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小鬼 第一話 繋イダ命

ようやく異世界‘モルフィーナ’へ到着です!



「うぅ……あれ?ここは……モルフィーナ?」


 どうやらリョカ姉さんによる愛のある張ツッパリで突き落とされてから気を失っていたようだ。

 これでワープやキーナルメナン(駄目幼女)のディープで濃厚な口吻の時を合わせて4回目か。なんか死んでから気絶する頻度高いな。とりあえずどこかへ向かわないと始まらない。


 心の準備は未だに出来ていないが、こうなってしまった以上どうにかするしかないのだ。

 周囲を見渡すと林なのか森なのかはたまた山か、樹木や草が生い茂った場所にいた。


「ってあれ?転生って赤ん坊からスタートじゃないの!?これじゃあ転生じゃなくて、転移じゃんか。」


 早速予想を裏切られ狼狽していると、ここにはいないはずのキーナルメナンのぷほぉっが聞こえた気がした。

 どうやら俺は度重なるストレスのせいで病んでいるのかもしれない。

 

「あーあ。誰かが勝手に手を差し伸べてくれな……うわっ!!」


 愚痴を溢しながら歩き出そうとしたとき、突如矢が飛んできて顔面すれすれを通り目の前の木に突き刺さった。


「ちっ!外したか!!!キマ、回り込め!」


 何だ!?何が起こった!?

 矢が飛んできたであろう方向に顔を向けると二人の男女がこっちへ向かって走ってきているのが見えた。


 弓を構え俺を狙っている男と、その前を走る短剣を握った女がいた。


 やばいやばいやばいやばいやばい!!!!

 どうしたらいいんだ!?迎え撃つか?!いや、キーナルメナンがくれた能力とやらも分かっていないのに武器を持った2人組に勝てるとは思えない!


 逃げるか。……それしかない!!!


 逃走を決めた俺はすぐに反対方向へと走り出した。何度も何度も振り返りたい衝動にかられるも、それを何とか我慢して木々を避けて息の続く限り走り続けた。


 そこで俺は気付く。自分が濱崎想として地球にいた頃よりも明らかに俊敏な動きで木々を縫うように走り抜けていることに。


「これが……キーナルメナンがくれた力なのか?……ッ!?」


 すると突如太ももに激痛が走り、全速力で走っていた俺はゴロゴロと転げ木の幹にぶつかる。


 やばい、足が痛ぇ。力が入らない。

 どうにか立ち上がろうと力を込めるが足がプルプルする。それでも何とか立ち上がり顔を上げるとそこには更に驚愕な光景が移った。


「う…嘘だろ?!」


 緑色の肌をした凶悪な面構えの怪物が何体も木の陰から飛び出してきたのだ。


 背丈はそれ程大きくない。だが、野生動物のように体が筋肉質で眼もギラついているように見えた。

 これは……終わったな。


「よし、矢が当たったぞ!!キマ!今のうちにあのゴブリン(・・・・)を仕留めろ!!!」


 ゴブリン?矢は俺にしか当たってないように見えるけど……どれかに当たってんのかな。

 でも俺を追い掛けてきてるみたいだし。まぁどうでもいいか。どのみち助からないんだし。

 つーか、こいつらやっぱりゴブリンだったか。


 しかしキマと呼ばれていた人間が急に立ち止まると、その後ろから走ってきた男も止まった。


「くそっ!!近くにゴブリンの巣があったか!!!あと少しで討伐出来たのに!!キマ!撤退だっ!!!!」


 そう言い残して2人の男女は踵を返し走って逃げていった。


 待ってくれよ~い!置いてかないでくれよ~い!とは言わなかった。だって既にグリーンモンスター5体に囲まれてるんですもの。詰みました。異世界の人生儚いにも程があるだろう。


 目を瞑り歯を食いしばり、どうにか出来るだけ痛く無いことを願いながら死を待っているがそれは訪れなかった。それどころか誰かが話し掛けてきた。


「ダイジョブカ?キズ……イタムカ?」


 うわっ。グリーンモンスターだ。間違いない。だって、グリーンモンスターしかいないんだから。


「ガマンシロ。」


「ぐあぁぁぁー!!!」


 太ももにまたしても激痛が走る。目を瞑っていたせいで分からないが、感覚からして矢を抜かれたのだろう。血抜きか?鮮度を保ちたいのか?美味しくいただくのか!?


