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魅了魔王の最強伝説  作者: 長月遥
第四章 箱庭を開いて、もう一度
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二十一話

「お前を堕とすのは我だと言っているだろうが」

「ぅぐえっ」


 後ろから腕を回しラクスの首を締めつつのバルヴァラから、不機嫌な声が上がる。


「馬っ、落ち……っ、別の意味で落ちるっての!」


 意識的なものが。

 四苦八苦してバルヴァラの腕から逃れ、げほごほと一通り咳き込んでから、ラクスは改めてアルテナたちへ向き合う。


「そういうわけだ、交渉決裂だな。ついでに俺がやるはずだったこいつへの侮辱、合わせてお前自身で清算してもらおうか」

「……本当、見る影なくせばよかったかしら」


 同じ女として、やはり――アルテナは回復不可能な傷を付けることまでは、ためらった。


「だからやりましょうかって言ったのに」


 アルテナよりも余程モラルを感じさせない口調で淡々ときた言ったユーグを、アルテナはちらりと振り向いてから。


「黙りなさい」

「はい」


 アルテナの一喝で、ユーグは返事一つで口を閉ざした。


「正直、わたくしも我慢の限界だわ。貴族の恥さらし。しょせん男爵だということかしら。――貴方にも教育が必要ね」


 交渉決裂。互いがそれを認識した。


「エリシア、どいてろ」

「う、うん」


 手枷に掛かっている拘束魔法を解除するだけの時間はなさそうだったので、ラクスは戦力外のエリシアを端へと追いやる。

 とはいえエリシアやアルテナに見せたほどには、勝てる自信はない。


(二連敗中だからなー……)


 自分の魔力を押さえ付けられたことが尾を引いて、ユーグに対して苦手意識があるのも否めない。


「心配するな、ラクス。我が助力してやる」

「お前がいなかったら見得切ってない」


 ラクスはともかく、バルヴァラには理由のない戦いだ。だというのに当然のように隣に立ったバルヴァラに、微笑を向ける。


「うむ。もっと頼るがいい。では、行くぞ! 七誓煌刀(しちせいこうとう)・解呪!」

「夜魔の神封剣・解呪!」


 ラクスと相対したときには使っていなかったが、それが彼女本来の得物なのだろう、バルヴァラの右手には両刃の大剣が握られた。

 ラクスとバルヴァラが武器を手にしたのと同時に、アルテナの手の中には金属で作られたロッドが、ユーグの手には双剣が握られている。


「ユーグ。行きなさい」

「あんなバカでかい得物と、僕やり合えませんからね!」


 文句を付けつつもアルテナの命には逆らわず、ユーグは地面を蹴った。ぬかるみのある土は足場には適さないはずだが、きちんと力が乗っていて、速度も出せている。見ればユーグの足元は土が凍って固まっていた。


「悪い、任せる!」

「任せろ!」


 ラクスは後ろへと引き、代わりにバルヴァラが前に出てユーグを迎え撃つ。


麻痺毒(パラライズ)

付加(エンチェント)火爆呪(フレア)!」


 ユーグは搦め手、バルヴァラは正面からの力押しだ。


「はぁッ!」


 片手で易々と振るわれたバルヴァラの大剣は、得物の大きさをまったく感じさせない速さだった。

自らの体格の有利・不利を熟知している動きで、ユーグは体勢を低くし駆ける速さを緩めないまま、バルヴァラの大剣を潜り抜け、懐へと迫る。


神の皓硬盾メーヴェ・ハイシールド!」


 バルヴァラに防御などと、もったいないことをさせるつもりはない。

 様子見をして防御で弱い術を試すのは危険だということを充分学んだので、ラクスは無属性物理防御魔法の中で最高位の盾を発動させた。


「!」


 バルヴァラへと突き出された双剣の切っ先へ、ピンポイントで盾を作った。極小で展開された盾にユーグは剣を打ち込む羽目になる。しかし力のなさが幸いしてさしたる反動は受けずに、その場で武器を手元に引き構え直す。だが。


「遅い」


 ゴッ!


