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 柔らかいシーツの感触が頬をくすぐった。


「んっ」


 少女は軽く身動(みじろ)ぐ。


 だんだんと意識が浮上し始め、重い両瞼をゆっくり持ち上げる。


 ---眩しい。


 部屋の明かりも私の視界を埋め尽くしている人物も眩しい。

 ほんやりとした視界がクリアになっていくと、私を覗き込んでいる人物の顔が明らかになる。


「リアっ!!!!」

「ぐえっ」


 その人物は少女の目が覚めるのを確認するや否や、少女を力いっぱい抱き締めた。


「ああ、リア。目が覚めてくれてよかった。お前が死んでしまったら俺も後を追おうと思っていたところだよ」


 銀髪の美青年は少女の白髪に頬を擦り付ける。

 少女が目覚めたのは少女の自室だった。

 

「アルフォンス兄様……苦しいです」


 そう兄に抗議する少女は若干顔をしかめているがどこかで嬉しそうでもある。


「おお、ごめんよリア。気のきかない兄様を許しておくれ」


 そう言ってさらに締め付けてくる。


 こりゃ今は何言っても駄目だ……。


 兄様は頬に、額にキスの嵐を降らせてくる。


 ちゅっ ちゅっ


「うふふ兄様くすぐったいです」

「兄様を心配させた罰だよ。まさか貧血で死にかけるだなんて、もっと早くお前に合う血を見つけるべきだったね」

「気に病まないで兄様。今は何だかとっても気分がいいの」

「………」


 少女が元気だとアピールすると青年はどこか釈然としない顔をした。

 そのことに少女は違和感を覚える。


「?兄様どうかしましたか」

「何でもないよ俺のシェリア。ただ俺が手を尽くしても無理だったことがあいつにできたことが気にくわないだけさ………。折角、人間の血ならリアは飲めるかと思ってあいつから奪ってきたのに……」


 そう言って兄はちらりと広い部屋の隅を一瞥する。

 シェリアも兄と同じ方向を向くと、人間の男が縛られて床に座っているのが見えた。

 男は乾いた笑いを漏らす。

 

「やっと俺のことを思い出してもらえましたか吸血鬼の長殿」

「リアと話しているのにお前の事なんて考えるはずがないだろう」

「人のこと拐っておいてその言い方……さすが魔界のNo.2ですね……」

「まあね」

「褒めてねぇっつの」


 シェリアは拐うという単語に反応した。


「兄様勝手に連れて来ちゃだめでしょう。元居た場所に返してきなさい」

「えーちゃんと餌やるから~」

「俺犬なの?」


 兄妹のやり取りに男は冷静に突っ込んだ。

 ちなみにその会話中でもアルフォンスはシェリアの頭を撫で続けていた。アルフォンスはシェリアに向けてとろけるような笑みを浮かべている。


「シスコンか」

「何が悪い」

「開き直りましたね兄様」

「リアは天使や女神なんかよりも至高の存在だよ。リアを愛でない兄は兄じゃない。リアの金色に輝く澄んだ瞳や何物にも染まらない純白の髪はまるで………」

「一名集中治療室入りまーす」

「兄様重症。治療不可」

「リアへの愛情を変えるつもりはない」

「断言したな」


 だがその兄の愛情を実は嬉しく思っているのがシェリアの本音だ。

 イケメンで強くて優しい兄に好かれて嫌なわけがない。そのことをアルフォンスも知っているのでシスコン進行待ったなしなのだが。


「ところで兄様、私が気絶する直前誰かに血を飲ませてもらった気がするのですが………」

「…………………………………ああ、それね」

「急にテンション下がったな!!仮にも俺の主に失礼だろ」


 一気に声が低くなったアルフォンスに男が文句を言う。


「主?あの美味しい血の持ち主はポチの主なのですか?」

「ポチじゃねーしクリフだし。完全に犬扱いじゃないですか…………そうですよ俺の主が姫さんに血を飲ませたんですよ」

「うああああああああああああああ」

「兄様どうした!?」


 アルフォンスは突然頭を抱えて叫び出した。

 

「ああ……」


 クリフは何故か訳知り顔だ。独りで納得している。


「兄様どういうこと?」


 シェリアが尋ねるとアルフォンスは再びシェリアを強く抱き締めた。


「大丈夫だリア、お前はまだ穢れてない」

「え?何その安心しろみたいな……。私知らない間に穢れちゃったの?」

「主が浮かばれねぇ……」

「そうだポチの主って誰………」


 バンッ!!


 いきなりシェリアの部屋の扉が開かれた。


「姫!!」


 聞き心地のよい低音とともに入って来たのは整い過ぎた容貌の青年だ。アルフォンスとは違う系統の美青年でこちらは冷たい印象を人に与える。その艶やかな黒髪の下からのぞく金の瞳は真っ直ぐにベッドの上のシェリアを見つめている。


 長い脚でつかづかとシェリアの方へ歩いて来るのは紛れもなく………。


「魔王様!」


 魔王ノアは微かに口角を上げ微笑んだ。


「目覚めてくれて良かった。久しぶりだな、姫」


 ちゅっ


 ノアはアルフォンスを退けて、シェリアを抱き締める。そしてシェリアの額にキスを一つ落とす。


「主!!」

「ん?」


 クリフが声を張り上げるとノアはやっと縛られたままのクリフの存在に気付いた。

 

「何だクリフ居ないと思っていたらこんなところで道草食っていたのか、職務怠慢だぞ」

「長殿に姫さんの餌にされそうになってたんですよ」

「何っ!?お前の血なんか飲んで姫が腹を下したらどうする」

「そっちすか主……」


 クリフはガックリ肩を落とした。


「そんなことよりも……シェリア」

「そんなこと……」


 ノアは跪いた。


「!?」



「僕と決闘してくれ」



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