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第19話・御嬢様と裏切りの連鎖

「「…。」」


先程までのボケとツッコミの応酬はどこへやら…カイナとカルマはお互い冷たい氷の刃の様な鋭い眼光を光らせ、両者共にそれぞれの『武器』をチラつかせ、牽制し合う…。


(クッ…この人…!)


(ふーん?この娘…。)




((…出来るッ!!))




強敵、否…最早ここまで来ると宿業の如き縁さえも感じ取った二人はどうやらお互いに相手を認めざるを得ない、そう確信した…。


一方、キリサに追いかけられているリクスと三人の野郎共はというと…。


「まぁああああてぇええええええええーーーーッ!!」


「「「ぐぇえええええ!!?」」」


「「「やめてくれぇええええ!!」」」


キリサは自身の見目麗しい美女の顔が人鬼(オーガ)族や般若(ハンニャ)族でもしないような鬼の形相に歪ませて、部下の韋駄天(イダテン)族達以上のスピードでメギドの町中を爆走し、邪魔な通行人達を次々と斬り捨て御免しながらリクス達を追跡していた。


「さっきの連中の非ではない超スピードだッ!!」


「しつけぇえええッ!!見た目だけならオレ好みの爆乳美人なんだけど、しつこい女はタイプじゃねええええッ!!」


「このバカッ!!非常時のスケベ心は死を招くぞッ!?」


「むしろ死ねッ!だぁあああああ!もぉおおおおお!!何一つ事態は好転してねぇえええええ!!むしろ悪化したぁあああああ!!」


キリサのスピードは持てる限りの力で全力疾走するリクス達の内の誰かを余裕で確実に捉えられるほどのものであった。尚、ギャスクが何か死亡フラグが立ちそうな予感のするバカな発言をしてしまったためにバンホーとテラーに盛大に突っ込まれたが気にしてはならない…。


「ンフフフフッ!!さあ誰から八つ裂きにしてやろうかしらぁあああああ!?」


「「「ひっ!?ひぃいいいいいい!!」」」


鎌に変化させた刃を振るい野郎共の背中に触れるか触れないかというくらいに絶妙なスレスレ具合で掠めさせるキリサ、いよいよ限界まで追い詰められたせいか野郎共から町中に響く程の情けない悲鳴が上がった。


(チクショウ!も、もう限界だ!!こうなったら…!!)


(コイツらの誰かを生け贄にして…!!)


(絶対に逃げ切ってやるゥウウウウ!!)


此処であろうことか全く同じタイミングで他人を犠牲にしてでも自分だけ助かりたいという実に魔族らしいクズな名案に至ったクズ野郎三人…この場合即判断、即行動に移せぬ者から真っ先に死ぬ。殺さなければ、殺さなければ…自分が殺られる…




瞬間、犠牲になった愚図は…。




「許せぇえええ!!バンホー!!」


「会ったばかりで恨みは無いが俺達のために死んでくれ!バンホー!」


「皆のために犠牲になってくれ!ギャスク…って?あらぁああああ!!?テ、テメェらァアアアアッ!!」


二対一…満場一致でまさかのバンホーが犠牲となり、ギャスクとテラーは罪悪感で一杯の台詞とは正反対にドス黒い邪悪な笑みを浮かべて彼をなんら躊躇いも無く突き飛ばしてスッ転ばし、キリサへの生け贄として捧げた。ちなみにバンホーは種族間の争いが解決したのをキッカケに今では悪友の様な関係になったギャスクをいとも容易く犠牲にしようとしていたためお互い様であった。


