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黄根 第九話 滾るが叶わぬ現実とほんわかした日常



 思わぬハプニングはあったが、俺達は移動を再開した。しかし俺はピピンさんを強烈に意識してしまっているせいで少し集中出来ずにいた。


「ピピンさん、怪我はないですか?」


「……。」


 気まずい空気を払拭すべく勇気を出して話し掛けてみたのだが、ピピンさんは返事をしなかった。ただの屍では無いのだけれど、結果は同じものとなった。


「ピピン~?レイくんが心配してるよ~?」


「……何も問題ないわ。」


 ピピンさんは俺の言葉には何の反応も示さなかったが、プップさんの言葉にはしっかりと返事をした。

 それを見たプップさんは更に悪そうにニヤリとする。


 やめて!もう放っといてあげて!


 俺は心の中で叫んだのだが、すぐに気付いた事があった。


 そういえば俺は現在人参の魔物なのだ。まともな姿をした生き物ならまだしも短足の人参なのだ。もしかしてそんな野菜みたいな生き物と事故とはいえキスをしたとあっては、プライドが傷付いたのでは無いか?


 しかしそんなことを本人に聞くわけにはいかないので、何事も無かったように平静を装いポテポテと歩みを進めた。


 しばらく歩き続けていると、ピピンさんが手を横に翳し制止してきた。


「レイ、魔物の気配。逃げる?戦う?」


「魔物の種類にもよるけど、勝てそうなら戦うよ!2人は隠れてて。」


「レイくんふぁいと~!!」


 木を背にして前方から来る魔物を窺う。すると繁みから周囲を警戒しながら角ウサギが出て来た。


 角ウサギはクンクンと匂いを辿っているように鼻を動かして進んでいる。餌でも探しているのだろう。

 すぐに魔法の準備をして角ウサギの横腹に照準を合わせて隙を窺う。距離があるし外しても対処できるように風の矢だ。


 しかし角ウサギはピクッと耳を立てると突然こちらへ顔を向けた。


 やばい、目が合った。


 だがゴブリン時代に角ウサギの性質は熟知した。臆病ですぐに逃走するだろうから、逃げ出してもその背中を狙い撃ちしてやる。

 その予定で木から飛び出して風の矢を放つべく構えると、角ウサギはもの凄い勢いで真っ直ぐ俺に向かってきた。


「な、なんで?!」


 予想外の出来事に慌てふためく。しかもゴブリンの時と違って今は角ウサギの方が圧倒的にデカい。あの太い角で突かれたら一発で片道切符キーナルメナン行きだ。

 テンパりながらも風の矢は既に発動させていたので、そのまま角ウサギを狙って打ったのだが、矢は不運にも角に当たり逸れてしまって後ろの木に当たった。


「クソ!」


 全てが想定外となり次の手に悩んだ俺の手が止まる。だが角ウサギは待ってくれるわけも無く、頭を下げて角を俺に向けて走り続ける。


「風の鎚。」


「キュリッ!?」


 突如角ウサギの横っ面を不可視の鈍器が撃ち抜くと、鈍い音と角ウサギの鳴き声が響いた。しかし角ウサギはよろめくだけで、倒れることは無かった。


 だが目は回している。


「レイ!」


「うん!風の斧!!」


 何百回と練習し続け、1番最初に使えるようになった風の斧を発動させた。

 不可視の斧は空気を切り裂きながら角ウサギの首筋へ落ちていく。そしてそのままフラフラしている角ウサギの首へめり込んでいき、三分の二程切り裂いた所で消えていった。


 血を噴き出しながら今度こそ角ウサギは動きを止め、やがて絶命した。


「ふぅ、焦ったー。まじやべかったー。」


「レイくん頑張ったね~!やべかったね~!」


「ありがとうプップさん!でも殆どピピンさんのおかげなんだけどね。俺だけなら串刺しだっただろうから。ありがとうピピンさん!ほんとに助かったよ!」


 しかしピピンさんは他人事のように「良かったわね」とだけ言ってぷいっとそっぽを向いてしまった。

 やはり中々頑固なツンデレラだ。


「それにしても角ウサギの凶暴なところなんて初めて見たよ。」


「わたしも~!草食だし臆病なのにね~!レイくん何か恨まれる様なことでもした~?」


「いや、今の角ウサギは初対面だけど。」


「プップ、魔物に罪は無い。好物に興奮するのは当然。」


 ウサギに人参とは定番だな。というか俺は魔物の筈なのに何故草食の魔物に狙われるんだ?形が人参だとウサギって肉食になるの?


