魂 第三話 駆けて引いて
魂の比重だけで考えればってなんだよ。不安要素にしか聞こえねーよ!?
「他の世界が本当に存在するんですか?」
「当たり前じゃろ?世界も管理者も星の数ほどあるのじゃ。知っておるか?最近じゃネット小説とかいう訳の分からんものの管理者も作られたのじゃ。レイは立派なのは魂だけじゃのぉ。ぷふぉ。」
ぷふぉじゃねぇし!当たり前じゃねぇから!!聞いたことねーわ!!
でもまぁ活路?……は見えたか。千年も待てるわけ無いからな。
「一体どんな世界なんですか!?教えてくだせぇ!!」
「余は詳しくは知らん。ティルトルティアに聞けば分かるが余は忙しいのじゃ!!!レイよ……分かるな?」
「えぇ!容易く想像出来ますよ!!間違いなくキラーマリン装備のことで頭がいっぱいなんでしょうねこんちくしょーー!!!」
いかん!心の声がとうとう声帯に宿っちまった!!地獄送りは嫌だぞ!
「騒ぐでない。ほんとーにうるさい奴じゃの。リョカとやら、其方は知ってよるか?」
「はい。ティルトルティア様の域も担当したことがございますので。」
「ならばちとレイに説明してやってくれ。こいつアホじゃし、時間が惜しい……手短に頼むぞ?」
ちっ。何が手短にだ。仕事しやがれってんだバーロー!
「コホンッ……ではレイ様。モルフィーナはティルトルティア様が管理されている世界となります。レイ様の存在していた地球同様に人間のような生き物も存在しています。」
おぉ!それは良かったぞ。まじで良かったぞ。仕方なく行った世界がゴブリンだけでしたなんて笑えないからな。
「次に…地球よりも文明的には低いですが、かけ離れてはいません。ただ基本的に地球とは違った生き物や生活があります。前世が地球でしたのでご存知かと思いますが、魔法や魔物などが存在している世界となります。ここまではよろしいですね?」
ウホッ。そんな世界が本当に存在してんのかよ!!これは異世界転生したら勇者でしたって本でも執筆するようかな。安直なネーミング過ぎるかな。
「ですのでモルフィーナは地球よりも危険が身近に存在してはいますが、キーナルメナン様がお認めになる程の魂をお持ちのようですのでその点は問題ないのではないかと思います。転生後の事
は私の管轄外ですので、あくまでも憶測ですが。」
憶測か。それでもキーナルメナン様とやらが認めてくれてるってんなら大丈夫だろ。つーか、誰だそれ?
「キーナルメナンって誰ですか?」
「余の名じゃ。荘厳で可憐で素敵じゃろ?」
うっせぇ!仕事しやがれ極悪幼女が!!名前だけが立派な5歳児にしか見えねぇわ!!
「レイ様……如何なさいますか?」
俺の魂なら問題ないのではって事は何かに魂の強さが関係してるのだろうな。魔力みたいなものとかかな。モルフィーナについてそうそうチート発動してハーレム形成出来たりして。
「レアなレイよ。その魂の力を持っていれば大丈夫じゃ!!自分を信じてとっとと決めよ!!!さぁ!今すぐ決めよ!!!さぁ!!!!」
キーナルメナン様も大丈夫だと背中を押してくれた。これなら本当にこのまますぐに向かっても問題ないのだろう。
「分かりまし……ッ!?」
笑っている。俯き気味だったが確かに見てしまったぞ。
キーナルメナン様が僅かにだがニヤリとしていた!!
危ねぇ!!こいつ早くゲームやりてぇだけだ!!ヘタしたら何の根拠も無しに言ってる可能性さえあるぞ!
性悪幼女なのを忘れて危うくまた騙されるところだった!!!
おのれ悪魔め!!こうなったら、あんまり得意でも好きでも無いが駆け引きをして少しでも好待遇をゲットせねば。
ふぅ~。イライラして全て台無しにしてはマズいから今は心の中で深呼吸して落ち着こう。
「わ、分かりました。ですが自分に落ち度は無く、そしてやはり地球に未練がないと言えば嘘になります。そこで管理者様であらせられるキーナルメナン様に僅かばかりのお願いがあります!!」
「突然何だと言うのじゃ。まぁ気持ちは分からんでも無いが手短に頼むぞ?」
手短だと?くっ、抑えろ……我慢だ!!無になれ!!!無になるんだ俺の感情よ!!!無に無にムニムニ。
ムニムニで気付けたぜ……むしろこの自己中幼女が急いでるのはチャンスかもしれない。食い下がれば時間をかけたくないキーナルメナンは仕方なしに折れるだろう!!