「す、すまない、バンホー…お前のことは決して忘れぬ、無事に全てが終わったらヴァジュルトリア家総出で盛大な葬式を挙げてやろう…。」


「いやー♪悪ィ悪ィ♪永久にあばよ、バンホー♪ギャーハハハハハハッ!!」


「恨むなら自分の運の無さを恨んでくれ…ブフッ…クククッ…!!」



「ふっ、ふっざっ…!?フザケンナッ!!一生恨んでやる!御嬢様はともかくテメェら二人は絶対ェ殺してやるゥウウウウ!!」


一切振り向きもしないものの申し訳なさそうに暗い表情でバンホーの犠牲を惜しむリクスとは対照的に振り向きながら品もなく笑い飛ばすギャスクと笑いを堪えるテラーの二人を見ながら転んだ拍子に地に伏したバンホーは中指を立てるファッキンポーズを取りながら怒りの絶叫を響かせ、必ず二人に復讐してやることを宣言した。


「あらあら?ンフフ~♪仲間から見捨てられるなんてツイてないわね♪」


「うぉおおおおん!!もう仲間じゃなくなったよッ!チキショウッ!!」


「解体した暁には骨付き肉にしてお肉屋さんに売り飛ばしてあげるわ♪と、いうわけでサッサと逝きなさーい♪」


「優しく殺してぇええええええ!!」


残念、無念…無慈悲、無惨…起き上がることすら許さずにキリサは既にゼロ距離まで詰め寄ってきていた。ギャスクとテラーから見捨てられたショックのあまり見苦しい泣き顔を晒すバンホーの不運を嘲笑いながらキリサが腕の鎌を振り上げ、彼の無防備な胸元を切り裂い…。





「…って、あ、あらっ!?な、なによ!これぇええええええ!!?」


「え?あ?え、え…?えぇええええええー???」




…て、なかった…。キリサの鎌の刃はバンホーの肉体に直接届くこと無く、古象人(マンモス)族特有の毛むくじゃらな全身の体毛に絡まってしまっただけだった。この信じがたい出来事にキリサは勿論の事、バンホーでさえも何が起きたのかサッパリだった。


「この…!?離せ!離しなさいよ!このもじゃもじゃあああああ!!」


「だ、誰がもじゃもじゃだァアアアアッ!!?」


「あ、あぁっ!?そんな…両手が抜けない…!!いやァアアアアッ!!?離してー!!離してよぉおおおお!!」


「ちょっ…!?暴れんな…!暴れんな…!!バカか、アンタは!ますます絡まるだろ………ん?ぐふぉっ!?これは!この状況はァアアアアッ!!?」


これまでありとあらゆる物を全て切り裂いてきた淫蟷螂(エンプーサ)族が誇る鎌で切り裂けない物があるなんて事実を認めたくないあまり、キリサはもう片方の腕も鎌に変化させてバンホーの胸部に突き立てるも此方の方も彼の体毛に絡まって外れなくなり、完全にパニック状態になった彼女は両手でバンホーと正面から抱き合うような密着状態になってしまい、必死にもがけばもがくほどにキリサは自分の意思とは無関係に自慢の爆乳をこの毛むくじゃらに惜しみ無くギュウギュウと押し当てるという無料サービスを提供する羽目になり、対してバンホーはというとは興奮のあまり赤面し、長い鼻から血の噴水を噴き出した。


「外れない!外れないよぉおおおお!あああああん!助けてぇええええええ!カルマ御姉様ァアアアアッ!!」


「し、死ぬ…別な意味で…!!こ、このままではァアアアアッ!!」


「バンホー!テメェエエエエエ!?ふっざけんなァアアアアッ!!この毛むくじゃらァアアアアッ!!悪かった!さっきは悪かった!だから今すぐそこ代わってくれぇえええ!!ああああああああああ!!」


「べ、別に?オ、オレは…おっぱいとか?興味あるわけじゃないし…?いや、でも…その…クッソ羨ましいィイイイイイ!!チクショオオオオオオ!!ウォオオオオオオオオ!!」


この場にいない姉のカルマに助けを求めながらボロボロ涙を溢し出したキリサに密着され、切り裂かれる危険は無くなったものの新たに出血多量で死ぬ危険に晒されてしまったバンホーを見て彼を見捨てたギャスクは本気で悔しがり、テラーは興味のない風を装うもののやはり彼も男…羨ましかったらしく二人揃って地面に繰り返し繰り返し拳を叩きつけて嫉妬の血涙を流し、助平心全開で魂の限り叫んだ。