 太ももを抑えて痛みに耐えていると、突如傷口を覆うようにヒンヤリとした感触がした。


「コレデ…ダイジョブ。ヤクソウ、スグナオル。」


 耐えきれずに眼を開けると、太ももに何かの草を押し付けるグリーンモンスターが映る。

 なにこれ。香辛料?薬味?俺が美味しくなる草で味付けか?


 ちくしょう。こえぇ…こえーよ!助けてくれよ誰か!!俺の心が叫びたがってるから好きに叫ばせておくと、なんと太ももの痛みが徐々に消えだした。


 なに?どういうこと?そういえば薬草とか言ってたっけ。


 パニック状態の俺にグリーンモンスターは静かに話し掛けてきた。他のグリーンモンスター達は周囲を警戒しに森へ溶けこんで消えていった。こいつがリーダーなのかな。


「オマエ……ドコノ部族ダ?」


 部族?何だそれ。部族もなにも種族が違うだろ。それにしてもさっきからこのグリーンモンスターに敵意を感じないな。助けてくれたし。


「オマエ……ハグレモノカ?」


「たぶん。」


「ソウカ。仲間ニナルカ?」


 まじか……いきなり仲間かよ。これ断ったら喰われるのかな。それとも強制なのかな。備蓄食料の役割で仲間とかだったりして。

 まぁ、とりあえず今を生き延びられなければ話にならないが最初の仲間がこいつかと思うと先が思いやられるな。

 思いやられるって言うより真っ暗だな。


「そ、そちらが良ければ。」


「アタリマエダ。マズハ、住処ニモドルゾ。」


 そういってグリーンモンスターリーダーは俺の事を背負って歩き出した。

 優しい……でもちょっと匂うな。想像していたよりはマシだけど。


 おぶられて移動している間、他のグリーンモンスター達は姿を隠しながらも囲うように警備してくれているようだった。カサカサと草木が揺れる音がする。


 今のうちに色々聞けることを質問しておいた方がいいかなと思い、リーダーに話しかけてみた。怖いけど。


「あの……失礼ですけど種族を聞いても?」


「……ゴブリンダ。」


 やっぱり襲撃してきた男女が言ってたのは本当だったか。うわ~、生ゴブリン見ちゃったよ。つーか生ゴブリンにおんぶされてるよ。


「ぷっ。」


「……ナニヲワラッテル。」


「いやぁ、ゴブリンに会えて嬉しいなぁって思って。しかもおぶってまでもらえてさ。こんな経験中々出来ないでしょ!」


「……オマエダッテ、ゴブリンダロ。変ナヤツダナ。」


 ……。


 えーっと……どういう意味?


 お前だってゴブリンみたいな顔してんじゃねーか!!!みたいな意味かな。リーダーは笑いを取りに来るようなタイプに感じなかったが意外とおちゃめなのかな?


「はははっ。面白いこと言うなぁ。アハハッ………ハハ。」


 リーダーはゴブリンのくせに面白い奴だなぁ。俺はそんなことを思っていた。思っていたんだ。ほんとに思っていたんだよ………この時までは。


「アハハッ……うそだろ。」


 しかし、今目に映った自らの手の甲が赤色なことに気付いて渇いた笑い声が漏れた。


 何これ。……何で皮膚が赤いの!?なんでこんなに皮がゴツくて爪が鋭いんだよ!?


「ドウシタ?傷ガ痛ムノカ?!」


 リーダーゴブリンは俺の慌てた様子を見せると、俺を一反地面に下ろしてくれた。


 ……今、俺は服を着ている。死んで魂になってしまったはずなのに、どういう理屈か分からないけど死んだときと同じロンT、Gパンにスニーカー姿だった。


 多分……自分の手の変化に気を止められない位に余裕が無かったのだろう。

 心の準備も整っていないのに突然リョカ姉さんに突き落とされた世界で2人組に襲われて、気付けばゴブリンの群れに囲まれゴブリンに救われて。

 思い返してもとんでもない経験だったな。


「俺って…………ゴブリン?」


「ソウダナ。レッドゴブリンダナ。強ク生マレルコトガデキテ、ヨカッタナ。」


 レッドゴブリン。リーダーの口ぶりからしてゴブリンの上位にあたる魔物なんだろうか。

 スライスベスみたいな感じかなぁ。それとも全然強いのかなぁ。どうせならスペックが高い方がいいな。


 ……つーか、それどころじゃないけどな!!!!なんでゴブリンなんだよ!!!レッドだろうがグリーンだろうがゴブリンはゴブリンだろ!!!

 ゴブリンだらけの世界まじ勘弁みたいなリアクションしてたけど、人間がいる世界でなんでわざわざゴブリンなんだよ!!


