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アイツとあの子  作者: ラフトL
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小学生期

※一部、男尊女卑な表現を用いていますがあくまでフィクションである事をご了承ください。


『私の場合』


私にとってあの子は姉の様なものだろうか。とても眩しい、憧れる存在だ。


いつもニコニコして愛想が良く、男子に負けないくらい元気で運動も得意。男女共に好かれる人気者。…勉強は不出来だけど。


左右2つに束ねた髪の毛を跳ねさせながら疾走するあの子は駆けっこやリレー、体育や運動会、球技大会などで常にみんなのヒーローだった。


程よく日焼けした肌に健康的且つ少女らしい瑞々しい身体。少女から女性へと変わりつつある肢体も元気で活発なあの子の雰囲気に合っていて、同性の私ですら艶めかしいと感じてしまう。


男女共に分け隔て無く快活に接し、いつの間にか周りには人が集まる。笑顔と会話、笑いの絶えない一団の中心にいつもあの子は居る。


片や私は運動が苦手で、協調性も無い愛想も無い。友達もいない教室の端でただ静かに本を読む地味な奴。


そんな私とあの子は所謂幼馴染みの関係になると思う。私はあの子を友達だと言える勇気が無い。


保育園児の頃に無理矢理誘われてままごとに付き合ってあげたら懐かれた、なんて思っていた幼い私は馬鹿なのだろう。心理的に立場は逆転している。


意外と家が近所だったというのもあるが、小学校に上がってからは登下校を共にする仲くらいの幼馴染みだ。私があの子の友達だなんておこがましい。


低学年の頃までは周りの目なんて気にしなかった。素直に仲の良い1番の友達だと思えていたのに。








『ワタシの場合』


あの子はワタシにとって姉みたいなものだと思う。とても美しく憧れる存在だ。


元気なだけが取り柄なワタシと違ってあの子は才色兼備で尚且つ努力家だからだ。


無表情にも見える面持ちだけど、常に物足りなさを感じている様な貪欲さを滲ませる雰囲気。


同じ歳なのにあの子は年相応に幼いながらも綺麗だとしか言い様がなかった。


着飾っている訳でもなく年相応の可愛い服を着てはいるけど、ワタシの貰い物のお下がりなんかとは質が違うと一目で分かる。


父親が何処かの社長だと言うので裕福なのもある。見た目に違わず本物の社長令嬢だ。


それにテストで100点をとっても驕らず予習復習は欠かさない。全国一斉学力テストでは1番だったらしい。更に読書コンクールや絵画コンクールなどは出せば必ず表彰される多芸ぶり。


それでも毎日大人が読むような本や小説を読み知識や情報を蓄え、図書館から何やら難しい本や図鑑を借りて来ては読んでいる。その姿は正に深窓の令嬢で、より才色兼備の名を高くしているんだろう。


ワタシはそんなあの子を保育園児の時に無理矢理ままごとなんかに誘って以来1番の友達として過ごして今に至る。おこがましいと思ってはいる。


だけど、他の子達はあの子の見た目、雰囲気、多才、多芸ぶりに萎縮して友達になろうとはしない。だからワタシが未だに1番の友達だと勝手に思っている。家が近くて唯一登下校も一緒にする仲なんだからそう思うだけなら大丈夫なはず。










『2人のズレ』


2人の女の子は共にスレ違いをしていました。幼い時分は共に持ち得てないモノを羨み敬っていたのに。


自我の発露に併せて周囲に目を向けた時、自身がちっぽけな存在だと認識し過小な評価を下してしまう。そんな些細なスレ違い。


それをそうさせる要因がそれぞれに有った。否、起こってしまったのが悲劇の始まりだったのかもしれません。


共に小学生となり、更に歳を重ねる毎に出来る事が増える2人。本来ならば喜ばしいはずの成長。


しかし、その成長が悲劇の土台となるのです。


母子で仲睦まじく暮らしていく中で、少しでも母の助けになるのならと家事を率先して手伝う女の子。


母の為にと炊事、洗濯、掃除とこなします。母親は娘の成長と気持ちに喜びました。娘のやる気に応えて出来る限りを教えました。


小学生ながらに母の苦労の一部を身に染みて理解した女の子は、より母親へ感謝を込めて出来る家事を増やして手伝います。


最早、母親は帰宅後に家事をしなくて良くなりました。娘の気持ちと成長が嬉しくて仕方ありませんでした。


しかし、慣れとは恐ろしいもので半年も過ぎる頃、母親の胸中は虚無感に覆われていました。


女手一つで長年娘の為に仕事をし、家事をこなしてきた反動でしょう。所謂、燃え尽き症候群というものでしょうか。


それからというもの、母親は徐々に帰りが遅くなる事が増えました。稀に明け方に帰る日も。


そんな日は決まって濃いめのメイクと露出のある派手な服である事に女の子は気付いていました。


そして、それが何を意味するのかも……


いつしか女の子は母にとっての1番が自分ではない事に気付いてしまいました。










ある日の夕刻。突然の事に家政婦は焦りました。仕事とはいえ、長年成長を見守っている雇用主の娘が泣きながら帰宅したのだから。


結局家政婦の心配は杞憂に終わり、その日はありきたりだが夕食が赤飯に変更されました。


父親だけでは何かと大変だろうとフォローすべく、相談を兼ねた報告をした際に彼女は耳を疑った。


必要な経費はいつも通り試算計上をお願いします。それと、くれぐれもそんな事で学業が疎かにならぬよう注意しておいて下さい。


父親は機械なのではないかと思う程平坦に言葉を発しました。家政婦は自分の娘に対して関心が無さ過ぎる雇用主への憤りを隠し簡潔に返事をして背を向けた。


家政婦の思いとは裏腹に女の子は父の反応に大方の予想はついていました。


これまで絵画、書道、音楽など文化的なもので賞を幾度頂戴しても父親から褒められる事はありませんでした。寧ろ、勉学に関係ないモノに時間を割いた事を咎められる始末。


勉学における指標となるテストで満点を取り続けても父親は褒めてくれません。父親にとって満点であるのは当たり前であり、それ以下でもそれ以上でも無いのです。


以前から父親は女の子に言い聞かせていました。


女に生まれた時点で男に劣る存在だというハンデを背負っているのだから、努力するのは当たり前だ。義務教育程度の勉学など片手間に出来なくてはマトモな大人になれない。父親である俺の言う事は絶対だ。俺の言う事だけを聞いていれば良いんだ。


女の子は父に褒められたい気持ちが無い訳ではありませんでした。無駄だと切り捨てられた文芸等のコンクールに出展するのも、受賞を積み重ねればいつかは良くやったと褒めてくれるのではないかと淡い期待を持っていたからです。


今日、女としての成長を一つした女の子にとって父親の言葉はその小さな希望が更に微小なものへとなってしまいました。


女の子は薄々気付いていました。自身が女に生まれた時点で父から認められる事は無いのだろうと。


女に生まれた限り父親から娘として愛される事は無いのだと……


女の子はいくら努力を重ねたとしても父にとっての1番には永遠になれない事に改めて気付いてしまいました。











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