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魂 第四話 背の高い聖杯




「…………はぁ。ここ知ってる。」


 真っ暗だよ。やっちまったなちくしょう!!!完全に死んだよこりゃ。ダイアの奴め、俺を利用しやがって。悪女にも限度があるだろ


 ゆっくりと開いた瞳は何も捉えることは無く漆黒の闇だけが広がっていた。

 フワフワとした感じからして今の俺が魂状態な事には間違いない。


 それにしてもまた意識があるぞ。これが魂のせいだとしたら、意識あるまま無限に転生を繰り返す事が出来るというある種の不死と変わらんのじゃね?


「また地獄の門へ向かっていけばいいのか?」


 暗闇の中、何故か場所が分かる地獄の門を目指してフワフワ進みながら、ふとバロンとニコの事を想い耽る。


「二人とも無事かな。俺のことを探しに来てたらやばいからな。俺を殺してあいつらが素直に帰ってるといいんだけど。」


 今更どうにもならないことは分かってる。だけど二人は俺の恩人……恩ゴブだから考えずにはいられなかった。

 もしこのまま以前のように記憶を残したままモルフィーナへ転生が可能なら、必ず会いに行こう。

 ゴブリンになれなかったとしてもきっと二人なら俺だって気付いてくれる。


 信じる想いを確信し、歩みは早くなる。足は無いけど。


 すると暗闇の中に小さな光が見えてきた。


「あれは門……じゃないよな。」


 前回とは違った光景に少し不安になったが、感覚が目指す先はその光だったのでそのまま進んでいった。


「お待ちしておりました。レイ様。」


「リ、リョカさん!!なんでこんなところに?!」


 辿り着いた先には和服白肌美鬼のリョカ姉さんが立っていた。光の正体はリョカ姉さんが手に持っていた提灯だったのね。


「キーナルメナン様の命によりお迎えにあがりました。」


 …………そうですよねー。何となくリョカ姉さんが見えた辺りからそんな気はしてました。


「キーナルメナン様の申し出により死役所特別死者課からレイ様専属の魂管理者となりました。特別な形での出世ではありますが、仕事人の私としては暇で暇で仕方ありません。沢山死んで私に仕事を与えることを希望しております。」


 リョカ姉さんは過去に無い程に流暢に喋り、無表情に溜め息を溢した。余程暇を持て余していたのだろう。少しつり目でキツい印象を持たせる顔立ちが辛辣な台詞と相まって、一つの芸術のように見えて感動した。

 あれ?もしかして俺ってドMなのかしら?


 言いたいことを言ってすっきりしたリョカ姉さんは、背筋をピッと伸ばし仕事モードな顔に変わる。無表情には変わりないけど。


「失礼致しました。ではさっそくキーナルメナン様の元へ参りましょう。」


 参りましょう。ちょっと待て……嫌な予感がするぞ。


「では、失礼致します。」


「アバババババッ!!!!」


 リョカ姉さんは以前よりも手加減抜きで俺魂に手を突っ込むと、より過激にアバババしながら転移していった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「はぁっはぁっはぁ。ちょいとリョカさんや、手を突っ込まれるとめちゃくちゃ痺れるんですけどそれってどうにかなりませんかね?」


「痺れるというのが理解しかねますが……それに移動するのにレイ様と接触しなくてはなりませんので手の施しようがありません。」

 

 例の如く白い世界にぶっ飛んできた俺はリョカ姉さんにアババ回避を打診してみたが、何言ってんだこいつみたいな目で見られた。

 何で俺だけアババなるんだろうか。


 そんなことに頭を悩ましていると、どこかでガチャリと扉の開いた音がした。


「ぷふぉ。」


 ……きた!!!


「キーナルメナン様、お待たせ致しました。」


「よいよい、気にするでない。我は機嫌がよいのだ。」


 あれ?一人称変わってね?語尾も違うし。


 リョカ姉さんが頭を下げた方を見ると性悪幼女が腕を組み見下ろすように見上げていた。

 何やら荘厳な出で立ちといったような雰囲気を醸し出している。管理者モードとかそんな感じなのかな。


「レイよ、良く来た。我は嬉しいぞ。」


「ども。」


「我を覚えているか?」


 何を言ってるんだこいつ。ボケちまったのか?


「はぁ、管理者のキーナルメナン様ですよね。」


「ぷふぉ。ぷぷ……違うな。我は魔獣ゴブ・イフリートである。頭が高いぞ人間よ。ぷふぉ!!」


 くっ……こいつやりやがった。やっぱりストーキングしてやがったな!!