「手短に……ですね?」
「いいから早う言え。急いでるのじゃ。」
「分かりました。率直に言います!!地球の小説では転生する際に特別な力を授かっている話が多数あります。出来たらモルフィーナという世界でうまくやっていける能力を俺に下さい!!!」
「ほほっ。………構わぬぞ。」
「キーナルメナン様。」
「分かっておる。だがこうもせなんだレイも納得いかんじゃろ。」
あれ?思ったよりも展開早いんですけど。まぁ、良いか。叶えてくれるのが狙いだから悪いことでは無いだろう。だがしっかり確認しておかなくては。
「ありがとうございます!!ところで、どんな能力を下さるんですか?」
「知らん。」
「は?」
「時の運じゃ。全ては時の運じゃ。だが、レイ本来の能力とは別の物を授ける事は約束するぞ?それでさえ法的な面で言えばギリギリアウトじゃが、余の初めての失敗じゃからどうとでもなるじゃろ。まぁそれが使える能力かどうかは運次第じゃがの。ふぉっ。」
時の運………やべぇ。これは予想外だぞ。運なんて聞かされたら突然不安になってきた。
めちゃくちゃ料理が上手くなる特技とかだったら、どうしたらいいんだ?食堂開くしか道が無くなるぞ!!地球とは全くの別世界にきて飲食業やるなんて夢がなさ過ぎるだろ!
「あ、あの!指定とかは出来ないんですか?!例えば身体能力がすばぬけてるとか、魔力が異常に高いみたいな!!」
「駄目じゃ。レイは本の読み過ぎじゃ。それは確実にアウトじゃからの。そんなことをすれば余が罰せられるだけでなく、レイも輪廻から外されるぞ?ついでにゲームも没シュートじゃ!!」
まじかよ。ここに来て予想に反した大博打ときたか。ちくしょう、やってやる………やってやるよ!!!
今まで貯め続けた幸運をここで解き放ってやらぁ!!!!
「分かりました!!全てを運にかけます!!!俺に能力をくださぁーい!!!!」
「ほほっ。よかろう……では授ける。リョカとやら、其方は何も聞かず見んかった事にしろ。良いな?」
「かしこまりました。」
リョカ姉さんは敢えて何も見ないように背を向けた。
「ではレイよ。近う寄れ。」
「は、はい。」
一体どんな能力を貰えるのか。ワクワク感と不安が鬩ぎ合っている。
「行くぞ?」
そういってキーナルメナン様は俺に顔を寄せた。そして深く、濃厚で、甘くて、痺れるようなディープキスをしてきた。
あぁ、キスって刺激的なものだったんだな………あれ?刺激的っていうか実際めっちゃ痺れてないこれ?ししししし、痺れ……アババババッ!!!!!
☆
「起きよ。起きるんじゃレイよ!」
「んっ……。」
なんかほっぺたに軽い痛みとお腹が苦しいと思ったら、俺魂の上に跨がってペシペシと頬を打つキーナルメナン様がいた。
魂なのに気絶してたんだな。なんでキスで痺れるんだよ。
「余は忙しいと言ったじゃろ。余はマンマルシリ・オン・シーワールド~海に悶えた魚屋の娘~を早うやりたいんじゃ!!!早う起きるんじゃレイよ!!!」
「うーん。とりあえず俺から降りてもらえます?あと平手打ちも起きたんで大丈夫っす。」
「うむ。」
キーナルメナンが俺魂から降りると、なんと俺魂の姿の変化や湧き上がる不思議な力をすぐに感じる事が…………無かった。
つーか、何も変わってないけど。
これってモルフィーナの世界に行ったら分かるのかな?
