黄根 第十話 ピピンパパールナの憂鬱
ープップはああ見えて聡明な子。
何も考えていないようで深く思慮しているようなところがある。適当なようでいて鋭く観察してから発言していたりする。
だからこそプップの度重なる暴走にも向き合ってきた。天真爛漫でも、信じる気持ちがあるから。
妖精族は皆家族だ。だけどプップはそれよりも深いものを感じている。
私達2人は生まれた時から一緒だから、当たり前のことなのかもしれない。
プップは時たま森へ行きたいと言いだす。森には国には無い花や果物があり、新たな献立を増やすためだと説得しようとしてくる。だがそれだけがプップの本心では無いのだと私は知ってる。
プップは好奇心の塊だ。可愛らしい物が好きなわりに、刺激を求める悪いクセがある。
だから止めても止めても森へ行きたいと言い続ける。戦闘に関しては私の方が得意としているから、結局仕方なくだけれどついて行くかたちになる。
ある日の朝、私達と母様の3人で話をしていると最近森が騒がしいと言っていた。粗方人間が愚かにも領地を広げようと森へ攻め込んできたのだろうと思う。
迷惑な話ね。
何が迷惑かと言うと、主に外出時。妖精の国へ戻る際にはどこからでもいいのだけれど、外へ出るのにはある程度範囲が決まっているから。変に人間に領地を広げられてしまっては、プップの冒険が難易度の高いものとなってしまう。それでも私はプップを止める自信はないから、少しでも危険を減らすために付き添う。
そしてもう一つ、もし大森林全ての木々を狩られてしまったらこの国自体が消えてしまう。それは妖精の国の根底が大森林にあるから。母様が支えてくれて存在する国だけれど、支えてくれる力の源は木々から吸い上げる僅かな魔素。木々が枯れる事の無いように僅かな量。けれど大森林には数えきれぬ程の木が生えているので問題はない。
でも大森林を掌握する事など人間には不可能。何故なら大森林は魔物の巣窟でもあるから。
奥へ進めば進むほどに魔物は強く、凶暴になる。
だから知恵の高い人間とて殆ど森へは来ない。人間の力でどうこうできるものでは無いと当人達も知っているのだろう。
それでも人間が来たということは何かしらの理由があり、私達にとっては良くない事なのは明確だった。
母様から森の騒々しさを聞いて、私は嫌な予感がしてならなかった。それが一体何なのかはすぐに判明する。
プップは森へ行くと言い出した。母様の話を共に聞いていた筈なのに何故そう決意したのか理解出来ず、私はそれを止めた。
だがプップは聞かなかった。一人でもいくよ~と私を脅迫した。
きつく言ったところで大人しく言うことを聞く事は無いと思い、その代わりにはならないが私は溜め息を一つ溢した。
森へ出てすぐに周囲の安全を確認する。そんな私の様子を知ってか知らずかプップは喜色満面に飛び出していく。私も慌ててすぐ後ろを飛んでいく。
可愛らしい花を見付けては話し掛け、顔よりも大きな果物に齧り付き、私にも早く食べてと催促する。
自由気ままな冒険に付き合わされ、私は気疲れしてしまっていた。きっとプップはそんな私に気付いているのだろうけど、探究心が止まらないのだと思う。
今日もきっと晩御飯が豪勢になり、食べながら謝罪するのだ。だがニコニコとしながら出来事を振り返るプップを見て、私も全てを許してしまうのだろう。もしかしたら、全て私が悪いのかもしれない。
朝日が差し込む森の中、そろそろ帰ろうとプップに伝えるとあと少しだけと言った。
私はこの場所で早朝なら殆ど危険は無いと判断した。森と草原の境界付近だから人間なら薬草を取りに来る可能性はあるが、それもこんな朝早くから来ることは無いだろうと最後の我が儘に付き合うことにしたのだ。
すると突如声が耳を活動させる。
「やべー、喉というか全身渇いた-。死ぬー。」
その声はすぐ傍に生えている草からだった。そこには草が群生していたが、明らかに種類の違う草であり、微精霊の瞬きが無い怪しさから声の主はこいつだとすぐに判別出来た。
怪しい草だとは思ったが、萎れていて魔力の動きも感じないかったので、近づいていくプップを止めはしなかった。それでも風の斧の準備は仕上がっていたのだけれど。
「ピピン、可愛いの見付けたの~。」
「プップ、変なの見付けた。」
私達が話し掛けると、ビクッとしたかのように葉が揺れる。やはりこれはただの葉っぱではないと確信した。言葉を理解する葉など聞いたことが無い。
すると葉っぱは話し掛けてきた。
「………知り合いにティンカー・ベルっています?」
籠もるような声色でその葉は質問をした。ティンカー・ベル……妖精族の知り合いでもいるのかと思ったけど、聞いたことが無い名だった。
「ピピン、可愛いのが面白い事いってるよ~?」
プップはとても嬉しそうに笑う。私は平静を装って返事をしたけれど、本当はかなり動揺していた。
他種族の言葉が喋れる魔物は総じて計り知れない力を持っている。それが萎れた葉っぱなのだから余計にだった。
何があってもおかしくないと思った。だから暫く会話した後、隙を見てプップの手を取り無理矢理妖精の国へと戻った。
プップは酷く悲しげな顔をしていたが、念のためにしたことだから理解して欲しい。
