表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魅了魔王の最強伝説  作者: 長月遥
第二章 竜女の咆哮
8/27

七話

「ご本人の魔力の質に左右されますので、どのようにでもというわけにはいきませんけれども。あと、あんまり細かい注文はキティが面倒なのでやめてくださいましね」


 もとより、ラクスにそこまでの拘りなどない。ざっくりでいい。


「じゃあ、白い城にできるか? 清潔感があって、落ち着いた荘厳な感じがいい」


 きっとエリシアが羨ましがるだろう、と華麗な宮殿を想像しながら提案すると。


「承知いたしました。白を基調にするのはよろしいとキティも思います。キティを隠すためにも。さすがですわ」

「いや……」


 エリシアを羨ましがらせるためだけの言葉だったので、嬉しそうに褒められると微妙に気まずい。


「では、華麗で明るく、太陽のようなお城にいたしましょう! 太陽のお城に住む月光の主というのも素敵ですわ!」


 かなりノリノリで、キティは両手を揃えて大地へと向ける。

 魔力が注がれ、巨大な魔法陣が地面に浮かび上がった。そこに流れた魔力量は、今のラクスを大幅に超える。そのことに衝撃を受け、ラクスは目を見開く。

 エリシアの城の創造に立ち会ったときに気が付けなかったのは、当時のラクスには、まだ魔石の魔力を計るだけの実力がなかったせいだろう。


「古の契約に基づき、魔王城よ、現れたまえ!」


 キティの声と共に、魔法陣が強く発光する。天に向かって伸びあがった光は、ラクスたちを包み込んで一帯を覆い尽くした。


「!」


 眩しさに、ラクスは思わず目をつぶる。

 瞼の裏の光が収まってからそろりと目を開くと、景色が一変していた。


「うぉ……っ」


 ラクスとキティは剥き出しの焼けた土ではなく、人工的な床の上に立っていた。白と黒の大理石で、モザイクが作られている。太陽の光を受けた天井のステンドグラスが、床の上に芸術的な絵を映し出す。創世記の一場面だ。


「こちらは入口のホールですわ。奥に行って、座って話しましょう」

「ああ」


 木製の両開きの扉を開いた先にも続く、モザイクタイルの床の上を、ラクスは落ちつかない気持ちで歩く。

 そのラクスに、先を行くキティがくすくすと笑って。


「そんなにビクビクなさらないで? 今日からここが旦那様の家でしてよ」

「分かってる」

「っぽく見せてるだけで、要は魔力を具現化しただけですから、傷付けても自己修復いたしますし」

「……なあ、キティ」

「はい、旦那様」

「魔石って何なんだ?」


 疑問に思ったそのままを、直接本人に訊いてみる。

 人型を取り、意志を持つ魔王城の核石の化身――ということは知っているが、ではそれが一体何なのかという根本的な部分を知らなかったと、ラクスは今更気が付いた。

 というか、今までは興味がなかったのだ。


(まあ、ぶっちゃけ他人事だったし)


 エリシアの手足として働いていたラクスではあるが、彼女が魔王になる手伝いには、バレないように消極的だった。ゆえに魔王試験の核たる魔王城の核石にすら、本当のところは無関心。

 優れた魔道具程度の認識でしかなかったが、操る魔力の膨大さが引っかかる。道具だと一括りにはし難い。


「あら、ご存じないんですの? 最近の魔王候補はダメダメですわね」


 ラクスの質問はあまり面白くないものだったのか、頬に人差し指を当て、キティは不満げに呟いた。


「魔石とは、ただの触媒。わたくしたちの記憶を現世に現すための物ですわ」

「記憶?」

「ええ。――ううん……。でも、ただ『記憶』と言うのでは語弊がありますかしら。人格や思考能力も残っていますものね。コピー、と申し上げるのが一番近いかもしれません」

「記憶も人格も思考能力もって……そんなことできるのか?」


 それではほとんど本人を再現しているに等しい。

 懐疑的なラクスに、キティは尊崇と畏怖を宿した瞳でうなずいた。


「世界は自らが育んだすべてを記憶しているのですわ。もちろん旦那様、今ここにいる貴方も」


 キティは愛おしそうに、そして敬慕するように、目を閉じ自分よりはるかに大きなものへと感謝を捧げる。


「魔石とは、世界が刻んだ記憶を少しだけ借りるための物なのです。石に魔力を注ぐと、その者に最も必要と思われる記憶が現れるのですわ」


(……じゃあ、キティは元々は生きていた魔族だってことか?)


