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魅了魔王の最強伝説  作者: 長月遥
第四章 箱庭を開いて、もう一度
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二十三話

「!?」


 彼女の存在を、誰もが意識していなかった。アルテナの背後から現れたエリシアは、自らの手を戒める鎖を彼女の首に回し、強引に引き倒す。


「ラクスはわたしのものにするの!」

「まだんなこと言ってんのか!」


 アルテナが外れたことで崩れた囲いの一角を、すぐさま駆け抜ける。アルテナを倒したあとすぐに身を翻したエリシアを追って、二人で城内へと逃げ込んだ。


「お前が俺のものってことで決着ついただろーが!」

「だから、あんたが負けたらわたしもアルテナのものになっちゃうじゃない!」

「そん時ゃ逃げりゃいいだろ」

「絶対嫌!」


 バルヴァラは一体、どれだけ好き勝手暴れたのか。外壁どころか内部まで、外に近い辺りは廃墟同然の有様を晒していた。

 ボロボロに壊れてはいても慣れ親しんだ城だ。追ってきたバルヴァラの目の前でさらに左右の壁を壊して煙幕にして、奥へと逃げる。

 しばらくすると、ぱったりと破壊の跡がなくなった。その境目の辺りでユーグに噛まれたのだろう。分かりやすい。


「あんたのものにはなってもいいけど、あんたが他の奴のものになるのは嫌!!」

「っ……」

「すぐ諦めるの止めなさいよ! だから育ちの良い奴って嫌いよっ。そーゆーとこも、大っ嫌い!」

「うるせーよ!」


 図星だったので反論する言葉がそれしかなかった。

 道なりに進み、二人が行きついた先は練金工房。機材が邪魔だが、気にしなければ、立ち回れるだけのスペースがそこそこある。


「これからどうする気だ?」

「何もできないわよ」


 訊ねたラクスに、すとんと床に直接座り込んだエリシアは、息をつきつつそう答えた。ラクスも倣って隣に腰を下ろす。

 ――と、今まで気にする余裕のなかった、エリシアの白く柔らかそうな太腿が目に入って、ぎくりとする。

 手を縛られているために貸した上着も着ることができず、その用途は袖を縛って胸を覆っているだけだ。下は、丈の長い上着だったのが幸いして無理矢理前を掻き合わせ、どこからか見つくろってきたピンで前を止めている。知恵でもってギリギリ危ういところは隠していた。


「でもここなら魔力探査は誤魔化せるし、ログヴェレカが正気に戻るの待ちましょうよ」

「アルテナ一人なら期待してもいいが、ユーグは多分、甘くないぞ」

「……そうね」


 悔しそうにエリシアはうなずき――コツ、コツ、と上の階で響く足音にはっとして口を噤む。


「一人分だな」


 声量を絞ってラクスがそう口にすると。


「そうね。きっとアルテナよね。ユーグが飛んで側にいないとは言えないけど」

「あー……。そうだな、やりそうだ」


 一人で行動していると見せかけて、こちらを引っ掛けたりとか。


(さて、どうするか。バルヴァラを取り戻せりゃ、やりようはいくらでもあるんだが)


 ユーグを追ったバルヴァラに、すぐ加勢すればよかったのだろうか、と今更後悔するが、遅い。どの判断が一番適切だったかなど、後にならないと分からないものだ。仕方がない。


「魅了すればいいじゃない」

「俺が魅了魔法ほとんど覚えてないって、お前も知ってんだろうが。アルテナやユーグに掛かるような強力なやつはない」

「あれ、ハッタリなの?」


 どうやら、さきほどのアルテナたちとのやり取りも見ていたらしい。


「ハッタリだ」

「じゃあ、逃げちゃう?」

「それは無しだ。俺が巻き込んだのに、バルヴァラを置いて逃げるのは無し」


 アルテナはバルヴァラを解放しないだろう。彼女の力は兵士として有益だ。

 吸血鬼の血毒は相手の意思を支配し、主人の命令通りにしか動かない人形になり果ててしまうので、兵士としてしか使い道はなくなる。だがそれでも充分すぎるほど、バルヴァラは有用だ。むしろその方が都合がいいとすら考えるかもしれない。