翌朝、プップと母様のところへ行った。するとプップはもう一度喋る草のところへ行くと言った。
私はそれを激しく否定した。だが否定すればするほどにプップは思いを激しく燃え上がらせた。これほどの頻度で外に出たことなど一度もなかった。
「プップ、冷静になって。外には危険が潜んでる。喋る草なんて明らかに怪しい。それにあんなのといたら臭くなる。」
「あの子は可愛いよ~?それにピピンだって昨日の夜、気になるって顔をしてたよ~?」
「それはプップの暴走が気になっていただけ。」
「暴走なんかしないのに~。あくまでもわたしは冷静だよ~!あの子は悪い子じゃないのは間違いさ~!」
「その根拠は?」
「根拠~?もちろん勘だよ~?ピピンは考え過ぎなんだよ~。」
プップはゆったりと自信満々にそう口にした。
……どうして分かってもらえないのだろう。唯々プップを守るために尽力しているだけなのに。これではまるで私が分からず屋のような立ち位置にいるではないか。
苛立ちを抑えて再度プップを引き止めようとすると母様が話し出した。
「プップちゃん、その子は悪い子に感じないのですね?」
「もちろんだよ~!」
優しく問い掛ける母様にプップは胸を張って答えた。
「ならばいってらっしゃい。ピピンちゃん、プップちゃんを信じてあげられますね?」
私は母様の問い掛けに私は返事をする事が出来なかった。
そしてその日、初めて外へ行くプップへついて行く事をやめた。
何度も心配にはなったけど、プップは当たり前のような顔をして帰ってきた。あまりにも楽しそうに出来事を話すものだから、私の考え方が間違っているのだろうかと不安になった。
そして翌朝、プップはまた外へ行くと言い出した。
私はそれを本気で止めた。嫌われてもいいから行かせないと思った。
昨晩プップが話してくれた出来事の中に、人間が現れたから渋々帰ってきたと聞いたから。
だから少しきつい言葉も放ってしまった。
プップは感情の機微に敏感なところもある。だからいつもとは違う私の心情に気付いて行くのを止めてくれた。譲れない気持ちはあるようだが、今回は私の気持ちを汲んでくれたようだ。これではどっちが我が儘言っているのか分からなくなる。
それからというもの、プップは外へ出ると言わなくなった。いつも通り話し掛けてくれて、美味しいご飯を用意してくれた。
まるで何も無かったかのように。
プップが最後に外へ行ってから10日目の夜、私はプップに気づかれないように母様の元へ向かった。
「……母様。」
「ピピンちゃん、そんなに悲しい顔をしてどうしたのかしら?大丈夫?」
「違う、悲しいのはプップ。無理をしてるのはプップ。でもどうしたらいいのか分からないの。私は間違っているの?」
「そうですか。……ピピンちゃん、誰も間違ってなんていません。ただたまたま目的が違っているだけです。それでも互いに思い合っているのは分かります。だからプップちゃんも外へ出るのを止めたのです。」
「互いに……。でも私は……最後に外へ行った日プップに一人で行かせた。私はプップを諦めた。だからーーー」
「ならばこれからプップちゃんの気持ちも尊重すればいいだけです。仲の良いあなた達2人のことで思い悩む必要はありません。大切なものを大切にするだけです。無論、ピピンちゃん自身の事も大切にしなければいけませんよ?」
「大切……やれるかな。」
「無理する事はありません。焦ることも。ピピンちゃんの優しさはプップちゃんも知っています。」
「……はい。」
そうして思い悩むうちに夜は更けていった。
「ピピン、私今すぐ行かなくちゃいけないや!ごめんね~?」
食事の途中で突然プップが立ち上がった。今すぐという言葉に戸惑ったけど、私は既に夜の内に覚悟を決めていた。
「いってらっしゃい。気をつけて。」
「うん!いつもいつもいつもいつも優しいピピンのことが大好きだよ~!すぐに戻るからね~!」
そういってプップはニコニコしながら走り去った。だがその表情は最近見ていた笑顔とは違う気がした。
「プップ……。」
私は唯々プップの身の安全を願って待った。朝食を取りながら。
暇だし落ち着かないから花畑に向かい花を愛でていると、プップが戻ってきたのを感じた。あまりに早い帰りに何かあったのかと急いで花畑から妖精の国の入口まで向かった。
すると目に映ったのは黄色い人参だった。それが草だったレイなのはすぐに気付いた。
それからというもの、プップにはレイを押し付けられるしレイには卑猥な目で見られるしで散々だった。他にも思い出すのが躊躇われるような事もあった……。それからプップがニタニタとしてるのが無性にかんに障るが騒ぎたてれば余計恥ずかしい思いをしそうだから無視しよう。
母様からの頼みでもあり仕方なく共に過ごしてはいたけど、少しずつレイのことが分かっていくうちに徐々にレイへの気持ちが丸くなっていく。
不思議なベジタブル。
これからレイはどうするのか。妖精の国にはいつまでもいないだろうから、プップがついて行くとか言い出さない事を願うばかり。
とりあえずレイが死んだらプップが悲しむから、仕方なく仕方なく仕方なくベジタブルに今日も魔法を教えることにする。




