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魅了魔王の最強伝説  作者: 長月遥
第一章 裏切りも日常茶飯事
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四話

 エリシアの私室前に辿り着き、ノックのために手を上げる。探るまでもなく感覚に引っかかってきた魔力は、やはり二人分。まだユーグと一緒にいるのだ。

 それが分かって、半ば予想していたとはいえ、やはりげんなりする。


「わっ。だ、駄目です、エリシア様」

「いいの。ふふっ。可愛いわ、ユーグ……」


 キシッ、と体重移動でベッドが軋む音がする。


「皆、わたしの邪魔ばっかりするの。ねえ、慰めて、優しくして……?」

「エリシア様……」


 ユーグの声を最後に、沈黙。だが、ベッドの軋む音だけは続いている。


「っ、エリシア!」

「!」


 堪らず、ラクスはドアを開けた。はっとした様子でエリシアとユーグが同時に振り向く。

 互いの体はぴったりと密着していた。着崩れてこそいなかったが、直前までエリシアがユーグの首筋にキスをしていた決定的瞬間を、ラクスははっきり見てしまっている。


「な、何よ、ラクス。部屋に入る前に、ノックぐらいしなさいよ!」


 この状況でもまずラクスの行動を責めることのできるエリシアは、さすがと言えた。

 しかし、ラクスの方にエリシアの文句を聞く余裕はない。


「エリシア、いくら何でもやり過ぎだろう。それでもユーグは男なんだぞ」

「それでもって、ちょっと酷いです」


 女物の服を着れば女の子だと言い張れる自分の容姿を少しは気にしているのか、ユーグはぼそぼそと抗議をした。


「そーよ! ユーグが女の子だったら、こんなことするわけないじゃない!」

「エリシア!」

「あぁ、もう!」


 怒鳴ったラクスに、エリシアはイラついた声を出す。大きく髪を掻き上げベッドから下り、立ち上がってラクスと向かい合う。


「面倒くさいわね! ま、厄介そうなのは大体潰したし、そろそろいいかなって思ってたのよね。丁度いいわ!」

「何だ面倒くさいって! お前っ」

「言っとくけど! わたし、あんたのこと、全っ然好みじゃないの!」

「はあ?」


 いきなり話が飛んだエリシアの言葉に、ラクスは思いきり不可解だという声を上げる。


「何だ好みって。そんなのどうでも」

「あんた馬鹿なの? あんたのことなんて、全っ然、これっぽっちも、一っ欠片も好きじゃないし、愛してもいないって言ってんの!」

「――は?」


 続けて投げつけられた内容には、ラクスの心を冷めさせるものが大量に入っていて、かちりと思考を凍らせた。そしてエリシアの暴言は、それに留まらない。


「ってかむしろ、大っ嫌い。魔王の息子で、貴族で、純血で、金持ちで部下も沢山いて、追従してくるザコ共も、その気になれば掃いて捨てるほどいるし!」

「な……!?」


 確かにラクスの持つ様々なものは、エリシアのコンプレックスを強く刺激するものだった。

 ラクスも分かっていなかったなどとは言わない。あまり嬉しく感じたことはないが、自分が家柄的に恵まれているのも理解している。

 だが、自分とエリシアの間では関係のないことだとも思っていた。

 家柄や立場など、個人同士が気にしなければそれで済むと考えていたからだ。そしてラクスは気にしない部類に入る。

 ――エリシアが気にし続けていたのだ、ということに気付かないほど。


「あんた見たとき、丁度いいと思ったのよね。そこそこ魔力は高いし、使ってみたら大抵のことはさらっとこなすし。前魔王の息子で、公爵家出のあんたを顎で使うの、すっごい快感だったし」

「っ……」

「でも、もういいわ。後はわたし一人で充分だし。ユーグもいるしぃ」


 甘えた猫なで声を出し、エリシアは申し訳なさそうな顔をしているユーグに抱きつく。

 頭がエリシアの言葉を理解をした途端、ラクスの中で何かがぷつっ、と切れた、


「ふざけんなあぁァ――ッ!!」

「別にふざけてないし!」

「おま……っ。俺が今まで、どれだけお前に尽くしてきたと思ってんだ!」


 雑用という雑用を、ラクスは文句一つ言わずこなしてきた。すべてはエリシアの笑顔のために、ただ一人だけ、自分を愛してくれた女のためにと――。


「いいじゃない。わたしに奉仕できて、幸せだったでしょ?」


 それに返ってきたのは、悪びれないエリシアの言葉。

 とどめ、だった。


「ブッ殺す!!」


(誰がッ、誰がテメーみてーな性悪クソ(アマ)に奉仕できて喜ぶか! 俺が喜ばせたかったのは――ッ)


 自分を愛してくれていると思っていたから。それだけだ。


「ふん! 防御魔法しか使えないあんたに何ができるのよ。ユーグ、行くわよ」

「えええっ。本気ですかぁ?」

「超本気! バックアップしてくれればいーから! 女神の花炎剣(かえんけん)解呪(オープン)