 バルヴァラの身を守った盾は、次の彼女の行動を邪魔してしまうのですぐに消した。一瞬ぐ、バルヴァラが横薙ぎに振るった大剣が、その幅広の腹でユーグの体を強打する。


火の閃爆砲(フレア・ボムブラスト)!」


 ウエイトの軽さも手伝って、足を浮かせて吹っ飛んだユーグへと、追撃で火属性魔法を放つ。ユーグもそうである確証はないが、吸血鬼族は大体光属性と火属性に弱い。

 完全に体勢を崩し、息を潰して声を出せないユーグに防ぐ術はない。ユーグを守ればアルテナに隙ができる。

 バルヴァラはすでにアルテナへと駆けていた。しかし二人の期待と反して、ユーグを無視したアルテナのロッドもバルヴァラへとしっかり向けられている。


土の境潰壁アース・ウォールプレス


 バルヴァラの四方を囲んで、人の身長の二倍はある土の壁が出現する。そして中心にいるバルヴァラを押し潰そうとして、勢い良く収縮して――


「せぇあッ!」


 気合いと共に薙いだバルヴァラの一刀で、粉砕される。

 一方のユーグは、火の閃爆砲を受ける直前にマントを翻し自分の身を覆うと、コウモリに変化し空に逃れていた。大剣を振り抜いた直後のバルヴァラの頭上で再び人の姿を取り、双剣を下に向けて落下する。

 落下と自重の勢いを付けた分、腕力だけで突いたときよりは威力が加算されるだろう。


 ――やらせてやるつもりはない。


高硬盾(ハイ・シールド)!」


 バルヴァラの頭上に展開させた盾にぶつかって双剣が鋭い音を立て、ユーグはそのまま反動をつけて宙返りし、危なげなく地面に着地する。


「全然意思疎通できてないのに、刃が届かないのは地力の差ですかね」


 けほっ、とユーグは小さく咳き込んだが、バルヴァラの一撃をまともに受けたにしては、ダメージが軽い。それに少しプライドが傷付いた様子でバルヴァラは顔をしかめる。


「どうやら見た目よりかは頑丈らしい」

「いや、アルテナがちゃんと守ってた」


 バルヴァラの大剣はユーグを強打する前に、アルテナが作った黒い霧の魔力によって受け止められていた。


「くだらないこと言ってないで、ちゃんとやりなさい」

「そうします」


 アルテナの命令は結構な無茶なものだったが、答えたユーグに迷いはない。だがすぐには仕掛けず、自分の中の何かと、ラクスの気配を窺い、ゆっくりとした足取りで、タイミングを計るように移動をする。


(何だ?)


 ユーグはラクスがほぼ防御系の魔法しか使えないことを知っているはずだ。当然アルテナにも伝わっているだろう。夜魔の神封剣にしても、用途は主にサポートだ。

 そのラクスがメインで攻撃に参加するわけがない。なのに、ユーグとアルテナはバルヴァラと同様、あるいはそれ以上の警戒をラクスへと向けている。


「笑え、ラクス」

「は?」

「奴らが恐れているのは、お前の魅了だ」

「っ、あぁ……!」


 バルヴァラに言われて、納得した。

 確かに今、一瞬でも魅了にかかれば一撃でバルヴァラにやられる。だからラクスにこそ気を抜けないのだ。

 エリシアと別れる前までは、ラクスは魅了魔法を覚えていなかった。しかし淫魔のラクスにとって、魅了魔法は種族特性により使用魔力を少なく習得できる魔法。覚えていても不思議はないし、実際、習得している。

 あるかどうか分からないものまで、二人は恐れている。掛かるかもしれないという怯えがあるからだ。

 恋が狂わせる心の怖さは、前例がいくらでもあるだけに現実感のある恐怖を生む。

 ならば。


「クッ……」


 口角を僅かに上げ、ラクスは微笑する。己の声が持つ艶を意識して、誘うように目を眇め、二人を見た。

 支配者然として、尊大に。


「!」


 途端、アルテナとユーグは自身の魔力を活性化させる。

 魔法として放出させるよりは使用量は少ないが、使っていることに違いはないので微量ずつ削られるし、何より集中し続けなくてはならないので精神力の方がとても疲れる。


(怖がってんなら、その通り、挑発してやる)

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