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魂 第六話 湿っぽい花柄のハンカチ



「げほっぶふぉ!!!」


 キーナルメナンの演出の準備が整ったと判断した俺は相づちを返した。


 しかしキーナルメナンは手に持った紅茶をグイッと飲み干し……激しく()せたのだ。


「キーナルメナン様、大丈夫ですか?」


 リョカ姉さんは持ち前の素早さを活かしてハンカチでキーナルメナンの口を拭った。


 見たことのある可愛い花柄のハンカチで。既に湿っているであろう花柄のハンカチで。


 ……ご覧頂けただろうか。


 よし、これも忘れよう。


「ぷ、ぷふぉ。すまぬの。気…管に紅茶…けほっ。が入ってしまったのじゃ。」


 そうでしょうね。つーか、無駄な演出してっからだよ。頼むから会話に集中してくれよ。演出に付き合ってあげてるとこっちが集中出来なくなるわ。


「はぁ。では咳が落ち着いたら説明をお願いします。」


「も、もう平気……けほっ。じゃ。」


 けほっじゃ、って何だよ。新たなフォッカッチャか?

 全然平気じゃねーだろ。涙目だし、リョカ姉さんにふきふきさすさすされてるし。子供か!?……子供か。


「で、何じゃったかの。」


「……無限転生の無限にも条件があるとか、そんなことを言ってましたけど。」


 俺は大人だ。立派な日本人だな。


「そうじゃそうじゃ。……条件があるのじゃ。」


 面倒くせぇ。いきなり芝居調に切り替えるんじゃねぇよ。悲しい性が働くだろうが。いらねーだろその間。付き合えばいいんだろ付き合えば。


「じょ、条件ですか?(棒読み)」


「そうじゃ。まず一つはレイが次の転生を望むことじゃの。もうきれいさっぱり全て忘れて、新たな人生を歩みたいというのならその手をもぎ取り顔を電動カンナで削り落とし、まん丸な魂にして地球にでも赤子から戻してやろう。」


 ……ほんとにもぐの?冗談じゃなかったの?つーかなんで電動なの?幼女だから非力なの?


「なるほど。確かにいつまでも記憶があったらいずれ疲れてしまいそうですもんね。それは助かります。」


「レイは雑魚だからの。余の懐が広く深くふっかふかでホッカホカでよかったの。」


 くっ。いちいちうざったい奴だな。一言多いんだよ。


「そして二つ目。余を失望させぬ事じゃの。」


 突然キーナルメナンはまじめな顔をして俺を真っ直ぐ見つめた。それは今までの芝居がかったものとは違い、幼女の見た目に反して迫力さえあった。


「余は品格を重んじておる。だが、つまらぬものに興味はないのじゃ。それがゲームだろうが甘味だろうが余が求めておらぬ物はいらぬ。魂にしても然りじゃ。」


 管理者というのはどんな立場で、どんな権限を持っているのだろうか。きっと俺の知らないキーナルメナンがいるのだろう。そう思わせる程に、普段見せていた軽さが消えていた。


 駄幼女がかなり自分勝手な事を言っているのは分かっていた。だが目の奥に潜む芯のような何かが確かに見えて、恐ろしささえ感じた。


「善行にのみ生きろとは言わぬ。悪の品格でも品格は品格じゃからの。どんな生き方をするにしても懸命に生き、レイらしく足掻いてみせることじゃ。さすればそのレアな魂に力を与え続けてやるのじゃ。くだらない生でも諦めず、更に格の高い魂となり生き様を余に見せるのじゃ。満足すれば褒美くらいくれてやるからの。」


 言いたい放題言ったキーナルメナンは最後だけ柔らかく笑って見せた。


 要するに楽しませろって事だろ。やってやろうじゃねーの。他人に人生を評価されてるようで気味悪いけど、キーナルメナンの一人くらいなら存分に楽しませてやるよ!盗撮ばっちこいや!!


「分かりました。折角の力……存分に使いこなしてみせます。」


「ぷふぉ。良き面構えじゃ。キモいがの。」


 くっ。こいつはほんとに性悪だな。


「あと……少し質問いいですか?」


「……手短にの。」


 でたー!!キーナルメナンによるゲームのイベント待ってるから手短にの挑発!!まぁ今回は手短にでも聞いて貰えてラッキーだとしよう。俺は大人じゃからの。ぷふぉー。


「何で赤ん坊からの転生じゃ無かったんですか?あと今後もですか?」


「まぁランダムではあるがの、赤子からというのはレイだとヤバいじゃろ。」


「ヤバいって……危険なんですか?」


「危険じゃ。レイが乳飲み子になったら、間違いなく乳を吸ってる顔がキモいじゃろ。邪悪そのものじゃの。消え去ってしまえと思ってしまうからの。まぁオーク辺りに転生してレイ豚が親豚の乳を吸ってるのは面白いかも知れんがの。いや、やはり見るに堪えんの。」


