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小鬼 第六話 穏ヤカナ日常



「うーん。」


 なんだか頭が痛い。そして冷たい。そしてなんかふにふにする。ふにふには暖かい。


 俺は寝てたんだなぁなんて暢気なことを考えながら、ほっぺに当たるふにふにをふにふにして楽しんでると……


「レイ、クスグッタイ。オキタ?」


 聞こえてきたニコの声に俺はギクッとしてビクッと起き上がる。周囲を見渡すと洞窟の中のようで、周りには誰も居なかった。


「あいたたたた……。」


「マダ、冷ヤシテオカナイト、駄目。」


 そうだ。俺はバロンに剣の鍛錬をしてもらっていたんだ。思い出してきた。

 大分剣筋が良くなってきたと実戦形式の練習をしていたんだった。


「色ゴブリンのレイ、大丈夫カ?」


 俺が記憶を辿っていると、バロンが現れた。そしてバロンの顔を見て全てを思い出した。


 バロンが木斧を振り下ろしてきたからギリギリまでガードするフリをして半身になって躱した。

 いや、躱したつもりが突然俺が避けた方に木斧の軌道が変わったんだ。

 そして会心の一撃が脳天にメキョッてしたところで失神したんだな。


「バロン!あんな魔人斬りみたいなのを頭に直撃させるなんて酷いよ!!」


「悪カッタ。レイガ防御ノ構エヲトッテイタカラ、コノママデハ剣ゴトレイヲ、殴ッテシマイソウダト思ッタノダ。無理矢理軌道ヲ変エタラ、ソッチヘレイガ来タカラ間ニ合ワナカッタ。」


 ぐはっ。ガンガンいこうぜに対しての作戦ミスだったか。真っ直ぐな男は情熱の他に優しさを持ち合わせている事を忘れていた。

 運も実力のうち。完敗に乾杯だな。


「負けました。また頑張ります!」


「アァ。一緒ニ頑張ロウ。」


「レイ。冷ヤシテ。」


 ニコは無理やり俺を引っ張り先程と同様の膝枕をしてくれ、水を浸した布で頭を冷やし続けてくれた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「トーマス。はい次~、おじゃる。はい次~、ターちゃん。」


 脳天魔人斬り事件から2週間が経ち、コロニーの皆も俺のことをかなり受け入れてくれるようになった。

 しかし名前が流行ってしまい、即興であだ名をつけるかの如く名前を与えている。


「レイ、オツカレサマ。」


 鍛錬の合間の休憩中にも関わらず慌ただしくしている俺を見て、ニコが木で造ったコップに水を入れて持ってきてくれた。


 ニコは脳天魔人斬り事件以降は以前に増して傍に居てくれるようになった。

 狩りや鍛錬の時間以外、直向きにお世話をしてくれている。


「ありがとう、ニコ!」


「ウン。」


 水をぐいっと飲み干してどんどん名前を授与しさばいていく。


「さんしろう。はい次~、みちょぱ。はい次~、デカいからマツコ。」


 深く由来を聞かれる恐れは無い。何故ならバロンやニコほど知能が発達しているゴブリンは少ないからだ。

 ごく稀に聞かれても、既に知能が高そうなゴブリンはリサーチ済みなので対応出来ている。


「ネェ。名前、意味ハ?」


 さっそく来た。この子はユパと名付けたまだ子供のオスゴブリンだ。いつも元気に走り回り、ゴブベビーやゴブ幼児の面倒まで見たりする良く出来た子だ。


「君はユパだね。意味というか由来はね……めっちゃ凄い剣士から取ったんだよ。」


「ケンシ?」


「そう。皆から頼られ慕われる素晴らしい剣の使い手なんだよ。」


 アニメーションですけどね。


「ワカッタ。ユパ、レイミタク剣士ニナル。」


 ユパは嬉しそうに駆けていった。喜んでもらえたみたいでなによりだ。


 名付け作業が終わりバロンと戦闘訓練を終えて帰る頃には日が暮れ始めていた。

 洞窟へ戻るといつも出迎えてくれているニコが居なかった。体調でも悪いのかなと心配になりバロンに聞いてみると洞窟の中へ入れば分かるだろと突き放されてしまった。

 いつもより素っ気ない感じがしたので深く聞けずにそのまま洞窟へ戻ると、


「グギャ!グギャ!レイ!レイ!」


「レイ!レイ!グギャ!モドッタ!!!」


「ハヤク!グギャ!レイ!タベヨウ!」


 洞窟で一番広い空間に沢山のゴブリンが集まっていた。何だか俺を待っていたみたいな雰囲気だな。


「レイ。コッチニ座ッテ。」


 するとニコが俺に座るよう促してきた。言われるままニコの隣の椅子に座った。

 するとニコとは逆側の隣へ来たバロンが口を開く。


「皆レイノ事ヲ仲間ダト思ッテイル。コレカラ、レイガ来タ祝イヲスルノダ。」


「ソウ。皆レイガコロニーニ入ッテクレテ嬉シイノ。」


「あ、ありがとう。」


 何これハズいんですけど!まぢサプライズとか感動なんですけどー!!つーか、ゴブリンにサプライズ文化がある事に驚きなんですけどー!!