「…?こいつらは一体なんで鼻血を噴き出したり、泣き喚いているんだろうか…?」


尚、一人取り残されたリクスはというと性的な事に関してかなり疎いせいか?バンホーの出血とギャスクとテラーの下心丸出しな見苦しい醜態を見てもその理由がまるで理解できなかった…ちなみに彼女の胸はあまり発育はよろしくなく、慎ましいサイズの可愛らしい貧乳おっぱいであることは決して触れてはいけない。


「ええぃ!悪いがちょっと寝てろッ!!」


「へ?へぶぅうううう!!?」


「「なんて勿体無い!?」」


これ以上は埒があかないと判断したバンホーはその場で軽くジャンプした後にその巨体を活かしたボディプレスでキリサを押し潰して気絶させた。助平野郎二人は何か言っていたが気にしてはならない…。



その数分後…。



「う、んん…?え?あ、あれ…?私、一体…?」


「気づいたか?殺し屋。」


「この!殺してや…うっ!?う、動けない…!そ…そんな…。」


気絶したキリサが目を覚ますと目の前に標的であるリクスが堂々と仁王立ちしていたため食って掛かろうとしたが縄で縛られていることに気づき、この屈辱的な扱いのあまりに力無くその場に崩れ落ちる。一方…。


「いや、あの…その?バンホーさん?いや、バンホー様!?ま、待てよ!なぁ?俺達ダチだろ?種族の垣根を越えたさぁ…!お願いだ!許してくれぇええええええ!!」


「すみませんでしたァアアアアッ!!いや、悪気は無かったんだよっ!?だから少し話し合おうかッ!?なっ!なぁっ!?」


「俺を見捨てただけでなく、人の胸毛こんなにしておいてよくもまぁ…。」


バンホーを早々に見捨てたギャスクとテラー、二人の最低野郎は地面に額を擦りつけて土下座しながら全力の謝罪(いのちごい)をしており、被害者であるバンホーはというと体毛に絡まったキリサを引き剥がすために胸毛をクズ共に無理矢理引き千切られてしまい胸の部分のみがハゲて素肌剥き出しという状態になってしまい、冷めたい怒りの視線を向けていた。


「全く…ギャスク、テラー…仕方ない奴等だな…。」


「え?もしや…!!」


「許してくれ、る…!?」


途中から妙に優しい声に変わり、その変化を見逃さなかったギャスクとテラーは瞬時に面を上げて様子を伺ったが…それがいけなかった。


「…ンなワケねぇだろうがァアアアアッッ!!バァーアアアアカッ!!」


「「ごぶぁあああああ!!?」」


「ゴミはゴミ捨て場だろうがッ!!マヌケェッ!!」


普段は温厚で気さく性格の彼でも流石にこれはダメだった。先程二人に見捨てられた時の宣言通りにバンホーは青筋を浮かべて怒号を発しながらギャスクとテラーの後頭部を鷲掴みにし、全力でお互いを叩きつける様にカチ合わせるという制裁を下し、二人の汚いツラを汚い赤で染め上げてそこら辺にあったゴミ捨て場に投げ捨てた。


「ひ、ひぃいいい!!お願い!こ、殺さないでくださいィイイイイイ!!」


「いや、ダメだろ?それはダメだ。私を殺そうと依頼された癖に何を都合のいい妄想をほざいているんだ?」


バンホー怒りの鉄槌を目の当たりにしたキリサは『自分もあんな目に遭うのでは?』という恐怖に駆られ、打ち捨てられたゴミクズ野郎二人の様に彼女も地面に額を擦り付けて許しを乞うも当然ながらリクスは即座に却下した。自分の命を狙う様な奴を許す気など最初から無いのは言うまでもなかった。


