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魅了魔王の最強伝説  作者: 長月遥
第四章 箱庭を開いて、もう一度
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十八話

 サク。サク。サク。


 地面に落ちた枯れ葉が、足を運ぶ度に乾いた音を立てる。


「ねえ、ユーグ」


 自分の手を引き前を歩くユーグへと、エリシアは声をかけた。


「どこに向かってるの。ここはどこ?」


 ユーグに導かれるままラクスたちの前から離脱したエリシアは、気が付いたときにはまったく覚えのない場所を歩いていた。ラクスのこと、自分のことを考えて、ぼんやり行き先をユーグにゆだねているうちに――今に至る。

 辺りは深い森。夕陽の朱色が差し込み、木々を紅に染め上げる様子は美しいのかもしれないが――不安のせいで、不気味に思えた。


「ねえ、ユーグ……」

「ここは、キクリの森。僕の一族が管理する、アートフォリングスが支配する領地の一つです」

「――え?」


 ユーグの言葉の意味を、エリシアはすぐに呑み込むことができなかった。だが耳に覚えのある名前には、正確に反応する。


「アート、フォリングス?」

「そうよ」

「!」


 後ろから聞こえた冷ややかな女の声にエリシアは顔を強張らせ、振り向こうとした。しかし半端に体が向き直りかけたところで、強かに頬を叩かれ、地面に転がる。


「痛っ……」

「これしきで痛いだなんて、がっかりさせないでちょうだい」

「きゃあっ!」


 言葉と共に降ってきたヒールに背骨を踏みつけられ、エリシアは悲鳴を上げる。

 日常茶飯事だったケンカと虐めにより、エリシアは同じ年頃の子どもより、よほど痛みに耐性があった。

 だがラクスと行動するようになってからは、怪我をするような事態は起こっていない。ラクス同様、あるいはそれ以上に、怪我の痛みを忘れたエリシアは、苦痛に弱い。


「あん、た……!」


 それでも相手に対する意地で、エリシアは歯を食いしばり、首を捻って敵を見上げる。

 地に這ったエリシアからは逆光となって、姿が判別し難い。しかしその程度で誰だか分からなくなるような相手でもなかった。


「アルテナ……!」

「ごきげんよう、エリシア」

「あうっ」


 ごり、と背骨の上でヒールに体重がかけられ、エリシアは痛みに喘いだ。その様子を満足気に見下ろして、アルテナはさらに微笑みを深くする。


「ふふっ。泥に塗れて小汚いこと。でもそれがお前に相応しい本来の姿よ、エリシア・フェーゼ。ほんの

気紛れに貴族の寵を得たからといって調子に乗って、身のほど知らずな」

「ふざけ、ないで! この程度――!」


 エリシアは顔を上げてアルテナを睨みつけ、魔力を集中させる。うつ伏せに倒れた状態からでも、魔法の発動には関係ない。

 ――しかし。


「ああ。大人しくしててくださいね」

「な!?」


 魔力が形となる前に、エリシアの側に屈み込んだユーグから、両手に重みのある金属を付けられる。途端、魔力が阻害され外に出せなくなった。

 成す術なく手首に取り付けられたそれは、鎖付きの手枷。魔力を封印する術式が組み込まれた、魔具だ。


「ユーグ、あんた!」

「すみません」


 その可愛らしい顔に、いつかと同じような、少し困っている風に見える微笑を無意味に張り付けて、ユーグは中身のない謝罪をした。


「でもアルテナ様が怪我をすると、後で僕が八つ当たりされるので」

「組んでたのね……!」

「違うわ。ユーグは――ヴレドア家は、何百年と昔からわたくしの家の臣下なの。もちろんお前は知らなかったでしょうね。嫉妬に目がくらんで、敵の情報を調べることもしなかったのだろうから」

「あっ」


 襟を掴んでエリシアを引き摺り起すと、近くの木へと押し付ける。そうしてアルテナがエリシアを押さえ付けている間に、ユーグが先のなかった鎖同士を、木の幹を回して後ろで繋ぐ。