 完全に人間に転生すると思っていたよちくしょう!!!!期待と不安が入り混じってたのに、期待だけ見事に爆破させやがって!!!!


 …………ふぅ。落ち着け落ち着け。とりあえず落ち着け。


 どうせあいつは動揺する俺を見てぷほぉっとか言ってやがるに違いない!!!!騒いだらあいつの思うツボだ。


 全てがランダムだと言うんだから戸惑おうが落ち込もうがどうにもなんねーだろ。今はこのリーダーゴブリンの機嫌を損ねないようにしなくては。


「ドウシタ?怪我イガイニ、ナニカアルノカ?」


「いや……何でも無いだお?爪が鋭いぜ~と思ったぬー。」


 駄目だ!!動揺が隠せない!!!!

 無いだお?はギリギリまだしも、ぬーは明らかにイかれてるだろ!!!!


「ジマンカ?……マァ、アンシンシタゾ。」


 リーダー!!あんた心広いな!!!今のをスルーしてくれんのか!?


 とりあえず頭がおかしい奴というレッテルを貼られないで済んで安心していると、再度リーダーはおんぶしてくれた。優しい奴だな。

 しかも、急ぐと揺れてしまう事になんか気を遣ってくれてる気がする。………ゴブリン如きが!みたいな偏見な見方をしていた自分が恥ずかしくなる。


 それにしても、ゴブリンか。まさかゴブリンになるなんて夢にも思っていなかったな。ゴブリン達がみんなリーダーゴブリンみたいな奴だったら、ゴブリンも悪くないのかもな。


 俺はこのリーダーゴブの優しさで心境に変化が如実っていた。もう少しゴブよりの見方をしてみようかという程度だが。


「なぁ……名前教えてもらえるか?」


「ナマエ……ソンナモノナイゾ。変ナヤツダ。」


 おっとー、魔物に名前なんて無いんだな。でも名前が無いんじゃ、何て呼んだらいいんだ?


「でもそれじゃ声が掛けにくいし……じゃあ俺が呼び名を決めてもいい?」

 

「ヨビナ?」


「そう!!呼び名!!!そうだなー、ゴブさんだと安直過ぎるし……なんか好きな食べ物とかある?」


「……ニクダナ。」


 そうきたか。肉か。ニクソン……無いな。


「じゃ~、あっ!それ!!そのネックレスはなに?」


「コレハ、バルロインノ牙ノ首飾リダ。狩リガウマイモノダケガモテルモノダ。」


 リーダーゴブリンは少し誇らしげに首飾りを見せてくれた。狩りが上手い事はコブリンにとって誇りなのだろう。

 バルロインの首飾りか。バル……バロ……バロン。バロンだな!バロンって感じの雰囲気だ!


「じゃあバロンって呼んでもいい?」


「バロン……。ナマエ。………ヘンナカンジガスル。バロンカ。」


 リーダーゴブリンのバロンはまんざらでも無い感じを醸し出していた。なんか貴族っぽいし、自由に生きている感じからして我ながらリーダーには最高のネーミングな気がするぜい!!


「オマエハ……ナマエアルノカ?」


(そう)だ……ね。俺はレイ!!よろしく!!!!」


「レイ……ナマエ……ワルクナイカモナ。」


 あぶねぇー!!今のはギリギリセーフだろリョカ殿!!!


 つーか、リョカ姉さんとかキーナルメナンは俺の事を見れるのかな。分からないけど、あの言い草だと確認する手段はありそうだし、ここはレイって名乗るしか無いだろ!!死んだときが怖すぎるからな!!ある意味、死ぬときよりも死んだ後の心配の方が気になるなこれ!!!死ぬ寸前に胃に穴が空きそう!!!


 まぁ、名前っていう概念もバロンという響きも気に入ってくれたみたいだし順調っちゃ順調なのかな。


 簡単な自己紹介?で俺とバロンの距離が縮み空気が和み、なんだか少し仲良くなれた気がする。さっきまでよりもリラックスしておんぶされているうちに、バロンの足取りがゆったりしたものに変わった感じがした。


「ツイタゾ。ココガオレタチノ住処ダ。」


 バロンの見詰める先を追ってみると、そこには洞窟がぽっかりと口を開けていた。


 どうなら住処に到着したようだ。

なんとレイくんはレッドゴブリンに転生してしまいました(笑)


ゴブリンの仲間になったレイくんに、一体これからどんな生活が待っているのか目が離せません(棒読み)


ここまで読んでくれてありがとうございます!

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