 なるほどね。私情からでしたか。なるほどなるほど。


「ではタイムオーバーじゃ。後はリョカに任せるの。」


「お任せ下さい。」


「ちょっと待ったぁ!もう一つだけいいですか?」


「何じゃ!!もう緊急クエストが始まってるかも知れぬと言うのに!!」


「その……俺が世話になったゴブリンが無事か心配で。良かったら教えて欲しいんですけど。」


「つまらぬ。そんなことは自分の目で確かめて見るが良いのじゃ。……だがその姿勢は嫌いではないの。少しだけ教えてやろう。」


「お願いします!!!」


「ぷふぉ。レイを殺した人間共はすぐに森から立ち去った。墓を掘り返し少女の死体とレイの死体を持っての。欲に溺れた人間は果てなく醜いものじゃ。」


 すぐに森から立ち去ったと聞いた俺は安堵してしまって力が抜け、ぽてっと地面に墜落してしまった。これでバロン達がまだ無事な可能性が生まれた。後は余計な動きに出なければいいのだが、二人の事だから可能性として無くは無い。でもまだニコは傷も癒えていないだろうから、バロンもすぐには動かないかもしれない。どちらにせよ、これは早く転生して止めに行かなくてはまずいかもな。


「じゃがゴブリン共が報復に出る可能性は否定出来ぬの。レイは

自分を知らずして仲良くなり過ぎじゃの。それはリスクとなるのが分からぬかの?」


 やっぱりか。キーナルメナンも同じ見解であり、指摘事項に関しては、ぐうの音も出なかった。


「因みにここにいても時は過ぎるのじゃ。ゴブリン共に心を許したので有らば、とっとと転生した方が良いのではないかの?の?すぐにでもの?」


 くっ。ゲームが気になってやっつけ仕事してるのが分かるが的は得ている。ところでブルーマリン装備は手に入れられたのか?


「そうですね、分かりました。すぐにでも転生します。」


 馬鹿め。おやつの事を忘れているな!!後で嘆き悲しむがいい!!!全ては俺を(ないがし)ろにしてきた天罰じゃ!!!!


「ところでレイよ。余は時間が惜しいのじゃ。今すぐにでもログインとやらを済まして、緊急クエストの噂の真偽を確かめなければならん。マンマルシリ・オン・シーワールド~海に悶えた魚屋の娘~は予想の斜め上のタイミングでイベントを放り込んでくるからの!しかし出所が最強と名高いキング・玉座マンからであるから信憑性が高いのじゃ!ブルーマリンを逃した今となってはイベントでレベルの底上げするしかないのじゃ!!」


 どうでもいいし、色々と長いわ!!しかも結局ブルーマリン装備逃してたのかよ!!俺を適当にあしらってきた過去を反省しやがれ!!


「ゲーム頑張って下さいね。じゃあリョカさん、モルフィーナの輪廻の扉へお願いします。」


「待つのじゃ。」


「はい。ではキーナルメナン様、失礼致します。レイ様、準備は宜しいですか?」


「待てと言うに。」


「いつでもアバッて下さい!」


「だから待てと言ってるじゃろー!!!」


 ちっ。とぼけようとしたが駄目だったか。僅かばかりの反抗もこれまでだな。


「何ですか?忙しいんですよね?」


 仕方なく振り返り嫌味を言うと、キーナルメナンは腰に手を当て怒り顔で睨み付けていた。少し涙目になりながら。


「レイよ!約束したのじゃ!甘味を教える代わりに余も情報を渡したのじゃ!!忘れたとは言わせぬのじゃ!!」


「あー、忘れてました。すみません。」


「むぐぐぅ!!レイは若年性のアレなのじゃの!!レイはアレじゃ!!若いのに爺じゃ!!」


「キーナルメナン様、落ち着いて下さい。」


 リョカはキーナルメナンの傍まで歩いて行き、突然駄幼女の頭をなでなでし始めた。


 これは面白い光景だが、リョカ姉さん良いのか?今や直属の上司みたいなもんなんじゃないのか?