「くぅ……!」


 腕を動かしもがくが、その程度で外れるような拘束ではない。

 アルテナはエリシアの悪あがきを不愉快そうに見つめ――


「不似合いだわ」


 眉をひそめ吐き捨てると、エリシアの肩に手をかけ、一気にその服を破り取った。肩から臍の辺りまでが容赦なく外気に晒され、白い素肌が夕陽に照らされオレンジに染まる。

 剥き出しにされた素肌に、エリシアの顔が羞恥で赤く染まった。


「何するのよ!」

「生意気に、身の丈に合わないものを着ているから。下民のお前がまるで貴族であるかのように……。この布、上級種の天馬の毛で織られた物でしょう。付加されている対魔防御性も高いわね。これは、アスガフトスの魔力かしら」


 布の手触りを確かめてから、アルテナは残骸となった服を地面に捨てる。エリシアの視線がそれを追い、悔しそうに唇を噛む。


「身の卑しさは隠しようもないけれど、お前は、確かに愛らしい顔と身体をしているわね」

「あっ」


 無造作に伸びたアルテナの手が、エリシアの剥き出しになった胸を鷲掴む。容赦のない力で捏ねられ、形を変えた柔らかな肉に、赤い指の跡が付いた。


「二度と間違いがないように、見る影もなくしてしまいましょうね?」

「や……」


 女の急所を鷲掴み、柔らかく蠢くアルテナの指と、至近距離で微笑むその冷酷な表情とに、エリシアは怯えて身体を硬くする。


「ふふ。うふふ。怖いの? ねえ、わたくしが怖いの? エリシア」

「誰が、あんたなんか……!」


 震えそうになる声を叱咤して、エリシアが意地とプライドだけで睨みつけると、アルテナは嬉しそうに瞳をきらめかせた。


「そうよね? そうでなくてはいけないわ。だって、屈服のさせ甲斐がなくなってしまうもの」


 くす。くすくす。

 アルテナの唇から洩れる喜悦の笑いに、エリシアは身震いする体を止められない。


「いっぱい、我慢しなさいね? わたくしが満足したら、魔石の在りかを吐きなさい」

「誰が、あんたなんかに渡すもんか!」

「ええ、その調子よ。頑張ってね」


 エリシアの虚勢を歓喜で迎え入れ、静かにアルテナの腕が持ち上げられた。




「見つかったか?」

「いや、無いな」


 手分けをしてエリシアの城を捜索していたラクスとバルヴァラは、小一時間の別行動の後、合流して成果の無さを報告し合う。

 二人が探しているのは、エリシアの城の魔石である。


「ないなら仕方あるまい。もう引き上げないか?」

「ふざけんなっ。諦めねーぞ俺は!」


 二人が――というか、探し物に真剣なのはラクスだけだが。


「我は別に、今はそれほど城を欲してはおらんぞ? お前の城があるのだし」

「俺がお前を追い出したいからに決まってんだろ!」


 どこかへ逃げたエリシアに、戻ってくる場所を奪うことでまたダメージを与えられる――とも考えなくもないが、正直、今のラクスにもうそれほどの執着はない。

 エリシアは、ラクスが彼女に抱いた気持ち以上にラクスに固執していた。離れることで弱ったエリシアを見れた。それでもう充分だと思ってしまっている。

 同時に自分の性も自覚させられて、そちらは少々恨めしいのだが。


(まあ、いずれは向き合わざるを得なかっただろうしな)


 自覚などしたくなかった。だが本当にそうなりたくないのならば、きちんと見つめ、己を律する努力をしなくてはならない。

 見ない振りをしてエリシアに逃げたから、彼女を余計に傷付けたのだとラクスも分かっている。しかし、心が感じるのは反省以上に喜び。褒められたものではない淫魔の性質が出てしまう。


 ――色々分かってしまった今、エリシアから城を奪おうとしている最大の理由は、バルヴァラに与えるためである。そしてバルヴァラから一刻も早く離れたい。


「まったく、臆病な男だな。まあその初心さは可愛いと言えなくもないが。何しろ、惚れるのが怖いから我と離れたい、という理由だからな」

「お前のそういうとこ、本ッ当嫌いだ!」

「何にしても、我は家捜しに飽きた。一度休憩するぞ」

「……そうだな」


 見つからない苛立ちと共に、作業が雑になってきたのは確かだった。このまま続けていては、たとえ魔石が隠されている場所に立っても、見落としてしまう可能性がある。

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