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妖猫 第八話 泣きっ面にダイア



「レイ!!!」


 横たわるプップさんを抱き締めながらピピンさんが叫ぶ。


 俺は動こうとしたが、柔らかな土が膝まで包み込むとまるで鉄の塊に覆われたかのように硬く重くなり足は動かせない。


 どうにか逃げだそうともがいていると背後にそいつは現れた。


「ダイアさんに言われてきてみれば鼠が二匹!ぁぁぁあの人はほんと怖いなぁ。怖いなぁ怖いなぁ怖いなぁぁあっ!!!」


 見るからに変人っぽい男。


 痩せ細り頭髪は無く、ボリボリと掻き毟る頬は血が滲んでいる。空いた手が持つ杖はサイズこそ控えめだが、禍々しいものを感じる。人の頭蓋骨を用いたその杖を振り回し男は叫ぶ。


「つちつちつちぃ!やはり土属性の魔法なのだ!捕らえたぞぉ!!私の魔法は拠点の為に非ず!!逃がさないぞ逃がさない、ダイアは怖いからなぁ。それだけじゃない!妖精が増えている!!あがっ!なんて幸運!!!このような重要な局面を任されたからには失敗など許されない!!!たまらない!!!たまらないのだ!!!!いやまだまだそれだけじゃない!なんだ貴様!!妖精のお仲間!?見たことも無い!!妖精と共にいる猫形の魔物!!まさか精霊!?なのか!?この幸運!!!あぁぅ私を絶頂へと導く為に生まれた三匹の生物よ!!!アァァう゛ァァ!!!たまらない!!逃がすまじ!!!」


 狂ってる。焦点も合っておらず発言もイかれてる。だがこの土魔法に関しての腕前は相当高そうだ。


「風の槌!!」


 男の土魔法を風の槌で破壊しようとしたが、砕くことは叶わなかった。ならばと男に向けて風の槌を放つ。


「がぁぁ!!!」


 風の槌を発動する直前に、足を覆う土が内部で棘を生やし足を貫いた。尋常ではない痛みにただ叫ぶほか無かった。


「つちつちぃ!どうだ土魔法の味は!!最高だろう?!」


 ゲラゲラと大声を上げて男は歩み寄る。そして俺の頭へと杖を振り下ろす。


「魔法を使えば痛めつける!!もちろん土魔法でなぁ!!逃がすものか。逃がすわけがないぞぉあ!!!」


 頭から血の気が引いていく。視界もぼやける。だが、やれることはある。


「ピ……ピンさん。プップさんを連れて逃げて。」


「そんな、わけにはいかない。」


「早く……捕まる前に。」


「無理……無理!」


 ピピンさんが珍しく声を荒げる。震える眼に涙を浮かべて真っ直ぐに睨み付けるように見据えてきた。


「プップさん。分かるでしょ?必ず会いに行く(・・・・・・・)。」

 

「……。」


「アハハハッ!!!素晴らしい情愛だ!!だがそれ故に見捨てられないだろう!?だろう?!もし逃げれば必ずこいつは死ぬからなぁ!!しかもただじゃ死ねない、死を望みたくなるような遊びも待ってるのだ!!」


 男はそう言うと二人に向かって歩き出す。


「……ん~?しつこいのは嫌いだが?ねちょねちょしたのが許させるのは土だけなんだがなぁ!!!」


 倒れ込みながらも何とか痩せ細った足を掴んだ俺を何度も何度も蹴り付ける。


「レイ……待ってる。ごめん。」


「あり…がとう。」


 ピピンさんはプップさんを抱きながら消えていった。どうにか理解してもらえたので、俺は最後にお礼を告げた。


「…………はぁ?はぁ!?なんなんだ!!まだ駆け引きの途中じゃないか!!何故あの様子で糞クズ猫を捨て置いて逃げられるんだ!?クズ妖精め……クズ妖精がぁ!!ダイアめ……妖精は情に熱いなどと嘘を吹き込みやがって!!!」


「嘘をついたつもりは無いのですが。」


 冷え切った声が聞こえてきた。腫れ上がった瞼を開くと、そこにはダイアが立っていた。


「ダ、ダイア。ぁ、あ。」


「妖精に逃げられたのですね?」


 男はダイアを見るなり狼狽していた。視線は泳ぎ回り、その瞳はダイアを捉える事は無い。


「それは。そのだ。あれは誰でも止められなかったのだ!!私の……土魔法のせいでない!!」


 涎を撒き散らしながら男が数歩寄っていく。だがその足がダイアまで辿り着く事は無かった。


「ユニフレイム。」


「がぁ!?やめ…やめろ!!頼む!頼がぁぁぁあぁ!!!」


 ダイアが魔法の名を口にすると、男の胸に小さな炎が浮かび上がる。そしてその炎はすぐに激しく燃え上がり土魔法の男は焼き殺された。


「あなたは立派ですね。お仲間を見事に救えました。上出来でしたね。しかしヘナウーリーは皆死にました。それであなたは満足ですか?」


 …キモザルが全滅。俺なんかの為に命を投げ打って。


 人、人間、人族。


 今の俺には……ただの醜い存在でしかない。キモザルの方がよっぽど美しくさえ思える。


「……あなたは妖精を逃がすためだけに来たのですか?妖精はあなたの仲間なのですか?」


 うっすらと微笑みを浮かべ品定めをするように俺に問う。その様子は以前出会った時とは違った狂気を感じさせた。悪い意味でだ。


 


 


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