「レイよ。確かに能力は授けたぞ!」
「それはどんな能力なんですか!?」
「知らん!ランダムじゃ!イベントが始まってしまう…タイムオーバーじゃ!リョカとやらよ、後は頼んだぞ!!さらばじゃ!!レイよ、達者でな!!!」
「ちょっとまっーーー」
「お任せ下さいキーナルメナン様。」
キーナルメナンは逃げるように来たときの扉を潜り抜け消えていってしまった。ちくしょう、最後まで勝手な奴だな。
せめて能力だけでも知りたかったぞ。
「それではレイ様、私についてきて下さい。」
放心状態の俺を無視して、リョカ姉さんは歩き出した。
「リョカさん、あの……。」
「はい。何でしょうか?」
「自分の名前はレイじゃなくて想なんですけど。」
するとリョカ姉さんは無表情のまま歩み寄ってきた。な、何だろう。
「貴方はレイです。キーナルメナン様がそう名付けました。管理者様が名付けてくれるというのは異例の事です。キーナルメナン様に気に入って頂けたのですから、慎ましく受け入れて下さい。貴方は今後永遠にレイなのです。良いですね?」
「は……はいぃ。」
無表情なのに眼がキラリと光った気がした。なんかこえぇ……。はいって言わされてしまった。無表情なのがまた恐怖を増長しているぞ!これは想を名乗ったら次死んでここへ来るときに消されるかもしれない。
よし、これで今後はレイだな。俺は魂のレイだ。二つ名は魂の塊だ。ちくしょう。怠惰な管理者のせいで名前まで変えられてしまった。
「ではレイ様。今度こそ指摘される事無く私についてきて下さい。」
「はい。レイ、行きまぁーす。」
☆
しばらくリョカ姉さんの後について行くと、リョカ姉さんが突然アバしてきてワープした。どうやらさっきの白い空間はキーナルメナンの空間らしく、ゲームの邪魔になるからと距離を取ってからアバババさせてワープしたらしい。よく分からない理由だ。
ワープした先は至る所に扉が散りばめられている場所だった。空中に浮いていたり、床に立っていたり、地面に埋まっていたりとかなり不思議な光景だった。
そしてそれぞれの扉の前には魂達が並んでいた。扉が開く度に中へと入っていってる。
あっ!あれ金子さんじゃね?!違うかな。何となく金子さんな気がする。次の人生頑張ってくれ、応援してるぞ金子さん!!話したこと無いけど。
扉を通り過ぎること数百。リョカ姉さんはとうとう一つの扉の前に立ち止まった。
「レイ様。この扉がモルフィーナの入り口です。」
そういってリョカ姉さんが扉を開くと、扉の向こう側は今にも吸い込まれてしまいそうな漆黒の闇があった。
いや、やっぱり訂正します。なんか漆黒は漆黒なんだけど、時空の歪みというか、ブラックホールみたいなうねりと言うか、よく分からないけど触れば間違いなく吸い込むよ?って言われているようなそんな闇です。
「な、なんか怖いですね。」
「輪廻の扉の前でそんなことを口にしたのはレイ様が初めてです。まぁ、普通なら喋れる訳が無いので当たり前ですが。では、準備は宜しいですか?」
宜しくない。宜しい訳が無い。まだまだ心の準備が出来ていないのだ。
はぁ。モルフィーナってどんな所なんだろう。どこぞのモヒカンがヒャッハー!!とか言いながら車を乗り回してるような荒廃した世界じゃ無いと良いな。さすがに俺は救世主になれる程の魂では無いだろう。
それに転生もランダムなんだろうし……コウノトリさんは俺を誰の元へ運んでいくのだろうか。
村人Aの子だと生活が苦しそうだし、王様の子供だと重すぎるし。
辺境の貴族の子か、上位の騎士階級の子なんかも良さそうだな。騎士団所属の父親に小さい頃から剣を教わって、いつか親父を越えてみせる!!なんて熱いのもいいかも。
「レイ様?」
長い沈黙に心配してくれたようで、リョカ姉さんは顔を覗き込んでいた。うぅ、無表情だけどなんかやたらに美しく見える。俺が魂じゃなかったら連絡先を交換したいくらいだ。追い込まれてるからかな。一人吊り橋効果かな。
「レイ様。私は転生後のレイ様がいつも平穏であることを願っております。きっと全てが上手くいきます。安心して下さい。」
ビビってる俺を励ましてくれようとしているのか、リョカ姉さんは暖かく優しい声色で声をかけてくれた。
そして白くか細い腕で俺の背中に手を回して抱き締めーーーー
トンッ。
「では。」
「え?」
意気消沈していた俺を安心させるべく抱きしめてくれるのかと思いきやリョカ姉さんの手は、俺を扉の向こうの不安と立ち向かわせる為の強引なツッパリだった。
お、思いやりだと想うことにしよう。
「いきなり押さないでえぇぇぇーーーッ!!!!!!!!」
そうして情けない叫び声を上げながらモルフィーナへと俺は旅立っていったのだった。
……恥ずかしいからリョカ姉さんに聞こえてない事を祈ろう。
待ってろよ、新世界!!!!!
ようやくレイくんは異世界へと転生しました。一体どんな世界が待ち受けているのか楽しみですね。
でもキーナルメナンのゲームの方が気になるのは私だけ……?