 ……いや、気にするのは止めよう。狩る側から狩られる側に生まれ変わってしまったというだけの事だ。人参を認めることで精神の安定を図ろう。


「プップ、そろそろ戻るわよ。」


「えぇ~、やだやだぁ~!まだこれからなのに~!ね~?レイく~ん!」


 ピピンさんに帰ろうと言われたプップさんは帰りたくないと駄々をこねた。めちゃくちゃはしゃいでて楽しそうだったもんなぁ。


 俺も早くバロン達に会いに行きたい。


 でも角ウサギすら一人で狩れなかった。そんな状態で強行していいのだろうか。


 もしかしたらそれが最短でバロン達に会える手段かもしれない。だがもし途中で死ぬような事があれば更に遅くなる可能性が高い。

 また中々動けない状態で転生するかもしれないし、遠い場所で転生するかもしれない。


 このまま強行するのは賭けになるな。


 そして何より俺が気になるのは、プップさんとピピンさんだ。


ーー自分を知らずして仲良くなり過ぎじゃの。それはリスクとなるのが分からぬかの?ーー


 キーナルメナンに言われた言葉が脳内を駆け巡る。


 プップさんとピピンさんは人参に生まれてからの命の恩人だ。それに孤独で精神的にキツかったのも救われた。

 そして俺はまた心を許し仲良くなりすぎた。少なくともプップさんとピピンさんを失いたくないくらいには。


 散々助けて貰って大森林にまで付き添って貰い、またしても命を救われた。


 だがあの時、2人に隠れててと自信満々に言ってのけた。実際風魔法も使えるようになり、魔物とも渡り合える自信があった。


 だが結果は散々だった。


 もしあれが角ウサギではなかったらどうなったのだろうか。もっと危険な魔物が現れていたら。


 あまりにも危険な魔物なら俺は挑まないだろう。でも、角ウサギの突進ですら恐怖を感じた俺では、竦んでしまって動けなくなる可能性だってある。


 見捨ててくれるならそれでいい。それがいい。


 でもきっとピピンさんもプップさんも、どうにかしようとしてくれる気がする。2人は妖精の鍵があるから心配ないのだが、俺が居たら逃げないかもしれない。短い期間ではあるが2人を知ったから、確信めいたものさえある。


 俺のせいで危険な目に合わせる可能性が高い。


 俺に良くしてくれた人を失いたくない。


 バロン達には悪いけど、俺はこの2人も好きなんだ。守れる力なくして、強行など出来るわけがない。


「プップさん、今日は戻ろう?」


「むむぅ、折角しあわせタイムだったのにぃ。………でもレイくんが言うなら仕方ないさ~!ピピン、帰ろう!」


「プップさん、ほんとごめんね。」


「いいのだよ~!気にすることないさ~!なんたって主役はレイくんなんだからね~!じゃあ手を繋いで~!」


 プップさんは持ち前の寛容さで俺の我が儘を許してくれ、俺達は手を繋ぎ妖精の国へと戻っていった。





「じゃあ早速ですがお昼ご飯に取り掛かりま~す!拍手~!」


「お願いしまーす!ぱちぱちー!!!」


 妖精の国へと戻ると気が抜けたからか、お腹がペコペコになっていることに気付いた。

 人参なのに何故かぐぅーっと腹の虫が騒いでしまい、それを聞いたプップさんが腕を巻くって応えてくれた。


「極みお料理番長にお任せあれ~!今からだと少し時間かかるけど、2人はどうする~?」


「レイ、魔法の練習。」


 俺が答えるよりも先にピピンさんが答えた。そして何故かプップさんの目がキラリと光った気がする。


「はい!頑張ってくるから、プップさん宜しくね!」


「は~い!ごゆっくり頑張ってらっしゃ~い!」


「……。」


 プップさんの瞳の輝きが気になったが、今の俺は熱く(たぎ)っている。ピピンさんの言葉が嬉しくて、早く魔法の練習に勤しみたかったのでスルーしてしまった。





「違う。それじゃ動く魔物には当たらない。もっと近く。早く。」


「はい!」


 ピピンさんといつもの花畑へきた俺は、お昼ご飯が出来るまでという少ない時間を濃密なものにしようと全力で魔法を発動させる。


 風の斧で丸太を割るのは容易くなっているのだが、それはあくまでも動かない的だったからだ。


「もう一度。」


「はい!」


 ピピンさんが木の枝を風に乗せて不規則に動かし、それを俺は風の斧や矢で狙い撃つ。

 だが逃げまどうように動く枝を捉えるのは至難の業だった。


「もう一度。」


「はい!」


 繰り返して行った結果、俺は矢の方が成功率が高かった。斧はどうしてもテンポが遅れるような感覚がして、予測というか半ば当てずっぽうに振り下ろして擦らせるのが関の山だった。


