プロローグ
『ラクス様』
『ラクス様』
――誰とも知れない、声がする。
『愛しております、ラクス様』
『わたくしは貴方の愛の奴隷。いかようにもご命令ください』
『貴方様の瞳に映れるだけで、至福にございます』
誰もが、優しかった。
誰もが、愛を希った。
魔力が尽きる、その時までは。
ヒソヒソと、聞えよがしな囁き声がする。
『あの方にお仕えするの、わたし、嫌だわ。ろくに魔力の制御もできないんだもの』
『さすがの血統だし、人材として考えるなら喜ばしいのかもしれないけど、側で働くのは嫌ね』
『今はいいわよ、子供だもの。でも、大きくなったら恐ろしいわ』
避けようとしても避けきれないほどの、自分を嫌悪する言葉の数々を、少年は全力で無視をした。
(俺だって、好きでやってるわけじゃない。誰がお前らみたいな性悪に言い寄られて喜ぶかっ)
それが八つ当たりだということは、少年もよく分かっていた。
悪いのは、持った魔力を制御できない、自分の弱さなのだろうと。
「違うわ。あんたは悪くない。悪いのはロクな抵抗力も持たない自分を棚上げして、他人に責任をなすりつける、あんたの周りのバカ女だけよ」
平然とそんなことを言ってのけた少女に、少年は正直、物凄く驚いた。
少女のことは少年も知っていた。貴族の子息女の通う学院に、才能だけで飛び込んできた異彩の少女。
当然のように身分という差別を受ける彼女は、今日もどこかでケンカをしてきたのかもしれない。髪も乱れぎみで、服も一部、破れている。ただでさえ貧相な服が、さらにみずぼらしい様相になってしまっていた。
にもかかわらず、しゃんと背筋を伸ばして立っている彼女は内側から輝いて見えて、いっそ少年の知る誰よりも美しかった。
「だってほら、わたしはあんたといても全然平気じゃない」
胸を張ってそう言って、少女は少年へと手を伸ばした。
「わたしと一緒にいればいいわ。強者は、強者と一緒にいた方が楽しいの。もちろん、わたしもよ。――あぁ、でも」
付け加えるような呟きの直後、少女の瞳に獰猛な光が宿る。
「一番強いのは、わたしよ」