進学した。けれども私は変わらない。変われない。


ただ、環境は少しだけ変わった。


私は少しだけ安心した。流石は進学校なだけあって勉学に心血を注ぐ者は多い。私もその一人として邁進する。それに異を唱える者は少ない。


そうだ。私は間違っていなかったのだ。間違っていたのは低能な周りの奴らやあの子の方。あの時私は正しく説いたのに、あの子はソレを理解出来なかった。


だから私は悪くないし気に病む事も無い。


少しだけ変わった環境に安心した私は自分を正当化した。













『担任の所見』


あの2人は仲が良かったよ。入学当初はね。小学校からの調査表通り互いに足りない部分を補っていてね。


だけど、夏休み明けくらいからかな…詳しくは知らないけど、あの子は母親と何かあったのは間違いないよ。


クラスメイト経由でそういう話を本人がしていたって聞いたから。


夏休み明けからは空元気って言うのかな、一学期の頃の明るさが嘘みたいに感じたよ。リーダー的存在だった彼女を皆心配はしてたけど、大丈夫の一点張りで見た目だけは元気そうにしてたからどうにも出来なかったんだ。


僕達教師もプライベートな面に踏み込む事は流石に無理だよ。昔と違ってそこら辺は教育委員会も厳しくてね。


もう一方のその子もね、あの子を心配してたのは見てたから分かってるんだけど、その頃から距離を置くようになったのも分かったんだ。


ホントは教師としてこんな事言っちゃいけないんだろうけど、その子の父親は結果至上主義って感じでね。


進路面談で、たかだか公立中学校如きのトップで満足するなって言ってたよ。目の前に教師が居るにも関わらずだよ。


あんな父親だからその子は勉強に対して強迫観念めいたものを抱いてたんじゃないかな。あの子が学校に来なくなってもその子は一心不乱に勉強してたから。


…いや、あの子が来なくなったから勉強しかする事が無かったのかな。でもなぁ、今にしてみれば違和感が……


もしかしてその子が原因で、あの子が学校に来なくなって、罪悪感を隠す為に猛勉強してた…とか。なんて、考え過ぎですかね。


ともかく、あの子は母親と何かあった。それでグレたんでしょう。何とか電話は繋がったんで説得して卒業式にだけは出させましたけど、金髪だわ化粧してるわ目が座ってるわで以前の面影なんて微塵も無かったのは皆相当ショックだったようで。


あんなん街中で見掛けてもあの子だって誰も気付かないでしょうね。













『それぞれの2人』



今はもう交わる事の無い道を歩む2人の少女は、それぞれに目を背け、思いを隠し、心を偽り生きている。


それが大人になるという事なのかもしれない。


身も心も大人へと変わりゆく2人の元少女は岐路に佇み何処へ向かうのか。


右か左か。無限に続く枝分かれした岐路を、真偽の不明な選択を強制されながら翻弄し、流され、選び、引かれ、巻かれ…


そうして、右往左往し続けた先。ほんの僅かに交わる道があると誰も知らない。











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