 しかも辱めるためだけに一人称と語尾まで変えてたのか。

 くっ……満足そうな表情でモノマネしてやがる。本格的に性悪道に足を踏み入れやがった。


「確かに………ゴブリンみたいな顔してますね。」


「ふ、ふざけるでない!!!余があんな醜悪な顔をしているものか!!此程にも可憐でふにふにの顔立ちがゴブリンに見えるなどとは、レイの目は潰れてよる!!節穴じゃ!!やーい、レイの目は節穴じゃ~!!!」


 脆い、容易い、その上幼稚。こいつはアホなのかな。こんな奴に俺の転生がかかってるのかと思うと恐怖以外の何ものでも無いな。


「レイ様、戯れが過ぎます。お気を付け下さい。」


 更に追い込もうかなと悩んでいると、リョカ姉さんの言葉に我に返る。

 俺の名前の一件からしてキーナルメナン至上主義の可能性があった事を思い出し、このままではアバられると思ってリョカ姉さんを見る。

 すると無表情ながらも、僅かに口角が上がっていた。

 これは……絶対笑いを(こら)えてるぞ。


「すみませんでした。」


「分かれば良いのじゃ。ところでモルフィーナへの転生はどうじゃったかの?満足したかの?」


「まぁ色々と驚きはありましたけど、最終的には仲間も出来たんで良かったです。終わりは最悪でしたけど……ってあれ?」


 いつの間にかテーブルとイスが出現し幼女が腰掛けていた。おまけにティーセットまで用意されている。


「キーナルメナン様、私が。」


「よいよい。二人ともこっちへ来るのじゃ。折角だから一緒に茶でもどうじゃ?」


「あー、ありがとうございます。」


「いえ、私はここで充分でございます。」


 俺は遠慮無く座った(浮いてる)が、リョカ姉さんは遠慮して幼女の後ろに待機した。

 だがそれを見た幼女がイスから下りると、リョカ姉さんを無理矢理座らせていた。


「ほれ、これも食べてみよ。クッキというお菓子じゃ。」


 クッキーね。魂の俺でも食えるのかなと思ったら普通に食べることが出来た。しかも味覚も存在している事に驚いた。


「お、美味しいです!」


 リョカ姉さんは目を見開きクッキーに感動していた。食べたこと無いのかな。


「うまかろ?これはレイのいた地球の食べ物じゃ。」


「地球……地球は甘味が進んでいるのですね。」


 そうか。ここは地球の魂だけじゃなかったな。そりゃ中々知るよしも無いか。


「リョカはまだまだ無知じゃの。余はこないだチヨコドーナッツとやらを食べたのじゃ。あれは悶絶じゃったの。」


 ちよこって誰だよ。チョコだろ。確かにクッキーで甘いと感動しているリョカ姉さんがチョコレートソースのかかったドーナツを食べたら悶絶だろうな。


「悶絶……ですか。……ごくり。」


 可愛いなリョカ姉さん。甘いのに目が無いのか。


「レイよ、他に甘味を知らぬかの?」


「レイ様。キーナルメナン様が新たなる甘味をご所望です。お答え下さい……即座に。」


 リョカ姉さんの目が据わってる……。死を連想させる瞳だ!死んでるけどな!!!これは本気で外せないぞ。即座に外せないぞ!!きっと外せばアババされるぞ!!!


「チョコレートが気に入ったのなら、チョコレートパフェなんてどうでしょう?」


「チョコレートパフェ?……ごきゅり。」


 ごきゅり頂きました-!!!!


 つーかリョカ姉さんや。幼女を差し置いて反応を示していいのか?


「レイよ、チョコレートパフェなる食べ物はどんなものだ?うまいのか?」

 

「えーと……チョコレートパフェというのは背の高いグラスに甘味の薄いクッキーのようなものが底にあって、更に果物などをその上に乗せて、アイスクリームやチョコのお菓子とかも乗せて、最後にチョコのソースをかけてある感じですね。」


「なるほどの。要するに背の高い聖杯に全部乗せといったところかの。」


「想像しただけで……じゅるっ……失礼致しました。想像しただけでキーナルメナン様がお気に召しそうな全部乗せですね。レイ様、直ちにご用意して下さい。」


 リョカ姉さんのキャラが崩壊してるぞ。いいのかそれで!?


「リョカよ、大丈夫かの?ほれほれ。」


 ほれみろ!幼女にもバレてるぞ!!!

 なんてったってキラキラとした聖なる液体が口元から垂れてるからな!!!