 恥ずかしさから変なテンション(心の中のみ)になっていると、俺の涙腺を崩壊させるべく追撃が行われる。


「レイ!グギャ!イヅモ!グギャ!オモヂャ、アリガドウ!!!グギャグギャ!!」


 ※休憩中や夜の間に子ゴブへ積み木とか人形作ってあげてました。


「レイ!ゴノ杖!!グギャ!アリガタイ!!グギャ!レイ、優シイヤヅ、グギャ!」


 ※コロニーには老ゴブリンもいたので、杖をプレゼントしました。


「レイグギャ!ミンナ、レイガキテ!グギャ!ウレシイ!!!ナカマ!!ナカマ!!グッギャ!」


「レイ。レイハイツモ皆ヲ想ッテクレテル。皆嬉シインダ。俺達ハズットレイノ仲間ダ。」


「レイ。イツモアリガトウ。」


 そういってニコは立ち上がると花を束ねた物を渡してきた。


「うぅ……俺……俺……。」


 皆違うんだ。違うんだよ。感謝してるのは俺の方なんだ。命まで助けられて仲間として迎え入れてくれて、何不自由なく日々を過ごさせてくれた。


 思い返すと涙がこぼれ落ちる。


「サァミンナ!食ベヨウ!歓迎ダ!!」


 バロンの合図でゴブリン達は一斉にご馳走へ手を出す。それをみた俺もご馳走に齧りついたのだった。





 満腹になったゴブリン達は徐々に解散していきそろそろお開きかなと思った頃、ニコが俺の肩をつんつんしてきた。


「ん?どうしたのニコ。」


「レイ……チョット来テ。」


 ニコは用件を述べずに来てとだけ伝えると歩き出した。皆をこのままほっといて行っちゃっていいのかとも思ったけど、残ってるメンバーも楽しそうにはしゃいでいたので俺もすぐに席を立った。


 ニコの後ろを歩いていくと月明かりを覗かせる出口が見えてきた。


「ニコ、夜なのに外へ出て大丈夫?」


 正直言って夜の森はトラウマなんだよな。ほんと色んな意味で。


「大丈夫。スグソコダカラ。」


「どこへ行くつもりなの?」


「ヒミツ。」


 本当に大丈夫なのかなぁ。あの夜以降一歩も出てないからなぁ。


 恐る恐る洞窟から出る俺を見てニコは吹き出した。


「レイ、魔物ハ自分達ノテリトリーガアルカラ、ソコニ入ラナケレバ大丈夫。」


「そうなの!?でもこないだはトカゲみたいなのが普通に歩き回ってる感じだったし、トカゲが逃げた鎧も移動してたよ?」


「モチロン夜行性ノ魔物ハ狩リノ為ニ動ク。デモ、大キナ魔物ハ音デ分カル。派手ニ暴レル危ナイノハ今コノ辺リニハイナイ。」


「でもでも!鎧は全然音がしなかったし、普通にいたよ!」


「……森ノ亡者ハ普通ハコンナ所ニイナイ。モットズーット深イ所ニイルハズ。アノ日ノ森ハ変ダッタ。」


 何その怖い話。もしかしたら今日だって変かもしれないじゃんか!