 

 火に油を注ぐようにキーナルメナンの怒りは大爆発を起こすのではないかと心配になりながら見ていると、何やら気持ちよさそうな顔をして静かになっていた。何だこれ。もう何でも良いか。


「キーナルメナン様はどのような甘味が食べたいのですか?」


「チョコは食べたからの。今度は違うのが食べてみたいの。因みに名だけ分かれば取り寄せる事が出来るからの、決して名を間違えるでないぞ。」


 ぶっちゃけめんどくさい。どんなもんが好みかも分からないってのは厄介だな。


「んー、じゃあとにかく甘いのが良いとか、スッキリした甘さがいいとか、甘酸っぱいのがいいとかあります?もしくは素材で気になるものがあれば言って貰えると助かりますね。」


「そうですね。キーナルメナン様は前にチヨコドーナッツというものを食して感動なされたそうです。同じ物では困るようなので似たようなものをお願いします。」


 え?なんでリョカ姉さんが答えてんの?もう完全に立場が逆転したの?だからチヨコって誰?チョコパフェ食べたんだからもう分かるでしょ。


「……まぁリョカが望む物でも良いぞ。余は大人じゃからの。ぷふぉ。」


「分かりました。んー、どうしよう。そうですねぇ……。」


 ドーナツに近い物ってなに?サーターアンダギーは近すぎるよな。


「じゃあ、キーナルメナン様の言う甘味品と相違しているかは分かりませんが、クイニーアマンというのをおすすめします。」


「クイニーアマン。アマンか……甘そうじゃの。」


「パンの部類のような気もしますけど、一応洋菓子と言うものに入ると思います。甘いには甘いのですが、塩バターが使われるので塩っ気もあると思います。外はパリパリ中ふわふわな感じだった気がします。あとは取り寄せる物がどこのクイニーアマンかにもよるとは思いますけど。」


「キーナルメナン様、クイニーアマン。いきましょう。」


「分かった。分かったから睨むのは止めるのじゃ。」


 リョカ姉さん。お菓子の事になると人が変わりすぎだろ。しかも最近キーナルメナンへの対応が初対面の時と全く違うし。お菓子がリョカ姉さんの心を溶かして、仲良くなれたのかな?きっとそうだ。そうなんだ。


「レイよ。ではそれで行く事にする。次の転生も頑張ってくるのじゃ。ではの。リョカよ、後は頼んだの。」


 次の甘味品が決まり、キーナルメナンは出て来た扉へと歩み始める。するとリョカ姉さんが疾風移動術(勝手に名づけた)を発動させ、キーナルメナンの小さな手を掴んだ。


「キーナルメナン様、クイニーアマンの取り寄せを忘れておりませんか?急がねばイベントとやらに遅れてしまいますよ?」


「そうじゃ。であるからこうして急いで…………今かの?今…じゃったの。」


 俺は地獄の白鬼を見た。キーナルメナンも見た。


 振り返った幼女を見下ろす漆黒の瞳は全てを見透かし、惚けるなら覚悟しろと言っているようだった。多分幼女もそう感じていた。

 そしてイベントを諦めたのじゃ、といった感じの悲しい顔をしていた。今回ばかりは同情するよ。めちゃめちゃ恐かったもん。


「よし、折角だから皆で食べるかの。ピューヒエルも食べるなら出て来るのじゃ。」


「当たり前だぎゃ!食べるぎゃ!おれっちが取ってくるんだからメナっちと食べるに決まってるぎゃ!」


 出たな鎧鳥め。メナっち……キーナルメナンはメナっちだったか。


「ピューヒエルが用意してくれるんですね。てっきりメナっちがやってるのかと思ってましたよ。」


「メナっちは止めるのじゃ。」


「レイ様。メナっちはメナっちと呼ばれるのが好きでは無いようなので気を付けて下さい。そうですよね?メナっち?」


「ど~ったんぎゃ?メナっちはメナっちぎゃん?」


「や……止めるのじゃぁ。」


 あっ、また涙目。ハート弱すぎだろ。まぁリョカ姉さんやピューヒエルまで弄りだしたら味方いないからな。まぁピューヒエルは天然だろうが。

 なんか流石に可哀想になってきた。普段偉そうにしてるのに小さくなっちゃってる。


「分かりました。キーナルメナン様、お詫びにもう一つ甘味を紹介します!」


「ほ、ほんとかの?!」


 チョロインなのかなぁ。でも容易く復活してくれたみたいで嬉しいな。


「クイニーアマンにも合いそうなのは……バニラアイスですかね。ねぇピューヒエル。2つ行けそう?」


「馴れ馴れしい奴ぎゃ!でもお前キモいから嫌いじゃないぎゃん!疲れるけどメナっちの為に頑張って来るぎゃ!!」


 そういってピューヒエルはどこかへ消えていった。


めちゃくちゃ暗い話を書こうと思っていた時期がありました……。


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