 幼女の可愛い花柄のハンカチでヨダレを拭われるリョカ姉さんは少し恥じらった表情だった。ご馳走様です。


「リョカよ、一旦落ち着くのじゃ。取り寄せは余の裏ルートでなければ出来ぬ。余に任せよ。」


「は、はい!キーナルメナン様!!」


 えっへんと腰に手をあて偉ぶるキーナルメナンに、リョカ姉さんは尊敬の眼差しを向ける。よくわからん。


 するとおちゃらけた表情を一変させキーナルメナンは目を閉じた。どんなことが起きるのか正直ドキドキするぞ。


「甘味と共に生きる可憐過ぎる余に、犠牲となりしレイの残念さを捧げよ。出でよチョコレートパフェ!!!!!」


 ふざっけんじゃねー!!!なんだそのくだらねぇ詠唱は!!!!喧嘩売ってんのか!!!!ぜってぇその詠唱いらなかっただろ!!!!


「あー、犠牲となりし……ってあれ?!」


 詠唱について抗議すべくキーナルメナンを見ると、なんとすでにテーブルの上にパフェが誕生していた。

 名付けるなら、犠牲となった残念さを捧げたらしい俺のパフェってところだな。


「これが……伝説のチョコレートパフェですね。」


 伝説じゃねーし。普通のパフェにしか見えねーし。リョカ姉さんの目は節穴じゃの、ぷふぉだよ。


「ぷふぉ。リョカよ、ヨダレが垂れてよる。ほれほれ。」


 またしても拭かれてるよ。だめだこりゃ。収集つかねーや。


「透き通る聖杯に様々なものが見えます。見たこと無いものばかりです。ヌラリクの枝のようなものが刺さっておりますね。」


 ポッキーね。ヌラリクの枝ってのが気になるが、それ以上にキーナルメナンから受け取った可愛いハンカチで口元を押さえてるのが気になって全く集中出来ない。


「テーブルがヨダレまみれになる前に食してみるのじゃ。ほれ、これに取り分けよ。」


 キーナルメナンがリョカ姉さんに器を渡して取り分けるように指示を出した。ナイスアシストだ駄幼女!!!


 それを受けてすぐさまリョカ姉さんは取り分けていく……取り分けて……ってあれ?


「リョ、リョカよ!!おかしいのじゃ!!余の分が少ないのじゃ!!!」


 うん、少ないね。2対8だよこれ。逆かと思ったよ。主従関係がおやつで崩壊したよ。


「キーナルメナン様。レイ様を信用なされ過ぎてはおりませんか?ここは私が毒味役として全ての食材を確かめますので、キーナルメナン様はご安心下さい。じゅるり。」


 ヨダレ拭いてんじゃん、確信犯だろ。ってか失礼過ぎるだろリョカ姉さん!!!


「そ、そうか……そういう事なら残念じゃが少なくても仕方ないの。ほれ、早速食うてみい。」


「いただきます!!!!!……っ!?」


 声でか!!!気合入りすぎだよ!!!

 泣いてる!!!リョカ姉さん泣いてるよ!!!凜とした素敵な和服白肌美鬼はどこいったんや!!!!


「うまうまでしゅ~。こんなのはじめてなの~。ヌラリクの枝は甘かったぁ~。このちゅめたいのが甘い~。とろける~。」


 頬を抑えクネクネと揺れている。凜として美しいリョカ姉さんは最早キモいヤバい人レッテルで確定だ。………過去のリョカ姉さんは心の奥深くにある倉庫へと仕舞い込み鍵をかけよう。


「そんなにうまいのか!?ならば余も食べ…あっ!!やめるのじゃ!!リョカよ、それは余の分なのじゃ!!!やめっ、うにゃーーーー!!!!!!」


 自分の分を小脇に抱え、リョカ姉さんは残像を残して姿を消した。俺が気付いた時にはキーナルメナンの器は一滴のチョコレートソースすらも残すこと無く空になっていた。


「落ち着いて下さい。キーナルメナン様の器に毒が盛られているのかと考えた上での行動です。うまうま。それにキーナルメナン様はレイ様が居られぬ時に何時でも食する事が出来ますね?」


 最早脅迫とすら取れる瞳で本音を隠しながらだだ漏れしているリョカ姉さんは尊敬に値する。

 キーナルメナン至上主義はどうやら俺の気のせいだったようだ。

 そしてチョコレートパフェが気に入ってもらえたようで何よりです。


「ぐぬぬ-。………ぷふぉ、余は大人じゃて。リョカの気持ちを汲んでやるかの。それにリョカの言うとおり余はいつでもチョコレートパフェを食する事が出来るのじゃ。二人が居なくなってからゆっくり食するのじゃ。ぷふぉ。」


「……ちっ。」


 こんな虚しい感じのぷふぉは初耳だな。

 しかし今はそんなことはどうでも良い。


 リョカ姉さん……舌打ちは駄目だよ。




魔法が使えたら雪かき何てせずに済むのに。


魔法少女ドキマギになりたい……。

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