 手を伸ばし、簡単な解呪を唱えると、エリシアの右手中指にはまっていた指輪が姿を変え、一振りの片刃長剣になった。


夜魔の神封剣(ナイトディヴァイン)解呪(オープン)! テメェ、それも俺作だろうが、返せッ!」


 エリシアから一拍遅れてラクスが腕輪から変化させたのは、漆黒の刀身の中央に銀のラインが入った、こちらも片刃の長剣だ。エリシアのものよりは若干幅広で、長さもある。


「やーよ。わたしが貰ったんだから、もうわたしの物に決まってんでしょ? 別れた女にプレゼント返せとか、ケツの穴の小さいお貴族様ね!」

「テメーに物くれてやんのが腹立つだけだ! それが器の大小を決めんなら、ケツの穴ぐれー極小で結構だ!」

「便秘に苦しんで痔になれバーカ!」

「てめっ、本っ当に下品だな!」


 思わずラクスの方が言葉を詰まらせてしまった。自覚は薄くても貴族のボンボンである。

そのせいで初動が完璧に出遅れた。

 エリシアの突き出した女神の花炎剣を、ギリギリのところで夜魔の神封剣で打ち払う。刃が接触した瞬間、女神の花炎剣が宿していた炎の魔力が消え失せる。


「!」


 それにエリシアは明らかな動揺を見せ、一歩、足を引いた。


「ハッ。魔力量は嘘つかねーな!」


 ラクスの持つ夜魔の神封剣は、魔力を阻害する効果がある。持ち手が対象の魔力量を上回っている場合、という条件が付くが。

 元々エリシアの補助をするための道具なので、夜魔の神封剣は武器としての威力を求めた作りをしていない。

 ――否。エリシアがさり気なく(今思えば露骨に)ラクスに武器という武器、攻撃手段と呼べる代物を持たせることを拒んできたのだ。そう思い至って、またラクスをイラつかせる。

 しかし今現れた結果は、自分の魔力がラクスに押し負けた事実を、エリシアに突きつけることとなった。

 悔しそうに唇を噛んだエリシアだが、再び踏み込み、ただの剣となった女神の花炎剣の刃を夜魔の神封剣に押しつけながら。


「だから何よ! そんな鈍らでどうしようっての! どれだけ魔力が高くたって、攻撃魔法だって何も使えないでしょ!」

「こうする。付加(エンチェント)魔氷鋭刃(ハイ・ラ・アイス)


 氷属性付与の上級魔法を夜魔の神封剣へと上書きすることで、威力のかさ増しを計る。


「馬鹿なの!? そんな繊細な魔力剣に、魔力付加なんて――」


 エリシアの嘲笑は、途中で止まる。ラクスの持つ剣の刀身に、安定して宿った黒青の光の輝きを見て。


「何だ?」

「……!」


 認識違いを遠慮なく嘲笑し返したラクスに、エリシアはギリ、と歯を噛み締める。


「これぐらいできなくて、魔力剣が作れるか。――なあ、エリシア?」

「な、何よ」


 ク、と唇を吊り上げ冷笑したラクスに、エリシアは無意識に一歩、後ずさる。冴え冴えとした完璧な美貌が、より酷薄さを際立たせた。


「お前が氷属性に弱いの、俺が知らないとでも思ってるか? 次点で雷、闇」

「く……!」

「テメーごとき三流女、剣一本で充分だ!」

「わたしは三流じゃない! 一流よ!」


 ラクスの挑発にエリシアは呑まれかけていた意思を取り戻し、再び、強く瞳に闘志を輝かせる。ラクスから向けられたのは、エリシアにとってそれほど耐え難い言葉だったのだ。


光の閃光雷刃(エル・ライトニング)!」

「ちッ!」


 エリシアの放った光系統魔法を、剣を盾にして消失させる。


「知ってるのが自分だけとか思わないでよ。あんたが光属性に弱いのだってバレバレよ!」

「ただの淫魔の性質だけどな!」


 自分自身を理解したものではない、とラクスは怒りを込めて吐き捨てる。


「とりあえず、邪魔そうなのでその剣の魔力を封じておきましょう。闇の魔力封印オーラ・マジックシール

「!?」


 半ば存在を忘れかけていたユーグが、エリシアの後ろから魔法を放つ。闇属性の黒い粒子が夜魔の神封剣にまとわりつき、刀身を黒く染め上げる。与えた氷属性と、剣の持つ元々の阻害魔法までもが抑え込まれたことをラクスに教えた。

 ユーグの魔法に自分の魔力剣が押し負けたことに、ラクスは少なからず動揺する。それなりの自信作でもあったし、夜魔の神封剣の魔力を封じられると、エリシアを相手にするのは難しい。


(魔力の強さから見て、封印状態が続くのはせいぜい一分。だが……!)


