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「リアアアアアアアア!!お嫁になんて行かないでくれぇぇぇぇぇぇ!ぐすっ」
私は今兄様に全身で包まれています。兄様と私では大分身長差があるのでスッポリですわスッポリ。
ちょっ、兄様、肩が湿ってきてるんですけどガチ泣きですか?あんた妹好きすぎません?
ん?リアよりも大切なものなんてない?ありがとうございます。妹冥利に尽きますね。ああっ、そんなに頭ぐりぐりしないで下さいな。折角結ってもらった髪型が崩れちゃいます……。これは結び直しでしょうかね。
あ、今日は私と魔王様の決闘当日だったりします。
めっちゃ大きい闘技場で観客いっぱい来てますよ。控え室にも興奮した声が聞こえてきます。もう緊張でガクブルです。魔王様の結婚がかかってますからね、方々から人が集まる集まる。それに魔界のNo.1とNo.3の勝負なんて滅多に見られませんからね。
一応私は魔界で三番目に強いんですよ。この前死にかけてましたけどね……。
血があれば強いんです!あの後また魔王様から血を吸わせていただきました。それはもうちゅーちゅーしましたよ。
魔王様の血はすっごく美味しいんです。もう結婚しちゃいたいくらいに。じゃあ結婚しちゃえと思いますか?嫌ですよ。私まだ大切な言葉を何一つ聞いてませんからね。
乙女心は複雑なのです。
「リア、週7で兄様のところへ顔を見せておくれ」
「兄様それ毎日じゃね?」
「リアに会えないなんて耐えられないよ」
私が勝つ可能性は0ですか、そうですか。
いいもん、善戦はしてやる。
「ちょっとなんであんたそんな格好してんすか!?」
廊下からポチの怒鳴り声が聞こえてきました。
兄様と一緒に部屋の外を覗きます。
「お前が相手に合わせろと言ったんだろ」
「こういうことではないです」
そこには予想通りポチと私よりも少し背の高い少年が……。
ん?このお声……。
「ポチ」
「クリフです姫さん」
すかさずポチの訂正が入りました。
「そちらの少年は魔王様でいらっしゃいますか?」
「えっ?」
兄様が驚きの声をあげます。
びっくりですよね、私達の目の前には妙に大人びた少年がいますよ。
「そうだ、姫の外見に合わせてみたのだがどうだろうか」
私に近づいて来た黒髪の美少年はやはり魔王様でした。
か、か、か、
「かっこいいです魔王様!!」
いや~青年バージョンの魔王様もとっても格好よかったんですけど私と同い年の魔王様も可愛いというよりかっこいいんですよ。
思わず魔王様の手を握ってしまいました。
いやぁ~魔界ってほとんどの人が成人済の容姿をとっているので私と同じくらいの年齢の姿をしている人って滅多にいないんですよね。なんだか凄い親近感です!これが同い年萌えですかね。
「え、あ、ありがとう」
魔王様は少し赤くなってお礼を言ってくれました。魔王様が照れています。
「姫さん的にはありなのか……」
「ありです」
ポチはセンスがありませんね。こんなに格好いいじゃありませんか。見上げなくていいので首が痛くなりませんしね。
「リアっ……」
ああ、兄様が愕然とした顔をしています。そんなに妹をとられるのが嫌ですか。
「むっ」
また兄様にぎゅってされました。
「リアは兄様よりも魔王の方が好みなのかい?」
「正直そうです」
「うっ……ぐすっ」
「にーさまー?泣かないでくださいな。情緒不安定ですか。兄様も格好いいですよ?ただ僅差で魔王様の勝利です」
「~~っ」
「よしっ」
兄様と私の顔はそっくりですからね。自分の顔は整っているとは思いますけど私はナルシシストではないのですよ。だから好みって聞かれたら魔王様に軍配が上がります。
ってか魔王様今小さくガッツポーズしてませんでした?何か顔押さえて震えてますね。……気にしないでおきましょう。
「っとぉ、そろそろ時間のようですよ、お二方」
ポチが私と魔王様に時間だと知らせてきました。
私と魔王様は闘技場の入り口へと別々に足を進めます。
「リア……」
兄様が心配そうに名前を呼んできましたのでニッコリと笑顔を向けます。
「兄様、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私も成長したのです」
それだけ言うと私は兄様に背中を向け、また歩き出します。
屋外に一歩足を踏み出すと大歓声に包まれました。今日は雲一つない晴天です。
中央に歩いて行くとふわりとそよ風が吹き私の純白の上着の裾を浮かせます。
ここからは私はただのシェリアではなく吸血鬼の姫に意識を切り替えます。
「すぅーーー、はぁーーー」
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐く。そうして魔力を高めていきます。
私の纏う空気が変わったことに気付いたのでしょう。観客の声も先程のような歓声ではなくざわつきに変化しました。
そして、私が出てきたのとは反対側の入り口からは魔王様が。
魔王様が出て来るとその姿に戸惑う人が多く、ざわつきが大きくなりますが、直ぐに落ち着き始めました。姿こそ少年ですがその身から発されるのは圧倒的な威厳と威圧感。そしてこの場にいる誰よりも濃い魔力。その存在感に一人、また一人と声を発することを止め、闘技場は静寂に包まれる。
それは、そこにいるのは魔王その人であるという何よりの証明。
私が畏れる?そんなわけないでしょう。
吸血鬼としての血が疼きます。
私の前にいるのは純然たる強者。
そして、未来の夫になるかもしれない人。
私の口元に自然と笑みが浮かぶのがわかる。
魔王様の金色の瞳はしっかりと私を見据えている。
「さあ、魔王様。はじめましょうか」