「現れる記憶は、その性質上識者であることが多いですわね。ちなみにキティは旦那様のずーっと前の先輩ですわ」

「魔王、だったのか?」


 扱う魔力量を思えば、納得はできた。

 それとも魔王候補としての先輩、というだけの意味だろうか。


「内緒ですわ」

「内緒にする理由が何かあるのか? 気になるだろーが」

「ありますわ。ほら、旦那様がキティのことを気にかけてくださるじゃありませんの」

「おいっ?」


 あまりに下らない理由にラクスが引きつった声を上げると、キティは悪びれなくクスクスと笑う。


「キティのことなど気になさらないで? ここにいるわたくしは旦那様のナビゲーターというだけですわ。魔族が魔族のために生み出したシステムです」

「余計な機能が付きすぎだ」


 もっと機械的であれば、ラクスも言われた通りに扱えるのだが。

 キティはラクスの言葉に少し考えてから。


「今のは、キティをキティとして扱ってくださると言うことでしょうか?」

「気分的には」

「ふふっ。嬉しいですわ」


 両手を合わせ満面の笑みを浮かべるキティは、とても自然だ。


(これをシステムとして扱えって、無理だろう)


 面倒だが、感情のある相手を無碍にするのは、ラクスが最も嫌悪している部分に抵触する。


「何でナビゲーターに感情なんてものをつけたんだか」

「あら、必要だからに決まっているではありませんの。だって王とは、集団の長ということ。集団とは人と人の繋がりです。そこに心から生まれる信用、信頼は欠かせませんわ。王を見定めるのに、感情なくしてなどあり得ません」


(……人との、信頼)


 さらりと言われた言葉に、つい眉が寄った。

 それはラクスがとっくの昔にほぼ諦め、現残は完全に手に入らないと断じてしまったもの。――つい最近、信じさせてくれたただ一人の少女を失って。

 そのラクスを見て、キティは挑むようにはっきりと告げる。


「旦那様、これだけは覚えておいてくださいまし。利でのみ繋がった関係はとても脆い。それは王の姿ではありません。王とは、戴く者がいて、初めて王となるのです」

「……そうだろうな」


 キティの言い分に同意はしたが、内心には濁りが残った。

 ――だったら魔王にはなれないんだろうな、と。


(いや待て!)


 それは困る。とりあえずラクスの目標は、魔王となってエリシアを悔しがらせることなのだから。


「っつーか、それなら今の魔王はどうなるんだ」

「キティは好みませんわ」


 ぷ、と頬を膨らませ、キティはアダルシーザの在りようを否定した。


(魔石が求める魔王像もそれぞれ違う、ってことか)


 ……けれどもし魔王になるのなら、キティが自分に必要だと判断されて理由は、分かった気がする。


(認めたくねーとこを突きつけられてっけど、多分)


 諦めるなと、言われている。望んでいるくせに、と。

 息をついて、あとは黙って城の創造主であるキティに付いて行った。広くがらんとした城内。無人の壮麗な城の寂しさは、エリシアの城といい勝負だった。

 そうして、ややあってキティは足を止め、部屋の一つへと入って行った。ラクスもそのまま続く。

 扉の先には控えの間があって、その先には一人部屋として無駄に広いスペース。家具の類は一切なく、余計に広く見える。


「ここが俺の私室になるのか」

「その通りですわ。さ、立ち話も何ですので――さ、ソファとテーブルはどのような物がお好み?」

「テーブルにはソファじゃなくて椅子がいいかな。ソファはソファであってくれた方がいいが。あと、足下が寒々しいから絨毯。色は任せる」


 城の様相から見て、キティの趣味はそうラクスとも離れていないので、柄エトセトラは任せてしまうことにした。


「分かりましたわ。では」


 片手を伸ばしてキティが魔法陣を作ると、城を生成したときのように光が生まれ、すぐに家具の形を取った。光が消えたあとには、始めからそこにあったかのように、椅子とテーブル、ソファが置かれている。


「さあ、どうぞ、旦那様」


 キティに促されるまま、ソファに腰かける。適度なクッション性。悪くない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