 二人がラクスを倒すには、充分な時間だとも言えた。


(こいつ……)


 今までユーグは城で花壇の世話しかしていなかった。本人が戦闘は苦手だと言っていたのもあるし、エリシアもユーグを戦闘員としては扱っておらず、一度も戦いに連れて行っていない。


(何が戦闘苦手だ! そこらの魔王候補よりずっと腕いいぞ!)


 一対一なら面倒。さらに誰かと組まれるとより厄介になるタイプだ。


「はいもう一発! 光の閃光雷刃!」

「ちっ、光の鏡反壁(エル・ミラーウォー)――」

闇の魔解蝕(オーラ・エクリプス)

「うっ!」


 展開させた光の結界をユーグの魔力阻害魔法が崩し、消失させる。直後エリシアが放った、雷をまとった光の矢がラクスの身体を容赦なく貫く。


「く……!」


(もう一段、上のランクのやつにしときゃ良かった……)


 熱を伴った魔法のせいで傷口は焼かれ、出血はそう多くない。しかし体に穴を開けたまま戦い続けようとは、ラクスには思えなかった。

 自分の不甲斐なさに対してか、エリシアに対するものが続いているのか、目が眩むような怒りを感じる。そのおかげか、痛みすらさして感じない。

 負けたくない。許したくない。侮辱された方の自分が逃げるなど、冗談じゃない。

それでも――勝てない。今は。そう認めざるを得なかった。


「あはっ、いい様!」

「ぐっ!」


 笑いながら近付いてきて、エリシアは女神の花炎剣をラクスの肩に突き刺し、壁に押し付ける。

 そして至近距離でラクスwねめつけた。彼女の瞳は理不尽に抗う強さに爛と輝いていて、こんなときだというのに、やっぱりそのきらめきは好きだなと心に浮かんでしまう。


「さっきのセリフ、取り消しなさいよ」

「は……ッ。何を?」

「わたしを三流って言ったの、取り消しなさいよ! そしで跪いてわたしの足に口付けるの! 忠誠を誓って、一生わたしのために働くなら許してあげる!」


 ぎらつくエリシアの瞳には、強い支配欲が映っていた。


「っ、は……」


(くだらねー……)


 その支配欲が自分一人に向けられているのであれば、ラクスは膝を突いてやっても良かった。愛ゆえの束縛であれば喜んで受け入れただろう。

 だがエリシアの支配欲はラクス個人へ向けられたものではない。

 貴族すべてへと向かうものだ。だから。


「ラクス!」

「……ごめんだ。三流馬鹿女」


 ゴッ!


 左手に持ち替えた剣の柄で、ラクスは思いきり背後の壁を叩いた。他でもないエリシアの魔法で貫かれ、穴の開いた壁は脆くなっている個所があり、簡単に崩せた。

 新たな出入口に向かって流れ込んできた風に、エリシアは片腕で顔を覆って庇う。その隙にラクスはエリシアの腕を掴み、勢いよく剣を引き抜く。


「な、馬鹿、駄目っ!」


 エリシアが妙に慌てた声を上げるが、無視をする。


「覚えとけ」

「!」


 勢いよく血の流れる肩に構わず、ラクスはエリシアの襟を掴み引き寄せて、宣言をした。


「お前が俺を使って得てきたもの、全部俺が壊してやる。テメーの土俵で、テメーの鼻っ柱へし折ってやるよ! 俺も魔王試験を受ける。必ずテメーをブッ殺す!」


 言うなり手を離し、ラクスは自分から後ろ向きに倒れ、落ちた。


「追いますか? あ、無理ですね」


 エリシアの隣に並んで壁の穴から外を見たユーグは、風の包翼で飛び去って行くラクスの姿を認めて、あっさり諦めた。

 風の包翼は便利な魔法なので、エリシアもユーグも覚えている。だが自分たちの出せるスピードでは追いつけないことが一目瞭然だったのだ。


「……別に、いいわ」


 しばらくラクスの去って行った方を見つめていたが、ふいっとエリシアは勢いよく背を背ける。そして足音荒くベッドまで戻り、どすんと勢いよく腰を下ろし、脚を組む。


「いずれこうするつもりだったんだもの」

「そうですか。じゃあ」


 ぽす、と隣に腰かけたユーグを、エリシアは乱暴な手つきで追い払う。


「やめて」

「エリシア様?」


 今までエリシアからすげなく扱われたことのないユーグは、初めての態度に戸惑った。エリシア自身も自分に驚いた様子で目を瞬く。

 いつものエリシアであれば、『なぐさめて』と言って、ユーグを構い倒していただろう。なのに、まったくそんな気分にならない。


「……エリシア様?」

「ご、ごめん! 何でもないの!」


 慌てて首を横に振り、エリシアは強くユーグを抱き締めた。

 けれど気持ちは一向に盛り上がらなかった。

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