「斧が重いわ。」


 その言葉に違和感を感じる。そもそも斧ってそこまで早いもんじゃない気がするんだが。振り下ろせば早いのだろうが、振り上げる動作もあるのだし。

 だがピピンさんは俺の感覚を読んでいるように否定する。


「斧とは言っても風。人間が使う斧と風の斧はまるで別物。」


「でも、どうしても鉄の斧を意識しちゃうんだよなぁ。」


 魔法の威力をあげようと斧を意識し過ぎるとスピードに難有りになるし、素材が風をイメージするとプップさんみたいなゆるふわ系の斧になってしまう。

 魔法は発動出来るようにはなったけど、戦闘に使えるようにするにはまだまだ修業が足りていない。そもそも地球には魔法など存在していないのだから、鉄の斧しかイメージ出来ないのだ。


「風の斧は自主練。次はもう一度矢。今度は丸太を出来るだけ放れたところから狙って。」


「はい、ピピン先生!」


 ピピンさんが用意してくれた丸太は50メートル程離れたところに複数並んでいた。


「ここから当てられたら更に下がって。限界まで下がったら下がって。」


 なんだそりゃ。下がり続けて地平線の向こう側になるぞ。


 これまで風の矢の訓練は10メートル程度が最長だった。それくらいの距離ならばほぼほぼ丸太に着弾出来ていたので、いきなりの5倍の距離には驚いたが、風の矢に関してなら少し自信はあった。


 言われた通り、まずはこの場から丸太を狙い撃つ。弓を引くように手元で魔力を集束させて解放する。

 矢が1本なら目標物に集中するのも容易くなってきている。


「もう一度。」


 自信を持って放った風の矢だったが、丸太に当たる前に霞の如く消えてしまった。狙いは良くあのまま突き進んでくれていれば射ることが出来たはずだったのに。


「もう一度。」


 今度こそと集中して放ったのだが、結局2回目も結果は変わらなかった。


「魔力が途中でばらけてる。もっと圧縮しないとだめ…もう一度。」


「はい!ピピン師匠!」


「………ふざけているの?」


「いいえ!ふざけてなどいません師匠!」


 まぁふざけていると取られてもおかしくないけど、実際はテンションが高くなっているだけだ。大森林での胸熱な冒険と、やる気満々で意気込んでやる魔法の練習……それにピピンさんまで付き合ってくれている喜び。そりゃテンションだっておかしくなるさ。


 だがそれでも魔法を使うときはそれだけに意識を向ける。魔力を圧縮するように溜めてから解放を繰り返す。


 しかし丸太に届くことは1度も無かった。


「これも課題。」


「了解です!ピピンパイセン!!」


「……………風の鎚。」


 今のはマズかったか。無意識だが完全に調子に乗ってしまった。パイセンとかピピンさんには意味が分からないだろうし、パイとかついてるから嫌らしい内容だと思われる可能性もある。


「ま、待った!ピピンさん冗談だから!」


 俺の言葉にピピンさんがイラッときたようで風の鎚を放ってきた。すんでのところでそれを躱し、ピピンさんが追い打ちをかけてきたところで、プップさんの声が聞こえてきた。


「お疲れサマンサモスモ~ス!」


「……プップ、もうお昼ご飯?」


「うん!あとは煮込み終わるまで少し待つだけだから、2人は手を洗ってから家に来てね~!今日はレイくんの外出祝いで少し豪華にしたんよ~!」


「ありがとうプップさん!」


「レイ、命拾いしたわね。」


 素直な気持ちからプップさんにお礼を伝えると、キュピーンッとプップさんの瞳が輝いた。最近よく輝くな。


「それにしても、ピピンとレイくんは練習中に追いかけっこするような仲になったんだね~!あたしゃピピンの楽しそうな顔が見れて嬉しいよぉ~!」


「プップ、目が潰れたの?」


「あはは~!そうかもね~!じゃあ2人ともそろそろお昼ご飯完成だから準備してきてねぇ~!」


 手を振り去っていくプップさんは何故か満足気な顔をしていた。




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