(させてたまるか)


 そのためには――


「ちょっとそれ、見せろ」

「うん」


 エリシアの手首を拘束している手枷を調べてみた。外せればエリシアを戦力として数えられる。

 結果、かなり頑丈な造りをしていることが分かっただけだった。残念ながらラクスの持つ攻撃魔法や夜魔の神封剣では切れそうにない。


「無理だな。俺じゃあ腐食系の薬品使って溶かすしかできなさそうだ」


 互いにスペックが高かったせいで、ラクスもエリシアも補助系アイテムの世話になる必要がほとんどなかった。品物はもちろん、作るための材料も在庫などない。


「わたしが魔法使えれば、それで壊せるのに」

「あのな、俺がロクに攻撃魔法使えないの、お前のせいだからな?」

「分かってるけど!」


 言っても仕方のないことである。

 はあっ、と大きく息をついて、互いにそっぽを向く。


(くだらねー言い合いしてる場合じゃねえ。こんな所、隠れてたってすぐに見つかる。どうする?)


 ない物ねだりで時間を潰すより、今、手元にある条件で勝つ方法を考えなくては。


(自分で作っといて何だが、夜魔の神封剣は威力が――)

「!」


 そこまで思索を巡らせてはっとした。隣のエリシアはもっと強い武器を持っているではないか。


「エリシア!」

「え?」


 ラクスがエリシアの方を振り向くと、その背後の壁が大きく盛り上がる。

 重い物を何度も叩きつける破壊的な音に、エリシアが引きつった顔をして振り向くのと、壁が壊れたのは同時だった。

 了解を取っている暇はない。エリシアの指から指輪を引き抜くと、女神の花炎剣を解呪し、一閃する。そして即座に下からの切り返しを行い、バルヴァラを阻む。


「!」


 さすがの身のこなしで、すでに目の前まで接近していたはずのバルヴァラは急停止して大きく飛びのき、距離を取った。


「かくれんぼはお終いよ」


 その背後に、悠然と佇むアルテナとユーグ。


「奇遇だな。たった今、俺もそうしようと思ったところだ」

「……」


 不敵に笑って言ったラクスに、アルテナは小さく眉を寄せる。


「なあ、アルテナ。一言だけお前に言いたいことがある」

「何かしら」

「お前は憶病すぎて、魔王には向かない!」


 言い切る前に、床を蹴った。


「どうかしら!?」


 余程プライドに障ったのだろう、アルテナは憤然とした様子で叫ぶ。

 告げた言葉は挑発だけではない。本心だ。


(向かないんだよ)


 敵を過大評価し過ぎるアルテナには。


神氷の棘蔦絡籠イルシェラ・アイス・アイビーケイジ!」


 アルテナの魔力が部屋を走り、床から氷の鳥籠が出現する。細かく鋭い棘の柵に阻まれ、閉じ込められたのは――向かい合っていたラクスとバルヴァラ。


「ふっ!」


 逃げ場のない狭い鳥籠の中で振るわれた大剣は、神の皓硬盾を使って出足で防ぐ。威力が乗る前だというのに防ぎきれない余波が発生し、ラクスの体に新しい切り傷を作る。


(好都合だ!)


 逃げ場がないのはお互い様。

 手を伸ばせば簡単にバルヴァラを捕まえられる。彼女の腰に手を回し、抱き寄せた。

 純粋な魔力の高さで言えば、ラクスはアルテナを凌ぐ。それは自分の体で証明された。

 ――だから。


「バルヴァラ!」


 吸血鬼の血毒と違い、淫魔の魅了は相手の心を恋情によって支配するもの。操り人形のように便利に使えるものではない。

 それは自分でも制御できない、とても厄介な代物。

 ただ一つだけ確かなのは、心を強くする気持ちの一つである、ということ。

 支配は魔力。しかしその心は当人のもの。

 本人自身を奮い立たせる、その力で。

 バルヴァラの背を掻き抱き、口付ける。


「うぅっ……!」


 新たに注がれたラクスの魔力と、アルテナの血毒がバルヴァラの体内でせめぎ合う。

 苦しげに寄った眉間に、つ、と一筋汗が伝った。

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