 つーか、この森どんだけ広いんだろ。奥とかよく言ってるけど、そんなに広い森なのかな。富士の樹海くらいあるのだろうか。


 ニコは話は終わったと言わんばかりに堂々と歩みを再開させる。

 仕方なく俺はニコの後に続いた。


「ココ。」


 ニコが立ち止まった場所は、徒歩1分の洞窟の裏側の場所だった。

 ほんとにすぐそこだったのね。ゴブ感覚的にすぐそこは最低でも10分は歩くことを覚悟していたよ。


「ここ?……ここがどうかしたの?」


 辺りを見渡しても普通に森が広がっている。むしろ月明かりが少なくかなり暗い場所に感じた。


「コノ木ニ登ルカラ、ツイテキテ。」


 ニコが指をさしたのは一際大きな幹の木だった。この大きな木のせいで月光が遮られていたのか。


 ニコが軽快にシュパシュパッと木登りを始めたので俺もそれに続く。

 幹の太さからして大きな木なんだろうなとは思ったが、登ってみると周りの木よりも全然高さが違っていた。


「凄イデショ?」


 昼にみたらかなりの範囲を見渡せるのでは無いかという位の高さを誇っていた。そして実際富士の樹海がミニマム級だと表現きても良い光景が目に映る。


 見渡してみると森の切れ目が見えたが1番近いところでも俺の足で数時間はかかるのではないだろうか。

 因みに深いところは切れ目などないのでは無いかという程にどこまでも続いていた。


「うわっ、こりゃ凄いなぁ。ん?あっちにある光は何?」


 どこまでも続く闇夜に光を点している場所が見える。ゴブリンの洞窟では火を使っていない為、夜に光を点している光景がとても懐かしく思えた。


「アレハ人間ガ住ンデル所。アッチハ人間ノ王ガ住ンデル所ト聞イタ。」


 手前の小さな光の後に奥にある大きい光を指差す。かなりの距離があるけど見えるという事は大規模な建物があるのだろう。

 王が住んでる所……王都とあと手前の一つはあの国の領地の町といった所だろうか。


 本当は人と会いたい気持ちはある。だけど思っていたよりも人里が遠い事に安心している自分がいた。


「これだけ離れてても人は森に来るの?」


「ココマデハ来ルコトハ少ナイケド来ル。魔物ヲ狩ッテ生キテルノハ私達モ同ジダカラ仕方ナイ。」


 確かに俺達ゴブリンも魔物を狩って生きている。文句を言えた立場では無いが、元人間が人間の標的になるというのは良い気持ちがしないのはただの傲慢なのだろう。


「そっか。……気を付けないとね。」


「ドウシタノ?……レイハ人間ノコトガ好キナンデショウ?」

 

 人間の事が好き……それはどうなんだろう。人間として、想として生きている時は嫌いな人間の方が多かった。恐らく世界中の人と知り合っても好きになれる人間は1パーセントにも満たないと思う。

 それでも元人間として、恐ろしい夜の森に一人の少女が迷い込んでしまっていたのなら……助ける事が出来る状態なのだから助けたいと思ったのだろう。

 それともゴブリンになってしまった今でも心は人間なんだと自分自身に言い聞かせたかっただけなのだろうか。

 答えは無いのかも知れない。だけど考えれば考えるほど傲慢な答えばかりが目立つ。


 少女を助けて、ゴブリンになってしまった自分を慰めたかったのではないかと。


「自分でも……良く分からない。」


 俺の口から出たのは紛れもない本音だった。この世界に来てからというもの精神的に不安定になっている気がしていた。それは一人の時に如実に現れた。

 無理も無いのかも知れないと自分に言い聞かせ何とかやってきたが、一つ確信的に恐れている事がある。


 仲良くなる事だ。


 良くされる事を無下に出来るほど強い精神力を持ち合わせてなどいない。それに実際仲良くしてくれることは嬉しく思っている。だがそれ以上に失いたくない気持ちの方がどんどんと強くなっていっている。

 だからこそ心の奥底ではこれ以上踏み込んで欲しくなかった。


 ただ会話していただけなのに、俺の様子がおかしかったのだろう。突如ニコが俺の手を握ってきた。


「レイガ優シイノハ皆モ知ッテル。優シイレイダカラコソ、私達ニハ分カラナイ事ガアルンダト思ウ。」


 皆まで言わなくともニコの伝えたい気持ちが伝わってくる。その優しさが体に浸透するように心が温まっていく。


「私ニハ、レイノ辛イ事ガ分カラナイカモ知レナイ。デモ、イツモレイノ味方ダヨ。イツモ傍ニイルカラネ。」


 その言葉が失うことを恐れる俺を苦しめつつも、優しく包み込んでいった。


 覚悟をしなくてはきっと守れない。


 ニコを守りたい。バロンを守りたい。コロニーを守りたい。失う恐怖よりも、守る為の強い気持ちを抱きつつ俺はニコの手を握り返した。


ーーーその時だった。


 突然俺の手を離してニコは立ち上がった。


「どうしたの?」


「…………。」


 ニコが険しい表情で見詰める先を見ると、蛇のように連なるオレンジ色の光が見えていた。


 


 


どーも(^^)間違って二話飛ばしで第八話を投稿するという恥ずかしいミスをして慌てて削除した作者です。

気付いた人いないとは思いますが、お詫びに第八話まで連投します!

推敲する時間がないので、誤字脱字や妙で気持ち悪い表現があったらごめんなさい!


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