「しくしく…助けて、カルマ御姉様…うっ…うう…。」


「さて、カイナはどうなったんだ…?」


「無事だといいんですけどねぇ…。」


「あー…あぅうううう…おぉおおおおい…」


「待っでぐでぇえええ…。」


縛られてる上に魔界の市場に売られている奴隷の様に首輪を付けられたキリサは悲しい声でシクシク泣きじゃくりながらリクスとバンホーに引っ張られる形で抵抗する気力もなく大人しく連行されていく。ちなみにくたばり損ない二人は満身創痍の血塗れボロボロ状態で腐屍(ゾンビ)族の様な低い死にかけの呻き声を発して足をズリズリ引き摺りながらその後をついていく。


リクス達がカイナと最後に別れた場所に辿り着くとそこで見たものは命懸けの死闘を繰り広げている二人…。




「フフン♪どうかしら?私の自慢の秘蔵のコレクション!可愛い可愛い私の妹のキリサの魅力を余すこと無く詰め込んだ最高の思い出のアルバムよ!」


「こ、これは…!!確かに凄いですが…私が最近集めたリクス様のごく自然なありのままの姿の魅力をお納めした写真の数々だって負けてないです!!」


「「「「「…え?」」」」」


…そのハズが、何故かお互いの身内のあられもない姿を納めたとんでも媒体の見せ合いをして熱く自慢していたカルマとカイナの姿がそこにあった。カルマは際どい水着姿やバニーガール姿といった殆んど着せ替え人形状態のキリサの写真で埋め尽くされたアルバムを、カイナに至っては本人の許可無く勝手に盗撮した入浴時の全裸姿や着替えの途中過程を納めた写真を見せていたため、五人は思わず絶句した。


「あらヤダ!この娘、こんなに可愛かったんだ…?フフン♪や、やるわね…アナタ!私、カルマ・デスサイザー…アナタは?」


「カイナ・ハバキリ…あぁ、貴女とはなんだか仲良くなれそうです…♪」


「ええ!私達、似た者同士で同志よ!!」


「カルマ御姉様ァアアアアッ!!?何故ぇえええ!!」


「カ、カイナ…?な、なにをしている…なにを言っているんだ…?」


似た者同士で意気投合して熱い握手を交わすカルマとカイナ、二人の身内のまさかの最低過ぎる和解に目の当たりにしたキリサは悲痛な咆哮を上げ、リクスはどうすればいいのか解らずオロオロ困惑していた。どうやら裏切り者は此処にもいたようだ…。


「あら?キリサじゃない♪丁度良いわ♪これからちょーっと、そこの御嬢様と一緒にお着替えしていかない?」


「フフッ♪リクス、様…♪私が、貴女をもっと、もっと…可愛くして、あげます…♪」


「「ヒッ…!!?」」


目のハイライトが消え…うっとり、ネットリとした恍惚の笑みを浮かべたカルマとカイナはただならぬ気配と嫌な予感を感じ蛇に睨まれた蛙の如く体が硬直して動けないキリサとリクスににじり寄り、歪んだ欲望だだ漏れでその魔の手を伸ばす…。



「ごめんなさい!ごめんなさい!御姉様!ごめんなさいィイイイイイ!!それだけは…それだけはァアアアアッ!!嫌ァアアアアッ!!ゆ、許し…助けて!誰かァァアアアアッ!!」


「うふふ♪ダメッ♪」


「や、やめてくれ、カイナ…私がお前になにをした?あれはもう嫌なんだ…頼む…やめろぉおおお…。」


「貴女が、貴女がイケないんです…!そんなに、無防備で愛らしいから…!!」



「。」


「「やめろぉおおおお!!埋めるなァァアアアアッ!!」」


キリサはカルマに、リクスはカイナに首根っこを掴まれてズルズル引き摺られながら、木乃伊(マミー)族の経営している店に連れ込まれ、中で卑猥且つ猥褻なファッションショーに興じるというまさかの決着にバンホーは化石の様に固まりつつも、殆んど不死魔族(アンデッド)と化している腐乱死体一歩手前のド腐れ二人が助平野郎の本能故に彼女達の後についていくだろうと瞬時に悟ったため無言でその場に埋めていた。





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